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曹操が死んだ日、俺は『曹昂』になった。─『宛城の戦い』で死んだのは曹昂じゃなくて曹操だったけど、これから俺はどう生き残れば良いですか?─  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
第三章 曹昂の嫁取り

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58話 不穏な知らせ


 留県にて、曹昂軍は呂布軍を撃破。そのまま彭城まで進軍し、劉備や陳登の軍とも合流。

 後は敗走を続ける呂布を下ヒ城にて討ち取るのみ。徐州平定は目前にまで迫っている。


 連日のように、そのような知らせが都へと届く。

 そしてその知らせを耳にするたび、袁瑛は心底ホッとした表情で胸を撫で下ろした。


「まさか、あのお嬢様がそこまで惚れ込まれるとはねぇ。この"りん"は少し不安ですよ」


「あの人のことを悪く言わないで頂戴」


「はいはい」


 来る日も来る日もかんざしを両手に握り、東へ祈りを捧げ続ける袁瑛を見て、りんと名乗る女中は溜息を吐く。

 これまで常に袁瑛に付き従ってきた女性で、袁瑛にとっては親代わりのような存在でもあった。


 本当に身近な存在だからこそ、気兼ねなく思っていることを言い合える。

 そんな中で、林にとって曹昂は、あまり良い旦那という感じではなかった。


「でもですね、お嬢様。婚前に堂々と部屋に入り、接触を図るなんて、倫理に反しております。婚儀も予定していたよりずっと小規模になり、私は心配なのですよ」


「あの人は、あなたが考えるもよりずっと真摯に私と向き合ってくれています。婚儀に関しても、お立場を考えるなら我儘を言うべきではありません」


「今まで婚姻をしても怖いとか緊張するとか言って、お相手に近づきもしなかった我儘放題のお嬢様が、よく言いますよ」


「その話は、やめて」


 名門の令嬢として、しかもあの袁紹の長女として、袁瑛は宝玉かの如く育てられてきた。

 故に、恋愛を知らず、見ず知らずの男と身体を重ねるなど、想像することも出来なかった。


 結婚すれば流石に変わるだろうと思われたが、より一層、その初心な性格が拗れたのだ。

 しかも袁紹の娘というだけあって、相手方もおいそれと無理に手を出すことが出来ない。


 その結果、こんな年齢になるまで、独り身になってしまったのだ。

 袁紹も袁紹で、そんな手の焼ける娘に対して、ほとんど何も言うことが無い。


 故に、そんな袁瑛を知る林は不安なのだ。

 世間知らずの子兎がまんまと、狼の巣に招き入れられているような気がして。


「お父様が言ってたわ。この婚姻は、まさに天意だって。その意味がようやく私には分かったの」


「今のお嬢様には、何を言っても無駄なようですねぇ……やれやれ」


「本当なら、今すぐにでも徐州へ行きたいわ。でも、あの人の邪魔になるようなことは控えなくちゃ」


 もはや隠すことすらせず、林は苦虫を嚙み潰したような顔で袁瑛を見る。

 これが拗らせに拗らせた結果なのかと、思わず目を覆ってしまいたくなった。


 曹昂は、朝廷の重臣だ。勿論、側室を置くことだってあるだろう。

 そうなったときに袁瑛がどうなるか、考えるだけでも恐ろしかった。


「でも、私のせいで、曹昂様に何かあったらと思うと、不安で夜も眠れないの」


「今までのことを仰っておられるのですか? あれは、お嬢様のせいではないと何度も申しておりますのに」


 袁瑛は今までに二度も婚姻をして、そのいずれも相手がすぐに没してしまっていたのだ。

 一人目は病で、二人目は戦で。いずれも偶然だと何度も周囲は慰めたが、袁瑛はずっと気を病んでいた。


「でも、でも……」


「子供のような泣き言はおやめなさいな。御屋形様が仰られたのでしょう? 曹車騎は並みの人ではないと」


「それは、そうだけど」


「いちいち気に病んでいたら、今度はお嬢様のお体に障ります。気丈になさいませ」


「はぁ、分かったわよ」



 その数日後のこと。下ヒ城攻めの最中、呂布の急襲によって曹昂が負傷した。

 安否のほどは、不明。一瞬にして許昌には、緊張感が張り詰める。


 用心のため、確たる情報が入るまでこの件は完全に秘匿とされ、袁瑛の耳に入ることは無かった。

 情報を知る首脳部は、誰もが「宛城の戦い」の悪夢を、脳裏に浮かべていた。


 袁瑛がそんな戦場のことを知るのは、曹昂が倒れてから五日後のことである。



「奉孝(郭嘉)、大丈夫か」


「これは文若(荀彧)殿。何故、ここに」


 許昌郊外の離れの古屋敷。

 そこに真っ青な顔色をして、薬湯を呑む郭嘉の姿があった。


「この陣営において、私が知らぬことは無い」


「殿には内緒にしてくれ。不摂生が祟って、このざまだ」


 曹操の死後、郭嘉は持病を抱える我が身を追い込むように酒を飲んでいた。

 そうでもしなければ、自死の念を紛らわせることが出来なかったからだ。


 此度の戦役に同行しなかったのも、体力面の不安があったため。

 もはやこの身は長くない。郭嘉にははっきりと、それが分かっていた。


「殿が、戦で矢傷を負った。今のところ無事だが、毒が体に回れば危うい」


「聞いている」


「どうすべきだ。殿にまで逝かれたら、再起は不可能になる。急ぎ、曹丕様は保護したが」


「洛陽の夏侯惇将軍を呼んでください。後は、南に居る楽進、満寵将軍にも伝令を。戦の準備だと」


「戦だと、まさか」


「あの賈詡がこれを見逃すはずがない。夏侯惇将軍を大将とし、俺が補佐につく。そして、殿は絶対に無事です」


 郭嘉の目には、覚悟の光が宿っていた。荀彧は口を開くも、言葉を飲み込む。

 そして一言「頼む」とだけ漏らし、荀彧はその場を後にした。



・満寵

孫呉の天敵と称しても良い、魏の守護神的存在。ちなみに関羽も阻んでる。

あの袁家の本拠地である汝南郡を治めたとか。普通にこれって凄いこと。

官渡の戦い中に袁紹に寝返ってもおかしくない土地なのに、よく抑えきれたよなぁ。


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