25話 全速前進
歴史ジャンルの月間ランキング3位に入ってるねぇ…Σ('ω')
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「劉兄、あの小僧は本気で呂布軍に勝てると思ってんのか? 張遼なんて相当な勇者だぞ?」
「分からん。董承を討ったと聞いた時は、凄い男だと思ったが、今はもう分からん。関羽はどう見る」
「あの作戦を聞けば、戦を知らぬ血気盛んな小僧と言う他、御座いませんな」
「だよなぁ……とりあえず、与えられた役割はこなす。少しでも旗色が悪くなったら退く、良いな?」
「張飛、お前は逸るなよ。嫁の為に良い働きを見せようとして、身を危険に晒す必要はないのだからな」
「な、わ、わかってらい!!」
◆
右に河が流れ、左側は広く開けた土地が広がっている。
張遼はこの左側から回り込み、こちらの全軍を河に追い込もうという算段なのだろう。
もしそうなってしまえば、こちらの被害は相当なものになる。
勿論、全軍の壊滅さえあり得る。俺の号令一つで、多くの仲間が死ぬかもしれない。
「曹昂様、震えておられるので?」
「馬車が揺れてるだけだ。お前は占い師らしく、戦勝を願っておけばいい」
「大丈夫です。曹昂様は勝ちますよ」
俺の不安を解そうとしてくれているのか、不其は柔らかく微笑む。
こんな少女に心配されるというのは、何だか男として少し情けなくなるな。
「殿、手筈通りに全軍の布陣が終わったと、荀攸殿から伝令です。殿も急ぎ持ち場へ」
「分かった。曹仁、お前は劉備と共にあの騎馬兵を阻め。勝てとは言わない、必死に足を止めさせろ」
「死力を尽くします。許チョ、殿を頼む」
「命に代えても」
曹昂・劉備の連合軍の総数は二万余り、そして陳宮軍は一万を越える兵力を有している。
兵力では優勢だ。呂布の本軍が動いたという話もない。
ただそれは裏を返せば、これで十分だと思っているという事でもある。
ありがたい。そのまま俺を見下していてくれ。油断を、しておいてくれ。
馬車から降りて、馬に跨る。兵装は普通の一般兵とそれほど変わらない、部隊長クラスの防具だ。
右手には河が流れており、日の光がやけに反射している。
両陣の布陣を見れば、やはり土地が広がった左側に騎兵を中心とした精鋭を多く配置していた。
劉備がどれほど懸命に働いてくれるかは分からないが、せめて一秒でも長く、張遼の足止めをしておいてほしかった。
まだ、敵はゆるゆると布陣を整えている最中だ。
こちらが進軍している間に、布陣は間に合うと考えてのことなのだろう。
「太鼓を鳴らせ! 開戦だ!!」
剣を天に掲げる。太鼓が戦場に鳴り響き、全軍が前進を開始した。
それと同時に、逸早く戦場に出ていた敵の騎馬兵、張遼の部隊が解き放たれた虎の如く駆けだした。
劉備も太鼓を鳴らし、張遼に遅れて前に進む。
もう、左翼は砂煙の中で詳しい状況は見て取れない。
頑張ってくれと祈りながら、俺は正面の敵を見据えていた。
敵は前列に弓兵だけ、迅速に布陣を終わらせている。
こちらが重装歩兵を前面に出して進軍しているのを見ての判断だろう。
重装歩兵の密集陣形は、衝突してしまえば相当な威力を発揮する。ならばぶつかる前に崩せばいい。
遠距離から矢を浴びせかけ、密集に穴を作る。そうなればただただ鈍足な歩兵が前に進むだけになってしまう。
「そんなことは、百も承知だ」
胃に穴が開きそうになるほど焦る気持ちを抑えつけ、一歩一歩、慎重に前に進む。
敵は、矢をつがえ、弓を引き縛り、照準を天に向けている。
まだだ、まだ、まだいける。
弦は振り絞られているように見える。
もう少し、あと一歩。もう一歩だけ。
(────────なてっ!!)
敵の部隊指揮官が、何かを叫んだ。旗を挙げた。その瞬間だ。
天に掲げていた剣を振り下ろし、敵に向けた。
「走れ! 陣形など気にするな! とにかく前に進め! 全速力で、走れ!!!!!」
太鼓がうるさく鳴り響く。
盾を構えていた歩兵たちはなりふり構わず前のめりに駆けだした。
弓矢が放たれるが、関係ない。それよりも早く走ればいい。
耳元を矢が通り過ぎる。だが、例えこの身に矢が突き立とうと、もう止まらない。
明らかに敵の動揺が見て取れた。
陣形を崩してまでの行軍に、一体何の意味がある。こんな戦術は、馬鹿のやることだ。
弓兵は急いで後方に下がって、重装歩兵が慌てて前面に出てきている。
後列に居たはずの俺は、いつの間にか最前列にまで出て、馬を駆けさせていた。
大きな衝撃が走る。
それと同時に、俺は宙に放り出された。
地面に激突するが、痛みはない。
急ぎ起き上がり、剣を握る。
「殿、無茶はお止め下さい」
「構うな許チョ! 早く敵を突破しろ!!」
重い鎧を着こみながら、数百メートルを全速で走破し、そのまま敵陣に衝突する。
勿論陣形なんてない。バラバラの衝突に何も意味はない。
すぐに勢いは止まり、中央は大きく押し出される形になってしまった。
だが、これでいい。
そのためにあえて、中央の戦列を薄くしておいたんだ。
その分、右翼に精鋭歩兵「虎士」をこれでもかと集中させておいた。
中央は大きく押し込まれながら、右翼だけはグイグイと前に進み、敵中を踏破する。
こちらの右翼だけが突出する形になった。
対して、敵の中央後方もまた、こちらの戦列を押し込み前進している。
あそこに、陳宮が居る。
あの脇腹を食い破ることが出来れば。
許チョは柱のような棍棒を振るい、敵兵を砕く。
俺も懸命に盾を構え、敵兵を押し込み、剣を振るう。
戦の中で再び密集陣形は元に戻り、本来の威力を取り戻した。
もっと、もっと前に進め。中央が突破されたという報告も、ここまでくれば関係ない。
「見えた」
敵の本陣。揺れる「陳」の旗。
右翼を突破し、敵本陣の真横に躍り出たのだ。
「敵将の首を取れ! 陳宮を討て!!」
・重装歩兵
戦の主役。戦列の最前線で敵を押し込む係。ラグビーでいう、スクラム組む人。
特にヨーロッパの戦場では猛威を振るっていた兵科。
基本的に密集して戦い、正面の相手を圧し潰す。でも横や後ろに回られると弱い。
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