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38話 総攻撃


 それは明け方すぐの事。日が出て間もない時間に、城内では銅鑼や太鼓が鳴り響いていた。

 鎧を身に着け外に出ると将兵の喧騒が耳を覆い、昨日とはまるで別世界かのような雰囲気を感じた。


「殿、早く本営へ」


「これはどういうことだ荀攸」


「分かりません。ですが、呂布が総攻撃を開始しました」


「どうして今なんだ」


 無理な攻撃を避け、こちらの消耗を狙うのが呂布の狙いだったはずだ。

 こちらが援軍が見込めないぶん、呂布は待ってるだけで必ず勝利をもぎ取れた。


 攻勢を仕掛けるにもまだ早い。こちらの兵糧は切れていないし、兵もよくまとまっている。

 となると呂布の側に、早急に攻勢を仕掛けなければならない事情が発生したということか?


「最も攻勢の強い東門は于禁将軍が防衛の指揮を取っております。兵力の振り分けなどの管理は、私と曹仁将軍が行います」


「高堂憲はいるか!」


「こ、ここに!!」


 文官や武官が駆け回る幕舎の隅っこに、人の波にもまれる爺さんが一人。

 えっちらおっちらと波をかき分けて、俺の側へと何とかたどり着く。


「次三弓弩の配備や修繕はどうだ」


「壊れた一台の修繕は、この城内では不可能でした。素材も工具も人手も足りません。なので、動く三台を整備し、東・西・南に配置しました」


 北門は最も堀が深くて、水路や土山などが入り組む地形的にも険しい方面だった。

 故にそこには配備しなくても良いと考えたのだろう。


「どういう場面で撃てばいい」


「か、回数が限られます。兵に向けてではなく、兵器を潰すために使用してください。特に、攻城塔は脅威です」


 攻城塔は、城壁よりも高い木造の塔に車輪を付けた、という超大型の兵器である。

 その塔の中から敵兵が矢を放ちながら前進し、城壁に取りつくと塔の中から兵士が城内へと雪崩れ込む。


 大型な分、的も大きく運用も極めて大変ではあるが、戦の決定打になり得るだけの脅威はある。

 恐らくこれが出てくるのは戦の終盤だ。それまでは次三弓弩も温存しておいた方が良いのだろう。


「お前に工兵を三百預ける。好きに使い、各城門の守将を補佐せよ。兵器の運用を指示するんだ」


「わ、私が、ですか」


「そうだ。荀攸、良いな?」


「かしこまりました」



 各城門の守将や部隊長たちから、矢や石や兵の補充の催促がどしどしと押し寄せる。

 曹仁が直接兵を率いて各所に救援に赴いたりしているため、俺も参謀の部署に加わって要求を裁いていた。


 初日からこうした要求がひっきりなしに届くということは、呂布は全力を投じているということだ。

 何がここまでヤツを急がせる。もしかして、劉備が既に徐州を奪ったとでも言うのだろうか?


 ただ、そんなことを悠長に考えている暇はない。

 城が落ちてしまえば全てがおじゃんだ。何が何でも堪えないといけない。


 その後も呂布の攻勢は途絶えることなく三日三晩続き、呂布軍は各地から続々と兵を引き入れていた。

 これはいつまで続くのだ。風呂にも入れず、頬には垢が浮いている。目の下にもハッキリと隈が出来ていた。


「殿、一旦、お休みください。守将達も休みを取りながら戦っているのですから、殿も何卒」


「そう言ってもな許チョ、寝れないのだ。目を閉じると、死が目前に迫ってくる。恐ろしくて、眠れない」


「倒れてからでは遅いかと」


「……分かった。ここで、数刻だけ目を閉じている」


 喧噪鳴り響く中で見た夢は、やはり悪夢だった。

 城に入る直前、俺の命を狙うべく敵兵の波が前左右から押し寄せていた、あの光景。


 その波が方陣を突き破り俺に押し寄せるのだ。

 数多の槍や剣が身体を串刺しにして、俺の四肢を力任せに引きちぎっていく。そこで、飛び起きた。


「殿、起きられましたか」


「あぁ、荀攸か、俺はどれだけ寝ていた」


「半日ほど」


「そんなにか。戦況は」


「変わらず絶え間ない波状攻撃が続いています。既に北門以外は堀を埋められました」


 あちこちを駆けまわる兵士や文官の顔は明らかに疲労の色が濃い。

 敵だって相応に疲弊しているはずだ。それなのに一切、攻撃の手が緩まらない。


 そんな中だった、今までとは違った、明らかに焦っている伝令が幕舎に飛び込んでくる。

 彼の全身には傷があり、敵の攻勢が如何にすさまじいかを如実に告げていた。


「南門を守る路招将軍が矢傷を受け戦線離脱! 意識も不明とのこと! 早急に指示を!!」


「許チョを呼べ! 俺が行く!!」


「殿! あまりに危険です、ここは曹仁将軍を!」


「曹仁の救援が無ければ各城門に綻びが出る。兵の士気を上げるためにも、俺が行かねばならん。荀攸、総指揮を預けるぞ」


 もはやどの将軍達も手一杯で余裕などない。どうしたって俺が出ないといけないんだ。

 消耗していく数多の報告を聞いていた。遅かれ早かれ、こうなることはとっくに予見出来ていた。


 幕舎を飛び出て、階段を駆け上がり、城壁の最上部にたどり着く。

 高さは十メートル以上。すぐ真下には敵兵の死骸が山と詰まれ、更にそれを踏み越えながら新たな敵兵が押し寄せてくる。



「曹昂が駆け付けたぞ! 足元の蟻を踏み潰してくれよう!!」



・次三弓弩

大型化した弩を発射台に備え付けた「床子弩しょうじど」と呼ばれる兵器の一種。

北宋の時代に使用された兵器で、三つの弓を装着して威力を跳ね上げた。

高性能な投石機や火器が発明されると、戦史から姿を消していったとか。


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