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13話 天才の本質


「殿! あれは何とかならんのか!!」


「ど、どうなされたのです。夏侯惇殿らしくもない」


 荀彧に渡された人事異動の報告書やら、今現在やっている屯田政策に関する書類の山に埋もれていた所のことだった。

 顔を真っ赤に染めて、珍しく気を荒立てている夏侯惇が、どしどしと俺の執務室にまで駆け込んできたのだ。


「何故、あの二人を組ませた! 郭嘉と董昭が好き放題にやっているから、周囲からは抗議の嵐だ!!」


「あ、あぁ、いやぁ、でもある意味、相性は良いのかなぁって」


「悪い方向に磨きをかけてどうする!?」


 荀彧との話し合いの上、現在、郭嘉の下に董昭を付けて、表向きは軍師として働いてもらっている。

 詳しく言えば「防諜機関」の管轄を俺は二人に期待していた。FBIとかKGBとか公安とか、そういうやつだ。


 郭嘉達がスパイ機関を統轄してくれるなら、没我は勢力内部の調査にだけ回すことが出来る。

 曹操が死んだことで極めて不安定となった内部での反乱を防止するために、人手は多い方が良いからな。


 しかし、この二人、性格的に大いに問題があった。予測してなかったわけではないが、うーん。

 俺は夏侯惇殿に首根っこをひっ捕まえられるような状態で、ずるずると郭嘉たちの下へと連行される。



「……董昭、これはどういうことだ」


「あぁ、殿! いやはや来て下さるのを知っていれば色々と用意しましたのに! お、夏侯惇将軍もご一緒でしたか!」


「郭嘉はどこだ! お前らは何をやっている!!」


「し、将軍、何をそんなに怒っておられるのですか」


 まるっと肥えて、人懐っこい顔立ちをしている董昭は、夏侯惇の怒鳴り声に思わず耳を塞ぐ。

 仕事場のはずなのにまるでここは宴会場の様になっており、多くの商人や踊り子も出入りしていた。


「郭嘉殿は、はて、どこに行ったのでしょう? まぁ、恐らくまたどこかで、女と遊んでいるのではないでしょうか?」


「貴様ッ……」


「夏侯惇殿、ここは私が話しますから。ひと先ずお任せを。ゆっくり休んでください」


「これ以上の横暴は許さん、それだけは忘れないでいただきたい」


 この時代は、儒教的な倫理観が人々の意識の大半を占めているわけだ。

 簡単に言えば「道徳」が何よりも大切とされている。


 そんな時代でこんな好き放題をやっていれば、夏侯惇殿じゃなくても激怒するだろう。

 職場で酒盛りと女遊びを大々的にやるヤツとか、別にこの時代じゃなくても考えられんけどな。


「俺も酒を一杯貰おうか」


「やはり殿は話が分かるお方だ」


 足取りけたたましく宴会場を出ていった夏侯惇殿を横目に、俺は小さな杯に酒を注いでもらう。

 果物や魚の煮物など、中々に珍しい料理があちこちに並んでいた。踊り子も何というか、それぞれ人種が少し違うような見た目だ。


「董昭、お前を抜擢するように推したのは俺と于禁将軍だ。お前のやることに口を出すつもりはないが、顔は立ててくれ」


「つい先日まで袁紹の元に居た私を受け入れ、一気に重職にまで任じて下さった。勿論、それに見合う結果は出しますよ」


「それじゃあ、説明をしてもらえるか。納得できるだけの」


「良いでしょう」


 すると董昭は懐から一つの書簡を取り出した。開いて見てみるが、なんてことはない、この宴席の領収書的なアレである。

 もしかしてコイツ、これ全部を経費にするつもりじゃなかろうな。いよいよ夏侯惇が火を噴くぞ。


「これが、どうしたってんだ。あちこちから色々と買い込みやがって」


「この価値が分かりませんか? 今、我々はこれだけの商家との繋がりを有し、提携を結んでいるということです。皇室に繋がりを持っているという箔は、商人が皆求めるものですからな」


「商人を、情報の道筋にするということか?」


「流石は殿ですな。賢明であられる」


 ゲームとかで出てくる董昭って陰湿な感じのある策謀家って感じの印象だったが、今、目の前にいるコイツからはそんな暗さは感じない。

 社交的で、ニコニコしていて、口もよく回る。ただ、何を考えているかがわからないというところは引っかかる。


 まぁ、でも、商人を情報源として用いるのは歴史上でもよくある話だ。

 どこに移動しようと、商人であれば不思議じゃないからな。色んな土地の情報を得るには効率が良い。


「私はこれから兗州の統轄を現地で担う立場となり、袁紹と呂布を同時に阻む任務を持たねばなりません。自分の命を守るためです、手は抜きませんよ」


「お前にしかできないと、俺は思っている。お前がやってることに口を出すつもりもない。まぁ、あんまり変なことはしないでほしいがな」


「この私をよくそこまで信用できますな。自慢ではありませんが、私を召し抱えたものは皆、私に疑いの目を絶やしませんでしたよ?」


「才あるものは登用する。品性は問わない。父はそういう人だった」


「これまた、荀彧様に怒られそうなことを」


 酒で頬を赤く染めながら笑う董昭に領収書を返し、俺も自分の杯を飲み干す。

 ついでに蜜柑もふたつくらい貰っとこ。

 

「郭嘉は、女遊びしてるんだったな。夏侯惇殿に、本気で怒られない程度にしてくれと伝えておいてくれ」


「これも諜報活動の一種だと、至って真面目に本人は言ってますからなぁ。何をしてるかまでは知りませんが、お伝えしておきましょう」


 いつか直接、ちゃんと郭嘉と話さなきゃなぁ。

 そんなことを思いながら、俺はもう一杯だけ酒を注いだ。



・董昭

郭嘉の後任として参謀格となった謀臣。たぶん荀彧の政敵。

許昌遷都、関羽の撃退、曹操の魏公就任などで活躍。董承とごっちゃになりやすい。


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