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40話 抵抗の裏で

明日からは第三章に突入していくでござ。


 髪を逆立てるかのような怒りの表情で、寝室の扉を蹴飛ばしたのは劉備であった。

 無事に徐州北部に到着し、兗州の戦況を耳に挟みながらゆるゆると戦の準備を整えていた。


 濮陽が陥落するか、定陶の兵糧が切れるか。

 そのどちらかに戦況が動いて、初めて戦を仕掛けようと様子を見ていたのだ。しかし──


「雲長! 雲長!!!!」


「な、なんですか兄者」


「戦の支度だ! 臧覇殿の屋敷に行くからついて来い!!」


「はぁ? 昨日の宴席で戦はまだ遠いと」


「事情が変わった!!」


 髪も整えず、寝間着のままで外に出ようとする劉備に関羽は縋りつく。

 とにもかくにもその事情を知らないことには、動きようがないのだ。


「まずは身なりを整えてください。それで、何があったのですか」


「彭城に駐屯する張遼が秘かに発ち、小沛の予備兵を全て率いて定陶に向かった」


「急にですか? しかし、何故」


「陳宮の馬鹿が大敗したのだ! 曹昂軍の劉延とかいう武将に! 誰なんだそいつ!!」


「一応、兗州の州治を担う東郡の太守ですが。言うほど無名ではないですよ?」


「このままじゃ呂布が兗州攻めを諦めて引き返してくる。そうなれば小僧に全部の功績を奪われる!!」


 兗州攻めは、陳宮あってこその戦略なのだ。

 その陳宮がよくわからないうちに大敗し、生死も不明という有様であった。


 陳宮が消えれば、兗州を攻める意味が呂布軍から消える。

 その時に呂布の目はきっと、曹昂ではなく劉備に向くだろう。


「これも小僧の詐術か、それとも陳宮がとんでもない愚か者だったか。とにかく、動くしかねぇ!!」


「きちんと臧覇殿と会われるときは、気を静めて、切々と正義を説いてください」


「うぐぎぎ……分かっとる!!」



 連日連夜、精魂尽き果てるまで攻撃の命令を降す。

 だが、城攻めは不得手であった。騎兵を活躍させる機会が皆無であるからだ。


 野戦であれば、どのような不利な状況であろうと、赤兎馬に跨って敵将を討ち取れる。

 姑息な真似を。呂布は膝を揺すり、歯ぎしりする。如何に赤兎といえど城壁を飛び越えることは出来ない。


「伝令! 東門への攻勢を担う曹性将軍が負傷! 戦線を離脱!」


「助攻の成廉に指揮権を移せ! 攻勢の手を緩めるな!!」


「伝令! 南門の宗謙将軍から矢の催促が」


「いちいち俺に聞くな! すぐに渡せ!!」


「で、ですが、既に予備も枯渇しており」


 こういった細々とした軍務は全て陳宮に頼りきりであった。その弊害が浮き彫りになっている。

 そもそも本来であればこの城攻めも、陳宮と合流した後に、本格的に動く手筈であったのだ。


 これが、戦場では無類の活躍を魅せた英雄の姿なのか。

 呂布は拳を握り、不甲斐なさを心中で嘆く。一人で立つ戦場が、こんなに心細いとは。


 そんな中、ドカドカと五月蠅い爪音を鳴らして駆け込んできたのは張遼であった。

 いつもは気にならないその無神経な振る舞いすら、今の呂布には腹立たしいものがあった。


「張遼、お前は西門だろう! 何故ここにいる!!」


「撤退を進言しに参りました」


「何だと!?」


「聡明な殿であればもう分かるはず。この戦に、勝機は無いと!」


「もう一度言ってみろ臆病者が! 叩き斬ってくれるわ!!」


 剣を抜こうとする呂布を、周囲の従者が慌てて引き留める。

 張遼と言えば呂布軍で最も勇猛な戦士であり、兵からの信望も厚い。


 勿論、呂布だって本気じゃない。

 城攻めを行うには時期尚早であることなど分かり切っていたのだ。


 だがここで城攻めを諦めてしまえば、陳宮はどうなる。

 そんな女々しい言葉を口に出すわけにもいかず、呂布は抜きかけた剣を鞘に戻す。


「曹昂に援軍は来ない。あと一押しなのだ」


「その一押しをするには、兵は精も魂も尽き果てております。それに陳大将の抜けた穴を、早急に埋めねば」


「俺が陣頭に立てば士気も上がる。陳宮の抜けた穴も、俺が埋める」


「無茶を言わないでくだされ! それに徐州でも劉備が動き始めています、早急に退くべきです!!」


 遠慮を知らない張遼だからこそ、呂布に臆せず物言いが出来る。

 呂布も張遼の実力を知っているからこそ、その言葉には素直に耳を傾けられた。


「今宵まで。今宵、城が落ちなければ退く。何が何でも、曹昂の身柄を奪い取れ」


「殿!!」


「もう何も言うな。早く持ち場に戻り、戦え。断るのなら俺が陣頭に立つ」


「……御意。死力を尽くします」



 結果、やはり城は落ちなかった。加えて濮陽や許昌から僅かながら曹昂の援軍が駆けつけてきた。

 これを受けて呂布は、それを叩き伏せてやろうかとも考えたが、憔悴しきった将兵の姿を見て思いとどまる。


 負けるはずの無かった戦。

 一体、何が起きたのか分からぬままに負けた。


 やり場のない怒りを胸の内に抱えて、呂布は全軍の退却を命じたのであった。

 得られたのは「小沛」のみ。失ったものは、あまりに大きい。



・臧覇

徐州北部の有力者。呂布と一時敵対し、攻勢を退けた実力者。

曹操の指揮下に入ると徐州と青州の軍権を委ねられ、大いに曹操を助けた。

めちゃんこ功績も大きいけど、演義では呂布配下の将軍になってるらしい。


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― 新着の感想 ―
[一言] (色々思うこと、書きたいことあるが)今回の感想は劉備だw 今回の劉備を見て、なぜか連想したのは、関が原直後の伊達政宗だったりします。 伊達政宗「百万石の約束は……」 徳川家康「ん? 働き次…
[一言] 他の誰もが信じなかった男を信じ抜いた事で得られた勝利か…熱いね
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