第24話 覚醒の水音 最強の武器王女
美奈は水音達の為に戦う。
水音を連れて逃げる今井は、あってはならない存在に出会う。
最強が命を狙う。
そして、水音が変わる。
能力制御を無くした水音は、爆発的に目覚める。
覚醒。
ドォン!という音に今井は足を止めた。
激しい爆音がその後、何度か続いた。
今井の表情に不安が見える。
(美奈ちゃん・・・大丈夫・・・だろうか)
その音は確実に美奈が居る筈の後ろの廊下から聞こえた。
(今は歩くしかない・・・)
自分に言い聞かせて肩を貸している水音を引き摺る。
出来るだけ急いでいるのだが、人、一人分を運ぶのはどうしても遅くなる。
今も目を覚まさない水音が心配に思えた。
そして、和也が脳内を過ぎる。
下手をすれば死んでいる可能性だって決して少ないわけでは無い。
そう思うと、背筋に寒気が走った。
(・・・駄目だ!最悪の状況ばかり考えても!)
そう自分に言い聞かせるも、顔の不安は拭えない。
しかし、廊下の先にある表札が見えた。
(希望が・・・!)
見えた。
だが、そこで足を止める。
表札に書いてあったのは、情報探索室。
それは朝に放送で流れた近づくな、と言われた部屋だった。
少し考えた後、足を進める。
(・・・ドアが開いてる。)
妙だった。おかしい。
聞き覚えの無いその表札の名は、専門用の教室であって不断からドアが開いている可能性はあまりにも少ない。
ましてやこの非常時にこのドアが偶然開いていることは考え難い。
ドアに近づくと恐る恐るドアの中を覗き込む。
暗い部屋は薄暗く何も見えないが、声が聞こえる。
誰かが居るらしい。
(誰が・・・?)
この非常時に、何故、情報探索室に居るかは解らない。
「ッチ・・・、やっぱりデータの中には情報はないわねェ」
女の声、誰に言っているのかは解らないが、カタカタという聞き覚えの在るキーボードを押す音で何をしているかは解る。
そして、女が誰かは解らないまでも何者かは解る。
現在こんな所にいるのは、首謀者のみ。
つまり、敵。
(クソ!どうする!?ここ以外にパソコンが近い所は在るのか!?嫌・・・今はそれよりもここから逃げることを優先した方がいい!!)慌て踵を返そうとした。
だが慌てすぎた。
肩を預けている水音が、踵を返した瞬間ふらついている足がドアに当たった。
「!!!」
ガン!と言う音に寒気が走った。
「あらぁ?」
女の声が部屋から聞こえる。
(気づかれた…!?)
必死で息を殺す。ばれていないことを祈るしかない。
今の状況で水音を担いで逃げれるとは思えない。
(頼む…!!ここまで来て!!美奈ちゃんの思いが無駄になる!!)
目を強く瞑り、祈る。
「…」
女の声の後、それ以上の声は聞こえない。
(気づいて無い…?)
そこでホッとした。
(今はここから離れることが優先…か)
水音を再び担ぎなおそうとした。
…瞬間、
「伏せて!!」
大声と共に気絶していた筈の水音が今井に体当たりをかました。
飛び付いた水音に反応出来ず、そのまま床を転がる。
「な!何だ!?」
と、今井の驚愕の声と同時に今井が先程までもたれていた壁が爆破した。
「!?」
ドォォン!という大きな音が響き渡る。
「あらぁ〜?よけられたわねェ?」
再び先程の女の声。
その先に目を向けると、長い髪の女性が立っていた。
グラマラスな体を持つ女性だが、顔の化粧が薄らと剥がれていて不気味な表情を帯びていた。
その女性は、学校内でも有名な美人教師であり、今井は何となく話には聞いたことが在った。
だが、状況から察するに、学校の教師として見ることは出来ない。
先程の爆発が、その女教師がした物ならば、今井達を狙った確実な敵。
だが、それと同じように水音に驚いていた。何故、解ったのか。
「水音ちゃん!?大丈夫なのか!?」
「誰かさんが足ぶつけたせいで起きたんだよ!!メチャクチャ足痛いよ!!」
そう言いながらも水音は今井を見ずに女教師を睨んでいた。
水音も教師が敵だということに気づいている。
つまり、この教師はスパイ、裏切り者。
背を見せて顔は見えないが、戦闘が専門でない今井としては頼もしい限りだ。
「う…それは悪かった…」
顔を合わせない水音の背中に向けて弱弱しく謝る。
「ねぇあなた達?」
女教師は水音達に向けて笑みを向ける。
だが、目は笑っていない。
「一応聞くけど…この学校の宝って知ってる?」
女の声に水音が眉を寄せる。
「…宝?」
そんな水音の様子に、知らないことを察したのか、表情の笑みが消え去った。
「そう…一般生徒はやはり知らないみたいね、じゃあ、あんた達に用は無いわ」
そう言って、暗がりの部屋に戻っていく。
(見逃してくれたのか…?)
そう、今井が思ったが、その思いは違っていた。
「自分たちから来るんですもの、殺されに…」
暗がりから女の声が聞こえた瞬間、
爆音が鳴り響いた。
ドォン!という銃声音と共に水音は飛び退いた。
飛びのいた水音と今井の間を何かが通り抜けていく。
暗がりから、女教師と入れ替わりに出てきたのは、
別の女教師。
右手に煙を上げる銃を持ち、綺麗な黒髪の持ち主。瞳は燃えるように赤く染まっていた。
その女教師は今井も水音も良く知っている人間だ。
「・・・・・きよ先生!?」
今井の担任であり、水音の所でも授業を担当しているその人は、マインドの証の赤い瞳を携え、その表情にいつもの笑っている笑顔は無く、ただただ、無表情が展開されていた。
「!?」
無表情のまま銃口が今井を向く。
つい、ペタンっと座りこんでいた。
「水の柱ァ!!」
叫び声のワンテンポ後に引き金が引かれる。
今井の目の前に氷の壁が出来るのと同時に短い銃声音が響く。
バキィン!!という氷に突き刺さる鉛玉は今井の目の前で止った。
「・・・!」
水音の行動が遅れれば氷では無く、自分の頭に鉛玉が突き刺さっていたと思うとゾッとする。
「きよ先生…マジかよ…」
慕っている担任が目の前でガチリッという弾の装填の音と共に引き金に指を掛ける。
その動作を今井は呆然と見ていることしか出来なかった。
バチィン!という音と共に教師の手から銃が弾き飛んだ。
横から何かが飛び出したのだ。
慌てて飛び込んできた先を見ると、弓を手に持つ水音が立っていた。
「ぼうっとしてないで!!」
水音の言葉に弾かれるように立ち上る。
水音は間髪入れずに弓を引く。
同時に創り出されるのは氷の矢。
弦を離すと同時に一直線に矢は教師へと走る。
女教師はそれを気にかけず首を傾けるだけでその矢を簡単に避けた。
その間に今井は慌てて水音の方に走った。
水音はその後に何度も矢を放ち、教師を足止めする。
今井が来ると同時に水音も今井に合わせて踵を返す。
走り出すと同時に水音の手から弓が薄い煙となって消える。
それを一瞬いぶかしそうに見るも、今井は直ぐに走る事に集中することにした。
走って向かっている所は一直線の廊下で有り、必然的に美奈の方に向かっている事になる。
「美奈は!?」
走りながら水音は今井に大声を放つ。
一瞬、言葉を詰まらせた表情をするが、今井は直ぐに大声を返す。
「もうマインドは解けている!俺達の足止めをしてくれている!!」
「だから美奈は今戦ってるの!?」
(…だから?)
まるで美奈が戦っているのを見たかの様な言い方に今井は疑問に思った。
「このまま美奈を助けに行こう!!」
そう叫んだ美奈に直ぐ様に叫び返す。
「駄目だ!!」
その言葉に水音は眼を丸くした。
「どうして!?」
「このまま、きよ先生を連れていけば美奈ちゃんは絶対に死ぬ!!」
「死・・・!?」
その言葉に水音の表情が一気に青ざめた。
今の美奈は見た目よりかなり重症で、本来戦っていい状態程では無い。
「美奈は重症だ!あの状態で、きよ先生を連れていけば確実に!死ぬ!!」
今井はきよ先生の実力を知っているから今、操られているきよ先生を美奈の所まで連れていけば確実に殺されることが解るのだ。
「だが…」
一直線しか無い廊下はどうしても、
必然的に向かう事になる
「じゃあ!コッチ!」
そう言って廊下の間の部屋へ入る、
今井も釣られて部屋に飛び込むが、その後冷静になる。
「何でだよ!!部屋に入ったら!それこそきよ先生にやられるだろ!!」
一つの教室に入ればそれこそ逃げ道は無い。
その部屋は今井は見覚えがない。
大きな学校のソレは知らない教室も多く存在する。
「コッチ!」
そう言って水音は先に進む。
その進み方に迷い素振りは全く無い。
更に今井は困惑した。
(何でこんなハッキリと判断出来るんだ!?行き止まりになれば俺達は終わりだぞ!!)
廊下の奥の倉庫のような物に入る。
「水音ちゃん!もしかし隠れるつもりか!?それこそ無茶…」
そう言いきる前に、水音は倉庫の床に不自然にあった金属で出来たとってに手を掛けていた。
暫く使われていないのか、開けた瞬間、埃が待った。
その先にあったのは暗がりの続く梯子の道。
「こっから下の階に行ける!!」
そう言うとサッサと梯子から降りようとしていた。
「!?」
(何で知ってるんだ!?)
情報人である今井ですら把握できない量の教室から、明らかに隠し道と思われる道を一直線に向かったのだ。
「水音ちゃん…知ってたの?」
そう聞くも、既に体の半分が見えない程に降りていた。
慌てて今井も追う。
「ううん、」と今井に向けて短い否定の声を発する。
(オカシイ・・!さっきから水音ちゃんの行動がオカシイ!!)
最初に目覚めた時も、瞬間的に見えない筈の壁からの攻撃を察知し、その後にも操られた時の混乱で作ったと思っていた弓を作り、美奈の様子を見た様な事を言い。
知らない筈の道を当たり前のように知っている。
「…の」
(え?)
今井は水音の声を逃していた、先ほどの否定の声から言葉は続いていたらしい。
「え?何て?」
水音は少し黙った後、続ける。
『解るの』
梯子を降りながら水音はポツポツと小さく話し出した。
「この学校の見取り図が頭の中に出来てて、誰が何処にいるのかまで解る…偶に神経が過敏になって人の行動が読めたりすることはあったんだけど…今はそんなんじゃない。本気を出せば…人の心まで読める気がする」
(人の…心まで!?)
水音の髪は今もストレートのままだ。
つまり能力制御装置の髪留めを付けていない状態なのだ。
本来なら暴走する筈の莫大な力を、水音は操っているのだ。
今井にはそれしか、水音の突然の異常な感知能力を説明するのが思いつかなかった。
「そして・・・今なら誰にも負けないと思う」
あまり強気に出ることのない水音からそんな言葉が出るとは思わなかった。
梯子から降りると、小さな部屋であって教室では無い。
「教師達専用の休憩室か?」
薄暗く、胸糞が悪くなるほどの煙草の臭いに今井は眉を顰める。
あまり綺麗な部屋では無い。
ここは教員達の喫煙所の様だ。
学び舎である学校内ではこういった場所は存在する。
「今井君、あれ」
そう言って水音が指さした先に、古びた机に置いてあるノート型のパソコンがあった。
今井は、取り合えずパソコンのスイッチを押す。
だが、ランプが点灯することは無かった。
「やっぱり、パソコンも駄目なんだ?」
そんな落胆した表情を見せる水音に今井は首を横に振る。
「嫌、接続の問題だと思う…ちょっと時間かかるけど機能させることは可能だ」
今井はその古臭いパソコンを隅々まで調べ始める。
だが、そんな今井を見て水音は不安な表情を見せる。
そんな水音を気にしつつ、今井は口を開く。
「水音ちゃん、今の水音ちゃんは多分、能力制御装置の髪飾りが無くなって『能力が暴走』している状態なんだよ」
今井はパソコンを弄りながら、自分の知っている全ての知識で水音の状態を教えようとした。
「でも…?私、能力が使えるよ?」
そう、水音は能力が暴走しているにも関わらず、力のコントロールが出来ているだけで無くいつも以上の力を身に付けている。
それが今井には解らなかった。目が真っ赤になった瞬間、今井にでは無く、美奈に襲い掛かっていた時点で今井には訳が解らないでいた。
「それが…解らない、突然な莫大な力は絶対に『能力の暴走』の筈なんだが・・・水音ちゃんは解る事は無いのか?」
今井の言葉に水音は困惑の表情を見せる。
「私も解らない、あんな弓を出したのは初めてだし…ここまでハッキリと『解る』ことも無かったから…ただ」
そこで一回言葉を噤む。
「私の目は元々『赤い』から、関係があるのかな?」
「!?」
その言葉に今井は驚愕の表情で振り向いた。
今井は情報人という仕事をしている分、知らないことは少ない。
だが、それは初めて聞いた。
「初耳だ…」
「そうだっけ?」
能天気に首を傾げる水音の瞳は淡い黒色。
(関係あるのか...?嫌、目の色でそこまで意味があるなんて思い難いな…)
困惑の表情を見せるも今井は直ぐにパソコンに向き直る。
「・・・・」
「・・・・」
少しの間が空いた。
先に口を開いたのは水音。
「今井君、どう?」
その声は何故か鋭い。
そんな鋭い声に違和感を持ちながらも答える。
「ああ、大丈夫だ、パソコンは行ける!後は壊れている部分を修復すれば外と連絡が取れる!!」
「それ…どれくらいかかる・・・?」
何故か声が暗い。
「30分…いや、20分あれば何とか」
「…解った」
そう言うと一人で廊下に出るドアに歩きだした。
「…?」
「こちらにグループの一人が向かってる」
水音は背を向けながらそう零す。
「!?」
今井には解らないが、水音には確かに見えるのだろう。
「大丈夫…私が守る」
水音にしては強気に出た言葉が零れる。
だが、それでも今井は心配だった。
「逃げた方がいいんじゃないか・・?」
今井の弱気な発言に、水音は振り返ると小さく微笑んだ。
ドアを開けると共に暗い部屋に光が入る。
「大丈夫」
ハッキリとした言葉、何故そこまで言い切れるのか今井には解らない。
「言ったでしょ?今の私なら負ける気がしない…!」
「!?」
そう言った瞬間、水音の淡い黒い瞳が一瞬だけ、赤く染まった。
「水音ちゃ…!!」
呼びとめようとするも、水音は既に廊下に出ると同時にドアを閉めた。
確信に満ちた、赤い瞳は、狂喜を含む。
ドアをブチ破ると同時に、
きよ先生は一つの教室に入った。
赤い瞳で、キョロキョロと辺りを見渡す。
無表情のまま、教室の奥へ行くと、一直線に水音達が入った床の所まで来ると躊躇いなく床の金具を引っ張った。
空いた先に、梯子が続く空洞。
きよ先生は表情を変えること無く、ゆっくりと梯子を降り始めた。
過去に請負人、Sランクの称号を手にした武器王女は、大切な生徒の筈の水音達を殺すべく、梯子を降りる。
その瞳に赤い凶器の瞳がギラつく。
アウトサイダー更新んんん!!
やたーい!更新出来たーい!
やはり、アウトサイダーは文字多めの方がいいのかな。
いえ、もう一つの作品は文字少なめですが、更新速度を出来るだけ早く!
こっちは丁寧に、文字多めに、だから更新遅く。
みたいな感じですが。まずいです、アウトサイダーが終わる気がしない!!
後、5年はかかるんじゃ!?とちょっとびびってます
いえ、どうでもいいんですが・・・
それでは、また次回でお会いしましょう!
失礼しました〜




