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【完結】囚われ王女のあずかり知らぬ最強な日々  作者: さき


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14:白い便箋

 


「ねぇ見て、ヴィンス。とても素敵な便箋だわ」


 離れに戻ったクレアは便箋を机に広げ、その美しさに感嘆の声を漏らした。

 白い紙には花の箔押し。紙質も良くて触ると心地良い。思わず猫を撫でるように紙の表面を数度撫でた。

 さっそくとペンで文字を綴ればするするとペン先が滑らかに動く。上質な便箋というのは触り心地も良ければ書き心地も良いようだ。


「お父様とお母様が心配しないよう、こちらで元気に過ごしていることを伝えなきゃ。こんなに素敵な便箋で『元気です』と綴るんだから、きっと直ぐに安心するわね」

「離れに閉じ込められています、とは書かないんですか?」


 紅茶の準備をしながら告げてくるヴィンスに、クレアはペンを片手に「もう」と不満交じりに咎めた。

 確かに閉じ込められてはいる。だがそれは建前上だ。

 扉には南京錠もなく、あるのは内側からの施錠のみ。鍵は二本あり、一本をクレアが所有し、もう一本は王宮で厳重に管理されている。施錠に関しては一般的な家屋とさして変わりは無い。


 つまり、外に出ようと思えばいつだって出られるのだ。現に、離れの周辺の散歩は自由に出来ている。

 仮に壊れない頑丈な南京錠を着けられたとしても、窓を開けられるのだから窓から外に出たっていい。最初にユーリが話していたようにクレアを閉じ込めるのは周囲を納得させるための形だけのもの。

 そもそも、この離れは第三王子の別荘になる予定の建物だ。人を閉じ込めるには適していない。


「それに、ヴィンスだって一応私と一緒に閉じ込められている事になっているのよ。毎日外に出てるじゃない」


 そうでしょ? とクレアが問えば、ヴィンスが肩を竦める事で肯定してきた。


 乳兄弟の近衛とはいえさすがに王子の婚約者が異性と二人で生活するわけにはいかず、ヴィンスは離れの裏手にある小屋で生活している。

 別荘に住む王子を守る警備達の詰め所として設けられた建物。別荘同様、こちらも数日でお役御免となり今に至る。


 興味があって前に覗かせてもらったが、こちらも一般家屋とさして変わりのない十分な設備が整っていた。むしろ一人で生活するには広すぎる程だ。

 彼はその小屋と離れを行き来し、時にはフリーデルや他の騎士達と共に訓練をしている。自由きままとは言わないが、それでも閉じ込められているとは言えない。


「今の私が『閉じ込められている』なんて書いたら、本当にどこかに閉じ込められている人に甘いって文句を言われるわ」

「その人はクレア様に文句を言う前に脱出すべきですね」

「それもそうね。とにかく、手紙には快適な生活を送っているって書かないと」


 事実、クレアは今の生活を快適に感じている。

 遠出する時こそ申請が必要だが、どこに行きたいと訴えてもユーリは嫌な顔一つせず馬車を出してくれる。

 食事は通いのメイドが作ってくれるし、自分で作りたいと話せば材料を調達してくれる。――先日シチューを振る舞ったところ、ユーリは嬉しそうに食べてくれた――。

 衣服も十分過ぎるほどに用意されており、それどころか「足りないものは?」と常に聞かれている。

 いまだ両陛下や他の王子達には挨拶出来ていないが、『結婚を待たせている弱小国の王女』にとっては有難いほどの厚遇ではないか。


 そんな自分の生活を思い返しながら手紙を綴り、ふとペンを止めた。


「……ユーリ様はとても素敵な方だわ。どうやって書いたら良いのかしら」


 呟き、小さく吐息を漏らした。


 ユーリの姿が脳裏に浮かぶ。先程会ったばかりだからか鮮明で、声も実際に目の前で話しかけられたかのように思い出せる。

 銀色の髪と翡翠色の瞳。美しい色合いだ。目を細めて穏やかに微笑むと落ち着きを感じさせ、楽しそうに笑うとあどけなさを見せる。

 魔法を見せると瞳を輝かせて凄いと褒め、そして自分がいかに魔法に憧れていたかをまるで子供のように嬉しそうに話してくれた。

 好きなものの事になると熱くなるのだろう。魔法への憧れを語り、そしてはっと我に返ると恥ずかしそうにする。その時の彼は年上だと分かっていても可愛いと思える。


 平和を望み、子供が好むような童話に理想を抱く、『夢見がちな王子様』と自らを語っていた。


「ユーリ様が『夢見がちな王子様』なら、私は『魔法を使う王女様』ね。なんだか童話みたいで素敵だわ」


 うっとりとクレアが呟き、吐息だけでは足りないとペンを机に置いて胸を押さえた。

 彼のことを考えると胸が暖かくなってくる。それでいて今そばに居ないことが寂しくもあり、次はいつ会いに来てくれるだろうと考えると寂しさが期待に変わる。

 以前は『一日に一度は顔を見せる』と言っていたが、最近では日に一度どころか頻繁に離れに来てくれるようになった。今この瞬間にももしかしたら……、とそんな事を常に考えてしまう。

 寂しさと期待が入り混じり、扉のノック音が聞こえると胸が弾む。目まぐるしくも心地良い感覚だ。


 そんな中、カチャンと高い音が響いてクレアは我に返った。

 テーブルに置かれたティーカップがたてた音だ。中には紅茶が淹れられており、ふわりと湯気が立っている。

 もちろん用意したのはヴィンスである。彼はクレアが我に返ったのを見ると「考え事の最中に失礼しました」とわざとらしい謝罪の言葉を口にしてきた。

 その露骨な態度の言わんとしている事など考えるまでも無い。だが言及するのは恥ずかしく、クレアはコホンと咳払いをする事で誤魔化した。


「ヴィンス、便箋は余分にあるから貴方も手紙を書いたら?」

「いえ、俺は遠慮します。どうにも手紙は苦手なんで、『元気にやっている』と一言添えてください」


 ヴィンスの態度はあっさりとしており、試しに「せめて自分で一言書いたら?」とペンを差し出しても受け取ろうともしない。手紙が苦手、というのは本当なのだろう。畏まって両親に言葉を綴るのがどうにも恥ずかしいらしい。

 これに対してクレアは「まったく」と呆れの言葉を返した。先程の仕返しもかねて少し大袈裟に。

 だがヴィンスが小まめに手紙を書く性格ではないのは分かりきっている。むしろ彼が意気揚々とペンを取って長々と手紙を綴ったりなどしたら、彼を知る者達が逆に何かあったのかと不安に思ってしまうかもしれない。


「ユーリ様の近衛騎士がヴィンスと同年代で、とても親しくなったと書きましょう。そうすればきっと貴方のお母様やお父様も安心するわね」

「はい。お願いします」


 ヴィンスに託され、さっそくとクレアは再びペンを手に取った。

 そうして書き進め、時にユーリの事を思い出して吐息を漏らし、ペンを置き、胸を押さえ、またペンを取り……、と繰り返し、穏やかに暖かく文字を綴っていった。



 ◆◆◆



 翌日、約束した通りユーリに手紙を渡す。

 申し訳なさそうに「人の手紙を読むなんて失礼な事を」と謝罪をしてくる彼を宥め、少しでも気分が晴れるようにと暖かな紅茶を出して焼きたてのクッキーも添えた。

 そうしてユーリが手紙を読み進めていくのを、クレアはじっと見つめていた。


 あれも伝えたい、これも伝えたい。

 そんなクレアの想いが詰まった手紙は便箋三枚という長文になってしまった。

 ただでさえ読むには長い。それもユーリはただ読むだけではなく、暗号が隠されていないかを確認しなくてはいけないのだ。


 まずは一度読み、次いで咳払いをして紅茶を一口飲むと、今度は隠されたメッセージは無いかと念を入れて文字を目で追っていく。文字だけではなくその裏をも読み解こうとする真剣な眼差しだ。

 だが真剣な眼差しで便箋を凝視しつつも、時折は紅茶を飲み、三度目に読み直す際にはその前にクッキーを食べて軽く談笑を挟んでいた。

 その時の彼はどこか気恥ずかしそうで、それでいて嬉しそうで、緩んだ表情を浮かべていたかと思えば表情を引き締め便箋へと向かう。そしてむぐと口を強く引き締めて便箋を読み進めている。


 ユーリの様子に、クレアは首を傾げた。

 どうやらフリーデルも異変に気付いたようで不思議そうに主人を見ている。


 暗号を探るため真剣な眼差しで手紙を読むのは分かる。だが時折表情を緩めているのはなぜだろうか?

 クレアがじっと見つめていると彼は視線に気付き、慌てたように顔を背けてしまった。その頬が少し赤くなっているのを見て、クレアはますますわけが分からなくなってしまう。


「なにかおかしなところはありますか? 近況を知らせる内容を綴ったんですが、もしかして気付かないうちに暗号を仕込んでしまいましたか?」

「い、いやなんでもない……。読んだ限り不審なところは見つからないし、このまま出しても問題ないだろう」


 ユーリが便箋を封筒にしまい「俺が責任をもって出すよ」と上着の内ポケットに入れた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初はどうなることかと思いましたが、少しづつ気持ちを重ねていく二人の微笑ましい恋模様に胸が温かくなります。 [一言]  もし王子以外も手紙を検閲するのなら、独り身の人だとちょっと気の毒かも…
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