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曹操が死んだ日、俺は『曹昂』になった。─『宛城の戦い』で死んだのは曹昂じゃなくて曹操だったけど、これから俺はどう生き残れば良いですか?─  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
第三章 曹昂の嫁取り

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53話 英雄の息吹


 サイコロが転がる。出た目の文様は、またしてもよくわからん。

 でも不其の表情を見ていたら分かる。あっちゃーって顔してるもん、絶対良くないヤツだろ。


「あまり前線には出ない方がよろしいかと。戦の前であれば最悪な『死』を示す絵図ですね」


「え、最悪じゃん」


「でも敗北の目では無いので、その点は安心できますね。あくまで曹昂様ご自身が危ないというだけで」


「いや肝心の俺は何も安心できないんだけど!?」


「気を付けてればいいだけの話なので。それに曹昂様は、私の易など信じられないのでは?」


 確かにあんまり真に受けてもしょうがないとは思ってるけどさぁ。

 それにしても戦の前に「お前死ぬぞ」なんて言われて、気にしない方が難しい。


「もう一度振り直して、出目を替え、もっといい結果を出しましょうか?」


「そんなことしていいのかよ」


「私はそれでいいと思っています。良い結果の出た方が幸せに過ごせるのなら、それに越したことはありません」


「……珍しいな。何か思惑がありそうだな」


「鋭いですね。では率直に申しましょう。何故先の戦にて、青州兵に褒賞を出さなかったのですか」


 なるほど、そんなことが言いたくて一芝居をうったというわけか。

 揺れる馬車の上で溜息を吐く。これをいちいち説明するのも面倒な話だ。


「褒賞だと? 馬鹿を言うな。むしろお前らを処刑しなかったことに、感謝してほしいくらいだ」


「青州兵は初戦において敵兵の首級を最も多くあげているはずですよね?」


「だが軍吏の報告では、朱霊将軍の指示を聞かず呂布に反攻の機会を与えて、更には敵前逃亡。それが朱霊将軍の戦死の遠因にもなっている。違うか?」


「ふむ……」


「ちゃんと評価してほしいというなら、お望み通り処刑してやる。ちゃんとお前から青州兵に伝えておけ、軍規は絶対だと。俺は父上のような軍才が無いからこそ、そこを融通することは出来ない」


 今まで青州兵を甘やかすことが出来たのは、曹操という軍事の天才が居たからだ。

 しかし俺は曹操のように、自在に青州兵を活用できるような器ではない。


 確かに歩兵の主力である彼らの協力はありがたいが、それで軍規が緩めば元も子もない。

 俺はそういう人間だということを、しっかりと態度で示していく必要がある。


「ようやく合点がいきました」


「他の兵より優遇はしてやる。我儘も聞いてやる。だが、罪を犯せば裁く。曹昂と曹操の違いはそこだ」


「皆、分からないのです。なにしろ学が無いですから。そうやって分かりやすく言ってくれると助かります」


「今回呂布を討てば、田畑の支給も増える。頑張ってくれ」


 本格的にこれは、しっかりとした教育機関を作っていかないと駄目なのかもしれない。

 大人数を統率することが、こんなにも手間がかかるのだとしたら、余計にな。



 伝令を聞き、呂布は文字通り、膝から崩れ落ちる。

 まさか陳珪が裏切ったのか、と。対袁術に関して最も注力してくれていた人物が、何故。


 北には劉備・臧覇の軍勢が一万。西からは曹昂の軍勢が二万余り。

 対して今、自分が総動員できる兵力は二万ほど。形勢で見れば完全な包囲を受ける形となる。


 陳珪が裏切ったのだ。味方してくれているその二万の軍も、いつ誰が裏切るか分からない。

 どうすればいい。その問いに答えてくれるものはもう、誰一人として居なかった。


「殿、高順に御座います」


 并州から常に付き従ってきた、最古参の武将であり、その実力も軍中では第一の武将だ。

 ただ、その高すぎる将才が故に冷遇し続けてきた。英雄は、二人もいらないのだ。


 もしかするとそれを恨んでコイツも裏切るつもりなのかもしれない。

 薄暗い幕舎の中、生唾を飲み、高順に入れと告げる。


「高順、止まれ。そこで、武具を外せ」


「……御意」


 剣と短刀を地に置き、兵装も外した。

 高順は何も隠すところが無い薄着の状態となり、呂布に向き直る。


「分かった、近くに寄れ」


「はっ」


「それで何の話だ」


「小沛の陥落の件、既に将兵の耳に入っております。すぐさま軍を分け、曹昂軍に対応すべきかと」


「分かっている。曹昂の軍勢など、一揉みで蹴散らしてくれるわ。俺を裏切ったあの老いぼれも、この手で殺してやらねば気が済まん」


「劉備への対処は如何に」


 返答に詰まる。今更、誰が信じられるというのだ。

 自分が曹昂の対応に向かえば、次は残した将が劉備に寝返るかもしれない。


「殿、お決まりでないのなら、この高順にお任せくださいませぬか」


「なんだと」


「殿の帰還まで、必ず劉備を阻んでみせます」


 愚直で堅物で愛想のない、しかし無二の忠義心を持つ武将であった。

 軍人嫌いの陳宮とは水と油の関係であったが故に、陳宮を立てるため、今まで幾度となく酷い仕打ちも与えてきた。


 しかし、高順が期待に応えなかったことは無かった。

 何があろうと最前線で戦い、必ず、敵を退けてきた男である。


 呂布は立ち上がり、高順の肩を掴む。

 最も長く、共に戦ってきた男だ。今更それに気づいてしまった。


「……頼む、高順、俺を助けてくれ」


「お任せを」


 陳宮の捕縛は、確かに呂布陣営を根本から瓦解させる衝撃を与えた。

 しかし同時にその衝撃は、もう一人の英雄を誕生させてしまったのであった。



・高順

敵の陣営を必ず陥落させることから、高順の部隊は「陥陣営」と称された。

しかし陳宮との相性が悪く、呂布からも何故か疎まれ、冷遇され続けている。

ただそんな境遇でも呂布を裏切ることなく最後まで従い、敗戦後、曹操に処刑された。


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