表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/115

19話 仇討ち


 董承処刑後すぐの、張繍との決戦。正直、荀彧はこの急な出兵に反対していた。

 政変によって生まれる混乱を考えると、俺が外に出るのは得策ではないと。


 これに反対したのが郭嘉と荀攸であり、特に荀攸の意見は荀彧を納得させるだけのものがあった。

 荀攸は、荀彧の年上の甥で、曹操軍の軍事戦略を担当している重要人物である。


 軍事の天才とまで称された曹操の戦術面を一手に担い、その躍進を支えたという軍師筆頭格。

 戦争に関する作戦立案では、荀彧でさえ荀攸の意見を無視するわけにはいかないらしい。


「張繍を攻める。殿はそれを宣言しなければなりません。戦略的には確かに悪手ですが、将兵の期待には応えるべきかと」


 荀彧が目の覚めるようなイケメンなのに対し、荀攸はいかにも地味で印象に残らないような風貌をしていた。

 本当に、駅ですれ違う普通のおじさんみたいな。ただ、几帳面で生真面目な性質は何となく伝わってくる。


「殿は今まで形だけとはいえ董承に阿り、郭嘉や董昭と娯楽に興じ、衆目に失望されました。失った信頼は、行動でもって取り戻さねば」


「急に、そんな兵を集められるのか? 兵糧や、武具は」


「多少の無茶であれば、文若(荀彧)殿は応えられます。ただ、戦が出来たとしても十中八九、我々は負けるでしょう」





「お久しぶりですね、曹昂様」


「そうか、戦だからお前も来るのか」


 俺が乗り込もうとした馬車には、既に一人の少女が座っていた。

 青州兵の当主的な存在で、占い師の「不其ふし」だ。相変わらず、不思議で妖艶な微笑みを浮かべている。


「占ってくれるか、此度の戦を」


「占うまでもありませんが、良いでしょう」


 馬車に乗り込むと、馬は走り出し、車はガラガラと揺れた。

 不其は垂れ下がった袖に細い足を入れ、あのサイコロを取り出す。


 しかし、今回はひとつじゃなく、二つ。

 色も白と赤で、器用に右足の指と指の間に挟みこまれている。


 そして不其の足元に置かれた一つの木箱に、二つのサイコロが一斉に落とされた。

 カラカラと音を立て、サイコロはそれぞれ違う出目を示している。


「白が今を、赤が未来を示します。白は『誤り』を示唆する絵が、そして赤は『人』を示す絵ですね」


「人?」


「私はこの目をよく、人が訪ねてくることと解釈しています。とかく人が増えるという意味で、戦においては敵が降伏するものと見ることも出来ます」


 敵が、降伏してくる。まさか張繍が降服すると? いや、それは絶対にありえない。

 とはいえ、まぁ、所詮は占いだ。この戦を「誤り」と見てるなら、敵が降伏するという意味にも繋がらない。


「よく分からんな」


「白の意味が、赤の意味に繋がりますので、結局この戦は誤りであり、不吉であることは間違いありません」


「とりあえず胸に留めておくことにするよ。用心するに越したことはない」


 不吉だといわれて、それをいちいち気に留めるほど俺の精神年齢は若くはない。

 人生なんて、不幸と二人三脚なんだから。


 しかし何故か、不其はそんな俺に不満げな表情を向けていた。

 あ、そっか。占ってくれって言ったのにこんな反応されたら、イラっとするわな。


「報酬はいくらほしい?」


「はぁ……曹昂様の奥方になる女性が、本当に気の毒です。感謝の言葉でしょう、まずは」


 ん? 今コイツ「お前モテないだろ」って言った? マジ?

 どーしよっかなー、泣いちゃおうかなぁ。



「殿、荀攸に御座います。少し、よろしいですか」


 馬車の隣につけるように、馬に乗った荀攸が並走していた。

 ここからは戦の話だ。不其は目を閉じてその場で黙り込み、無視してくれという姿勢を見せている。


「どうした?」


「いえ、先を進む于禁将軍と楽進将軍より、今夜の野営地の知らせを受けたので、一応、ご報告をと」


「兵站の確保も大丈夫か?」


「文若殿の用意した兵糧を、夏侯淵将軍と李典将軍が運んでおります。また、汝南の満寵将軍からも援助が出ており、現時点では問題ありません」


「分かった」


 総勢、一万余り。これが今の俺が迅速に動かせる最大兵力らしい。

 決戦に臨むとするなら少ない兵力だが、呂布や袁術や袁紹、そして内側にも備えるならこれが精一杯なのだ。


 それに曹操軍は騎兵の数も多い。となると運用コストが更に高くなるのだ。

 単純に考えれば人間と馬の食料が必要なわけだしな。戦略ゲームみたいにポンポン増やせるものでもない。


「許昌は文若殿、郭嘉殿、そして徐晃将軍に残ってもらっており、変事があればすぐに連絡が入ります」


「それで、例の謀略は」


「郭嘉殿の主導のため詳細は分かりませんが、現時点で問題はないと」


「問題があったら困るんだけどなぁ。それ頼みなところあるし」


 馬車の周りを、曹仁に率いる虎豹騎が調練がてらに駆け回っている。

 ここまで郭嘉の言うとおりに全部してきたけど、うーん、大丈夫なんだろうか。


 何だか今更、不安になってきたかもしれない。



・荀攸

荀彧の甥だけど、荀彧より年上。ややこしいね。

実は董卓暗殺計画にも加わっていた過激派。後に曹操に仕える。

曹操陣営の軍師筆頭として多くの機密情報を扱っていたとされる。


---------------------------------------------------------


面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

評価は広告の下の「☆☆☆☆☆」を押せば出来るらしいです(*'ω'*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ