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96話 後漢の名門


 後漢末において、最たる名門一族といえば間違いなく「汝南袁氏」であると皆が口を揃えて答えるだろう。

 一門から代々、四名もの三公(朝廷の最高官位)を輩出し、政略結婚においても多大な影響力を獲得していた。


 加えてこの乱世においても、一門の異端児ともいえる「袁紹」が「大将軍」に就任し、天下の最大勢力を獲得。

 次代の天下の中心は、いや、漢に代わる王朝を築くのはこの袁紹になると、誰しもがそう感じていた。


 その袁紹が、数多の家臣団と護衛兵を並べ、一人の使者を威圧する。

 しかしそんな袁紹本人の表情は、非常に柔和で微笑みすら浮かべていた。


「使者殿、遠路はるばるご苦労であった」


「司空府主簿の楊脩が、大将軍閣下に拝謁いたします」


 そしてそんな汝南袁氏にも劣らない名門が、楊彪や楊脩に代表される「弘農楊氏」である。

 この一門もまた四世に渡って、三公のひとつである「太尉」に就任しており、楊彪は袁氏の妻を娶っていた。


 つまり袁紹にとって楊脩は義理の甥である。

 しかし二人の間にそのような親しげな雰囲気はまるでなく、緊張の糸が張り詰めていた。


「使者殿よ、長旅で疲れただろう。宿も用意している故、ゆるりと休まれよ。婿殿代理の使者である曹丕殿もまだ到着しておられぬようだしな」


「お気遣い痛み入ります。されど問題ありません。私と曹丕様の役割は異なります故、早速、本題に入らせていただきたく」


「役割が異なる、はて?」


「曹丕様は司空からの親善の使者ですが、私は朝廷からの諮問の使者に御座います。閣下は罪を疑われる身、まずは使者に相応の礼を取る必要があるのでは?」


 単身で袁紹家臣団の前に姿を表している楊脩であったが、周囲に臆すことなく堂々と声を上げる。

 緊張で張りつめた雰囲気が、敵意へと変わる。しかし家臣団は声を上げない。見事な統率力であった。


「使者殿よ、誰に向かって、罪を問うているのか分かっておいでかな? 場合によっては、侮辱ととらえるが」


「勘違いなさいませんよう。私は父に代わり、閣下の罪を晴らしに来たのです。冤罪をかけに来たのではございません」


「そうだ。父君の顔に泥を塗らぬよう、言葉を慎重に選ぶべきだな」


 僅か二十歳ばかりの楊脩が放つ才気を、袁紹は重厚な威圧で抑えつける。

 笑顔で握手をしても、心の内では敵の隙を伺う。袁家と曹家の関係性をよく表していると言えるだろう。


「それで、罪とは」


「司空は呂布征伐に赴いた際、矢傷を負い、治療を受けておられました。閣下のご息女であり、司空の奥方である袁夫人はそれを聞き、急ぎ司空の下へ駆けつけて献身的に尽くされました」


「噂には聞いていたが、矢傷は深かったそうだな。だが、婿殿が無事で何よりだ」


「問題はその後です。司空は突如、帰還の最中に刺客に襲われました。そしてその下手人は、袁夫人の女従者達であり、皆が袁家に仕えておりました。ご存じですか?」


 百官達が一様にどよめくなか、袁紹は動揺の色を一切見せずに、逆に不快の表情を見せる。

 本当に、覚えのない罪を擦り付けられているかのような態度であり、楊脩も僅かに身構えた。


「何故、私が婿殿を手にかけねばならん。あれの父である曹孟徳と私は兄弟同然の仲であり、共に董卓と戦った友でもある。勿論、疑うからには証拠は出せるのだろうな。下手人の首を、見せてみよ」


「刺客は皆、襲撃に失敗すると素早く逃げ、一人も捕縛できておりません」


「話にならないな」


「されど此度の襲撃に居合わせた、袁夫人が下手人の名を供述なさいました。そして名の上がった者達は、夫人の側仕えの身ながら事件後に姿を消しております」


 袁紹を信じればこそ、袁夫人の言葉を信じないといけない。これが楊脩の説く道理である。

 その供述書も含め、丁寧に精査し、書状にまとめて袁家に送ってもいる。


 それは、ここらでこれ以上の袁家の内政干渉に釘を刺しておきたいという曹昂の狙い。

 袁家とつながりの深い楊家としても、この疑念はどうしても晴らしておきたかった。


「なるほど、我が愛娘の言葉なれば、父としても信じたいところだ」


「であれば袁家にてそれを精査した上で、朝廷に釈明を」


「いやいや使者殿、少し待たれよ。もしも、もしもの話だがな? 婿殿が我が娘を脅し、従者を殺し、刺客に襲われたことを装い、私に罪を被せていたのなら、どうする?」


「…それは暴論でしょう」


「そうだ、暴論だ。私と婿殿の親交は疑いようのないものだからな。しかし刺客をただの一人も捕らえず、首の証拠がない以上、否定は出来ぬ。困った話だとは思わないか?」


 やはりこうなるのか。楊脩は思わず歯噛みをする。

 圧倒的な力の差を前に、公平で対等な話し合いなんかは決して成立しない。


「では、閣下は如何に話をまとめるおつもりで?」


「返答のしようがない以上、慎重に当たるに越したことは無い。となると、顕甫(袁尚)よ」


「はい父上!」


「この件はお前に任せる。後で家宰もお前に預けよう。よくよく、調べてくれ。袁家と曹家の絆に、傷を付けぬようにな」


「御意!」



・袁尚

袁紹の三男であり、袁紹にその才気や外見を愛されたとか。

まぁ、当時は顔立ちの良さも能力の一つだったしね。あ、それは今もk(

袁紹の没後、長男の袁譚と対立し、袁家滅亡の道を辿ってしまった。


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[気になる点] >袁紹の没後、長男の袁煕と対立し、袁家滅亡の道を辿ってしまった。 袁譚「……」 袁煕(胃が痛い……嫁に癒やされたい……) 袁尚「www」(腹を抱えて笑っている) [一言] 後書きは誤字…
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