31話 馬と矢
今作初となるレビューをいただきました!
本当にありがとうございますの舞い ₍₍ (ง ˘ω˘ )ว ⁾⁾
迫る四万の呂布軍は、兗州各地からも兵が集まり総勢五万にまで膨らもうとしていた。
対するこちらはどう搔き集めても二万に届くかどうか。劉備軍の四千が離脱してる分、兵力も非常に厳しい。
加えてその二万を濮陽の夏侯惇の軍と分割する必要があるから、さらに減ってしまう。
おかしいなぁ、兗州を領しているのはこっちなのに、徴兵がここまで集まらないとは。
まぁ、史実でも曹操は、兗州での徴兵に苦心していたけどさ。
両軍は今、河川を挟み陣営を設けている。橋は上流と下流に一つずつ。
その他の橋は予め焼き捨てておいたし、呂布が渡ろうとすればその二つもすぐに焼くことが出来る。
「呂布軍で最も恐ろしいのは、騎馬隊だ。あれが戦場を駆けた瞬間、こちらの勝機は無くなる」
向こう岸で、調練なのか、それとも武威を示しているのか、騎兵が激しく駆け回っている。
勿論、俺が城に籠ってしまえば呂布の騎馬兵なんて何も怖くは無いが、籠城戦は最後の手段だ。
こうして城外で撃退できるに越したことは無い。劉備がそもそも信用ならないわけだし。
だが、いくら川を挟んでいるとはいえ、あの兵力で殺到されたら打つ手はないんだが。
「荀攸、呂布はここからどう動く。どう動かれたら、マズい」
「川を挟んで向こう側。兗州の南東の地で呂布が略奪や武力制圧に動けば、我々の方から川を渡らざるを得なくなります」
「それは大丈夫だろう」
「はい。陳宮はそれを選びません。兗州を自分のものにするために。ならば次点で、総攻撃かと」
「だよなぁ。それじゃあ早速、アレを試してみよう。路招将軍と、陳留工官令の高堂憲を呼んでくれ」
頬骨の張った、ヤクザみたいな強面の武将と、おどおどとして落ち着かない様子の太った爺さん。
ヤクザの方が路招将軍で、爺さんの方が高堂憲という。高堂憲の名前は、史実でも聞いたことが無い。
ただ、この爺さんは陳留郡で武具の製作を行う工房を統轄しており、しかも自らも職人という人物である。
少し前から俺は、于禁将軍の紹介でこの高堂憲にとある「兵器」の製作を依頼していた。
「高堂工官令(高堂憲)、今すぐに使いたいが用意は出来ているか?」
「え、あ、はい。現段階では、四台ほど。試運転も完了しています」
「よし。路招将軍、それを敵陣に目がけて撃ち込んでくれ。最も敵の密集している箇所目がけてだ」
「御意」
薄い皮に覆われた、大きな四つの箱が、ガタガタと川岸まで運ばれてゆく。
その大きさは全長でおよそ五メートル。川幅は百メートルくらいで、少し岸から離れていれば敵の弓の射程には入らない。
「射撃準備完了。幕を外せ! 照準は、敵前衛!!」
車輪が固定され、箱が外される。姿を現したのは、巨大な弩であった。またの名をバリスタともいう。
弩は漢王朝が独占して作ってきた兵器であり、その工房は冀州に集中しているとか。
そしてこうした巨大な「弩」は、春秋戦国時代から防衛兵器「連弩車」として存在していた。
この兵器はそれを改良したもので「次三弓弩」と呼ばれたりもする兵器である。
普通の弩は弦が一本だが、これには三本も備わっており、巨大な分、威力も桁違いだ。
ハンドルを用いて弦を引き絞る。高威力を出すために、重厚で鋭い大槍のような矢が装填された。
「────放て!!!!」
路招将軍の号令で銅鑼が鳴らされ、一斉にバリスタから大槍が解き放たれる。
それは恐るべき速さで河川を超え、不可思議な目を向ける敵兵を一瞬にして消し飛ばした。
射程は、三百メートルほど。
その威力は、城壁を穿つ。
大槍が通過した後には、人間の破片と血飛沫、そして砕け散った柵が無残に散らかっていた。
もう一度銅鑼が鳴らされると、大槍に付いていた縄が巻き取られ、再びこちらの手元に戻ってくる。
これは、この時代からおよそ八百年ぐらい後の「北宋」で使用されたとされる、攻城兵器を参考にしたものだ。
出せるものは惜しみなく使う。呂布が騎兵を用いるなら、こちらは飛び道具を出そう。
戦車対ミサイル。戦史のロマン。
さぁ、どちらが強いかを決めようじゃないか。
「想像以上だ、高堂憲。これで敵の膨れ上がった士気も挫けただろう。この戦に勝てたら、軍功第一は貴殿だ」
「で、ですが、やはり、まだ耐久に難があります。今の一撃で、一台が、恐らく壊れました」
「そうか。機を考えないとな」
路招が再び銅鑼を鳴らす。すると対岸の呂布軍の先鋒は雪崩を打ったように逃げ去っていった。
こういった大型兵器は連射が出来ない。勿論、この銅鑼もただの威嚇だ。
「荀攸、次はどうする」
「間違いなく呂布が出てきます。次三弓弩を城に下げ、拒馬槍を前面に出し、迎撃の構えを取りましょう」
「分かった。路招将軍に撤退の鐘を」
青銅の鐘が鳴らされ、路招はバリスタをガラガラと率いながら悠々と帰還した。
だが、余りに凄惨な戦果を前に、浮かれた歓声を上げる者は一人も居なかった。
・路招
五大将になれなかった名将「朱霊」とよくコンビになる将軍。
この人の代表的な戦みたいなものは思い浮かばないが、戦歴は結構分厚い。
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