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秘密の共犯  作者: 京泉


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6/6

静かな朝

 カーテンの隙間から、白い朝の光が差し込んでいた。

 理沙はゆっくりと目を開ける。

 昨夜のことが、まるで夢の続きのように胸の奥で揺れていた。


 枕元の時計は、もう九時を過ぎている。

 真帆は早起きだった。もしかすると、もうチェックアウトしてしまったかもしれない。


 理沙はベッドの上に体を起こしながら、昨夜の会話を思い返した。

 あの静かな告白。

 罪と赦しのあいだに漂うような時間。


──黙っていることも、罪なのかもしれない。


 そう思った自分の声が、まだ耳の奥に残っていた。


 それでも、奇妙なほど心は軽かった。

 罪の重さを共有したというより、ようやく誰かと同じ場所に立てた気がしたのだ。


 理沙は支度を整え、荷物をまとめた。

 カバンの中に手を入れると、ライブのチケットの半券が指先に触れる。

 小さな紙片なのに、確かな重みがあった。


 チェックアウトの時間が近い。

 理沙は深呼吸をして、部屋のドアを開けた。


 廊下にはコーヒーの香りと、清掃カートの音が漂っている。

 現実の朝が戻ってきていた。


 ロビーに降りると、その脇にあるラウンジに真帆の姿があった。すでにチェックアウトを終えたのか、荷物を横に置いている。

 真帆は白いカップを両手で包み、ぼんやりと外を眺めていたが、理沙に気づくと柔らかく笑った。


「待ってた。ちゃんと、お別れ言いたくて」


 理沙は一瞬、息を呑んだ。

 ——待っていてくれた。

 その事実が胸の奥に静かに沁みていく。


 近づきながら、理沙は真帆の表情をそっと観察した。

 昨夜より少し穏やかで、どこか遠くへ行ってしまいそうな透明さを帯びている。

 何かを乗り越えた人の顔だった。


「ありがとう。私も、言いたかった」


 理沙の声は自然にこぼれた。

 それは別れの言葉というより、確かに共有した夜への礼。

 理沙は小さく頷き、ポケットから半券を取り出す。

 指先に残る紙の感触が、夜の記憶を確かめるようだった。


「真帆、これ⋯⋯交換しよう。また一緒にライブに行こう。幾つになっても、おばあちゃんになっても」


 真帆は少し驚いたように目を見開き、それからふっと目尻を下げた。

 「うん」と答える声は、夜の終わりと新しい朝のあいだに溶けていった。


 二人はそれ以上、言葉を交わさなかった。

 ただ静かに見つめ合い、同じ時間を胸の奥にしまい込む。


 ホテルを出ると、光が街を満たしていた。

 人波が流れ、信号の音が現実のリズムを刻んでいる。

 真帆は駅のほうへ歩き出し、理沙は反対側のバス停へ向かった。


 もう振り返らない。

 けれど、足元に落ちる影の中で、たしかに二人の歩幅は揃っていた。


 十年ぶりの夜は終わった。

 秘密は胸の奥に沈めたまま、それぞれの日常へ戻っていく。


 風が吹き抜け、遠くで誰かが笑った。

 理沙はそっとポケットに手を入れ、チケットの端を指で確かめた。

 そこには、まだほんの少し温もりが残っていた。


 二人だけの秘密。


 そして、それを抱いたままでも生きていける。

 言葉にしなくてもわかる絆がある。

 理沙はそれを──友情と呼ぶことにした。

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