85話 軍師祭酒
次回からちょっと不定期更新となります。スイマセン(´・ω・`)
「もう嫌だアイツら。何を言っても、軍縮して農業推進! しか言わん。荀彧は連日こういう対応をしてるとか化け物」
「ここ最近は特に強気ですよね。やはり楊彪殿の昇進が決め手でしたか」
「でも袁紹と戦うわけにはいかないんだよ……」
司空府に戻り、俺は部屋の床板で仰向けに転がっていた。起き上がる気力すら湧かない。
でも荀彧はもっと気苦労が多いんだろうなぁと思うと、マジで申し訳なくなってきた。
そんな抜け殻となった俺を困り顔で見下ろしているのは、司空府の直属となった軍師祭酒「董昭」である。
郭嘉の後任として、俺の直属のアドバイザーになった謀臣だ。
「楊彪はまぁ、いいよ。でも孔融は何とかならないのか。口を開けば諫言ばかりで、しかも最大派閥の主という」
「孔子の末裔という重すぎる宿命を背負っていると、無理にでも周囲の期待に応えないといけないのでしょう」
「その結果が、あれってこと?」
「諫言は臣下の華ですから。聞こえも良いですし」
ファンの応援より、アンチの言葉の方が何十倍も風聞に乗って広がっていくってヤツか。
確かに歯に衣着せずに「正義の味方」を語って、誰かの闇を暴く、みたいなユーチューバーって簡単に伸びてる印象あったしなぁ。
「ここで俺が、袁紹は敵だって断言できれば、ヤツらをいくらでも摘発出来るんだが、そうもいかないしなぁ」
「隠密での内部告発は郭嘉殿の仕事でした。本来であれば私がそこを担わないといけないのですが」
「分かってる。難しいんだろ?」
董昭はどちらかというと、商人を介しての対外的な謀略を得意としており、内側向きの人材ではない。
新しく、郭嘉の本分であった仕事を任せれる人材が必要だった。簡単に言ってくれるなよって感じだけどさ。
「……殿、一人、推挙したき人物がおります」
「うん?」
「恐らくですが郭嘉殿の本分を引き継ぎ得るだけの、才知を持った者です」
「すぐに会おう」
俺がそう言うと分かっていたのか、董昭はすぐに部屋から出ていった。外に待機させていたのだろう。
流石にこんな姿勢で会うわけにもいかないので、重い体を起こして、俺は居住まいを正して机の前に腰かけた。
扉が開き、董昭が伴って連れてきたのは、俺よりも少し年上で、顔立ちの整った人物である。
まるで彫像のような、触れ難い美しさがあり、その目は全てを切り裂いてしまいそうな鋭さを秘めていた。
「曹司空に拝謁いたします。劉子揚と申します」
「劉子揚……まさか、あの劉曄殿か!」
「恐悦至極に存じます」
劉曄といえば、曹操・曹丕・曹叡の三代に渡って仕えた謀臣であり、光武帝の流れを汲む由緒正しき王族であった。
しかし彼が曹操陣営に加わるのは、曹操が寿春を支配下に収めてからのこと。だが今、その寿春は劉備の手元にある。
「どうして、劉備に仕えず、ここに来た」
「我が友、魯粛、胡質、蒋済は劉将軍に仕えました。されど私は、彼らの歩む道とは相いれず、ここへ」
「貴殿の歩む道とは」
「誰にも阻まれず、策を自由に振るう、軍師の道。古の太公望や張良を、私は越えたいのです」
大きく出たものだ。だが、嫌いじゃない。
使い道を誤れば諸刃の剣にもなるであろう程の才気が、全身から溢れていた。
結局、内部監査を受け持つ人間というのは、他人に嫌われながらも仕事を全うするタイプじゃないといけない。
そういう意味では、こういった自分の才覚のみを頼りとする鋭利な人材は、うってつけといえるかもしれなかった。
まぁ、でもね、忠を尽くすべき主君を失うと、だいたいこういうタイプが波乱を起こすんだけど。
「今、俺の進むべき道には、いずれにも大きな壁が立ち塞がっており、圧し潰されそうな勢いだ。その才で、その壁を穿てるか?」
「お任せを。ただひとつ、お願いしたきことが」
「なんだ」
「我が策に口を挟まないでいただけますか」
不遜な物言いに、流石に董昭も注意しようと前に進み出たが、俺はそれを手で制した。
「結果を示せ。失敗すれば、斬る」
「覚悟は出来ております」
「ならば良し。お前は董昭の下につける、が、好きに動いてくれて構わない。必要なものがあれば言ってくれ」
「まずは、何をすれば」
「袁紹の干渉を防ぎ、孔融の派閥を弱体化させたい」
「お任せください。成功の暁には、私を張繍征伐の軍師の列にお加えいただきたい」
良いだろう。
俺がそう言って頷くと、劉曄の眼差しは、更に鋭さを増したのであった。
・劉曄
十三歳にして母の遺言で、奸臣と母が称した臣下を単身で殺害した。怖すぎるだろ。
その家系はちゃんと光武帝に連なる王族であり、幽州牧の劉虞レベルの人物。
曹操・曹丕・曹叡に仕え、胸に秘めた策をむやみに人前に晒すことはせず、先見の明を持っていた軍師。
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