表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
曹操が死んだ日、俺は『曹昂』になった。─『宛城の戦い』で死んだのは曹昂じゃなくて曹操だったけど、これから俺はどう生き残れば良いですか?─  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
第三章 曹昂の嫁取り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/115

49話 天下への宣誓


 顔が痛い。たぶん、表情筋が筋肉痛だ。マジで口角とか目尻とかピクリとも動かん。

 やっぱり人は慣れないことをするものではないなと思いながら、痛む頬を撫でる。


 この馬車の揺れすら、筋肉痛に響く。つらい。

 こんな顔のままで今日は陛下に拝謁をして、大々的な婚姻の宴を都で開かないといけないのか。


「殿、上手くいきましたな」


「嬉しそうだな、郭嘉」


「袁瑛様は朝から心ここにあらずな様子で、まさしく生娘の如く。女性が苦手な殿にしては上出来にござる」


「苦手なわけじゃない。分からないだけだ」


 人は「分からないこと」に恐怖し、悩み、陰鬱になっていく生き物だと聞いたことがある。

 お化けが怖いのは、その正体が分からないから。対処法さえ分かればいくらか恐怖も薄れるだろう。


 俺が婚姻の話が進むにつれて、漠然とした不安に呑まれるようになったとき、ふとそんなこと思い出す。

 だったら、学べばいい。お化けと違って「女」や「袁瑛」は実在するものではないか、と。


 そこで頼りにしたのが、女遊びが酷いと評判の「郭嘉」だった。

 餅は餅屋ともいう。郭嘉はこういったことにめっぽう強いイメージがある。


 女性同士の噂話やドロドロの色恋関係の話は、風に乗って、天下の女性に広まっていく。

 特に宮中に居るような女性はそういった話に敏感で、郭嘉はそれをもとに謀略を組み立てるのだ。


 そんな郭嘉が俺に言った。袁瑛にはとにかく強気で、グイグイ行けと。

 数多くの女性を相手に、俺様王子系になりきれるよう演技訓練までやらされたりもした。


「それで、抱きましたか? 袁瑛様はご令嬢で、おまけに父はあの袁紹。だからこそ強気に迫れば、殿に夢中になられます!」


「本当にお前は下世話な男だな。瑛殿は、抱かせてくれと頼んだら固まってしまった。だから、なにもしていない」


「……いくらなんでも、育ちが良すぎますな。まぁ、それだけ殿の演技が良かったということでもありますが」


「演技も嘘も、心から吐けば、それは本物に変わる」


「男でも惚れてしまう言葉ですね。そこが先代とは異なる、殿の長所だと私は思いますよ」


 袁瑛は、まさしくモデルのような美人だった。スタイルも顔立ちも、全てが洗練されている。

 汝南袁氏は何代にも渡って名門として後漢に君臨し続けた血族だ。そりゃあ世代を重ね、顔立ちも良くなる。


 この当時はよっぽどの能力が無ければ、イケメンじゃないと高官には就けなかった時代だ。

 荀彧の顔立ちを見ても分かる。楊彪だって今でこそ髪は薄いが、その顔立ちは渋い名俳優そのものだ。


「殿は元より人前で本心を隠すことが出来る素質が御座います。それは馬鹿正直な先代には無かった素質です」


「俺は父上のようになりたいんだがなぁ」


「あとは、女性の前で張り切ったその翌日に、顔が動かなくなる悪癖をどうにかなさいませ」


「んなこと言われても」


「袁瑛様は、育ちが良く穢れを知らぬ気性。そして過去に二度、婚姻間もなくして夫を亡くしております。どのように接すればいいか、後は分かりますね?」


「蝶よ花よと大切にすればいいのだろう?」


「馬鹿言わないでください。抱くのです。あれくらいの歳から性欲が盛り上がるのですから。強気に押し倒し、それでいて赤子のように甘やかし、殿無しでは居られなくするのです」


「お前さぁ……妻子持ちの人間の言葉じゃないだろ」


「大丈夫です。我が妻は、私が他の女を組み敷いている光景に興奮する質なので」


「ホントに黙ってくれ」



 数多の朝臣、袁家の関係者、そして曹家の関係者、大勢の人間が一堂に会する大宴会。

 最たる上座には皇帝陛下「劉協」が。そしてそれに次いで、俺が座っている。


 俺に献杯をしてくる袁家の関係者たちを、ピクリとも動かない顔で対応。

 そんな俺を見て、皆が「不機嫌なのでは?」と勘ぐっているのだろうが、違います。筋肉痛です。


 だが、逆に都合が良かったかもしれない。別にこれは披露宴というわけでなく、ただの政治的な会合だ。

 そしてここにいる袁家の関係者は皆、俺の懐を探りに来た者達。油断はできない。


 下手にへらへらと波風立てずに対応するより、皆に等しく鉄仮面を被っている方が良い。

 変に相手に取り付く島を与えなくて済むというものだ。この政治の席に、瑛殿は居ないわけだし。


「し、車騎将軍よ、表情が硬いようだが」


「お気になさらず、陛下」


「そうか、すまない」


「それより、董貴人のご出産が上手くいかれたとか。改めてお祝い申し上げます」


「将軍が医者の手配など、色々と手を尽くしてくれたおかげで、娘も健康だ。本当に感謝している」


「恐れ多いお言葉。臣下として当然のことをしたまで」


 もう、宴席もそろそろ良い頃合いだろう。

 この場の主役たる俺の選手宣誓というか、そういった演説をしないといけないらしい。


 楊彪の厳しい目が俺の方に向く。予定通り、当たり障りのないことを言えという圧力だ。

 袁家と曹家、仲良く手を取り合って天下を支えましょうねぇ~、みたいな。


 こういう場で自我を貫いたとて何も意味はないのだ。そんなことは分かってる。

 分かったうえで、俺は自分を貫きたい。曹操ならきっと、そのように生きるはずだ。


「今宵はこの宴席の場にお集まりいただき感謝しております。皇帝陛下より、廷尉及び車騎将軍の任を授かった曹子修と申します」


 周囲の目が、俺を刺す。戦の時とはまた違う、命を危険に晒している感覚。

 辺りが静まり返るまで、震える呼吸を宥め、堂々と胸を張る。


「袁大将軍からの縁談の話を受けるという僥倖に巡り合い、両家が手を取ることになった。思えば我らは董卓の災害を被り、それでも諦めなかったという過去を持つ者同士に御座います」


 これまでの苦難。切々とそれを説く。これほど心強い味方は居ないと声高に叫ぶ。

 董卓という共通の敵に立ち向かった両家が手を組むことに、大きな意味があると、拳を握る。


「今もなお民は飢饉を前に明日の食事もままならず、流浪の盗賊に全てを奪われております。両家の婚姻が成ったこのめでたき日にも、私はそんな民を思うと、米粒一つすら喉を通らない。天下の柱石たる皆々様も、同じ気持ちのはずだ」


 くるりと振り返り、地に頭をつけ、劉協に拝礼する。


「本来であればこの宴席も数日に渡り続く予定でした。されど臣は戦乱の止まぬ日々の前で、座して我が身の幸福を祝う気にはなれませぬ! 陛下、願わくば臣に、一日も早く賊を討ち天下を平定せよと、お命じくださいませ!」


 辺りは、水を打ったように静かなままだった。

 なんだかんだ言っていますが、こういう賑やかな席が嫌いなだけです。早く帰らせてください。



・美女&イケメン

いつの時代も優遇される存在。三国志でもそれは同じ。ぴえん。

とはいえ顔が良いというだけでなく、異形の姿でも一目置かれることもあった。

劉備は福耳で腕長だし、孫権は赤髪で碧眼という特徴があったとされ、特別な存在の根拠の一つとして語られていたみたい。


---------------------------------------------------------


面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

評価は広告の下の「☆☆☆☆☆」を押せば出来るらしいです(*'ω'*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 美男美女が社会的な立場にも影響すると言われると 官渡の時の陳琳の文が更にエグい気がしてくる。 宦官の無駄肉のなだけあっておめぇって遺伝子たりてねぇよなぁっ? よくこれで殺されなかったなあ。
[良い点]  大丈夫です。(イケメンスマイル) うーむこれは大丈夫だ…
[一言] イケメンといえば蘆江周家の若旦那が真っ先に浮かびますが、あそこも袁家、楊家と張れる名門ですしなぁ。 んで、惇兄が隻眼にコンプレックス持っていたのもこの辺に起因しているでしょうし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ