表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/115

30話 呂布出陣


 四万の大軍勢。兵の士気は天を衝く勢いがある。

 今ならどんな相手にも負けることは無いと、自信をもって言うことが出来た。


「なぁ、いつまで落ち込んでいるのだ。貴方は、軍の大将なんだぞ?」


「殿が後顧の憂いを断つ間、私の役目は敵地に楔を打ち込むことだった。まさか、あのような小僧に負けるとは」


「張遼は負けた負けたと笑っていたから叱ったが、大将は少しくらいアレを見習うべきだ」


 日の光に照らされ、毛並みが赤く光る巨大な馬に跨るのは、一際大柄の武将。

 名は「呂布」。辺境のただの武人であった身分から、今や天下の群雄となっていた成り上がり者だ。


 呂布が自ら率いる騎馬隊は天下最強の名を欲しいままにし、現に僅か千騎で五万の袁術軍を蹂躙した。

 まさに乱世の英雄であると、羨望の眼差しを向ける者も少なくはない。


 そんな呂布の傍らで馬に乗りながら、悔しげに項垂れていたのは、陳宮であった。

 呂布は組織を運用することを面倒と見る気質があり、実質、陣営の全権は陳宮の手に握られている。


「戦は俺の仕事だ。そこまで大将に奪われたら、俺の立つ瀬がなくなる。だろ?」


「……気を使わせてしまい、申し訳ありません」


「それで、この戦で本当に兗州が取れるんだな?」


「曹昂は山陽郡を再び放棄し、定陶の城で防衛を敷いております。更に後方の濮陽には夏侯惇が駐屯し、定陶を支援する構えですね。我らがこの二つを落せば、兗州は取れます」


「まぁ、定陶だな。主力を潰せば、夏侯惇も退く」


「左様」


 陳宮の戦略は非常に単純かつ王道のものだった。定陶の城を包囲し、その間に各将軍らが兗州の諸郡を占領。

 統治機構を整えながら曹昂を排除して反攻の芽を潰し、兗州を完全に制圧するというものだ。


「それで、劉備は」


「知らせでは定陶にて、曹昂と共に城外で防衛の陣地を築いていると。ですがこれは虚兵でしょう」


「ほう、何故?」


「籠城は援軍あっての作戦です。そして曹昂の盟友は劉備のみ。つまり、それを頼るしか包囲を解く術はない」


「俺の不在を突き、徐州を奪うか」


「はい。ですが留守を担うのは高順将軍と張遼将軍です。劉備は僅かな兵しか持ちません」


 それに兗州の人心は既に陳宮が握っていた。

 故に有力者達から徴兵を行えば、徐州へ割ける兵も増える。


 確かに劉備の徐州での声望は篤いものがある。

 だが、それだけだ。名声で飯は食えない。


「まぁ、委細任せる。俺は城を落とすことだけを考えればいいんだろ?」


「そのための、私です」



 城には続々と物資が届けられていた。籠城戦は物資を如何に保つかの戦いだ。

 兵の士気を保つためにも物資は必要であり、これが尽きた瞬間が、城が落ちる瞬間だろう。


 そして、許昌からの輜重隊を率いてやってきたのは「丁沖」であった。

 曹操の古くからの友人で、母上と同族の人物だ。今までは長安の治安維持に当たっていた人物でもある。


 宛城の戦いで曹操が戦死すると、丁沖は都に帰還し、ウチの屋敷の護衛や維持に務めてくれた。

 つい先日、鍾ヨウが長安に赴いたことで、丁沖は正式に都に戻り、今はウチの家宰として働いてくれていた。


「御屋形様、戦の日々で顔つきも精悍になられましたな」


「丁沖殿のお陰で、私は家を離れられる。感謝しても、しきれません」


「当然のことをしたまでです。本来なら共に、こうして戦いたかった」


 この激動の日々で、丁沖は心労が重なり、更には病にもかかりがちでやせ細った姿になっていた。

 元々は大の酒好きで、酒豪として名を馳せた人でもあるが、その面影は今やみられない。


「大叔父殿や母上、兄弟達の様子は」


「ご隠居様は、家族に囲まれ幸せそうです。特に曹沖様につきっきりで、よく御母堂に叱られています」


「それは良かった。故郷を追われ、気を落としていないか心配でしたので」


「曹彰様は卞様の側をずっと離れず、曹植様はウチの息子とよく遊んでおります。そして曹丕様は、先代を悼んでおられます」


「……そうか。孝行が篤いのは良いことだが、病気になられては困る。気を付けておいてください」


「かしこまりました」


 この時代、儒教の理想として、子は我が身を顧みず親の死を悼まないといけない、というものがあった。


 粗末な生活をしながら三年の喪に服し、病に罹ったとしても、薬を口にしてはいけない。

 それは親の死よりも、我が身が可愛いということになるからだ。


 現代日本に生きた人間からすればあり得ない価値観だが、それを非難するのもまた違う。難しいね。


「それで御屋形様、この戦、どうなりますか。相手は、あの呂布です」


「無論、勝つ。呂布の首を陛下に献上してみせよう」


「なるほど、無駄な心配でした。ご健闘を心よりお祈りいたします」


「母上にも心配はいらないとお伝えください」


「承知しました。あ、それと、御母堂からの言伝ですが、この戦が終わったら、妻を取るようにと。縁談はご隠居様が進めてくれるみたいです」


「え」


 それさ「この戦いが終わったら俺、結婚するんだ」ってヤツ?

 本当にやめて。縁起でもないからさ!!



・丁沖

曹操の旧友で、丁夫人の一族の出身。アル中で死んだらしい。

司隷校尉として長安に赴任していたとあるが、おそらく鍾ヨウの前任者。

息子は曹丕にブスと馬鹿にされている「丁儀」。かわいそう。


---------------------------------------------------------


面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

評価は広告の下の「☆☆☆☆☆」を押せば出来るらしいです(*'ω'*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 呂布と劉備は知れば知るほどダメな部分とコイツおかしいわ(褒め言葉)って部分が出てきて評価が難しい。 あと公孫瓚も
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ