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◆4-10:アキラ 倉庫(3)

「ケネス。どこだー?」


 アキラが真っ暗な天井に向かって声を張り上げる。


「……ここだ。何か見つかったか?」


 返って来た声が思ったよりも遠いことにアキラはひとまず安堵する。

 もし盗み聞きでもされていたら、ユフィと話して決めたプランも全て台無しになっていたはずだが、どうやらそういった心配はなさそうだった。


「いやあ? けど、ユフィが怯えてるからちょっと戻ってきてくれよ」


 そう言ってユフィがいる方に目を向けると、複雑な表情でこちらを見上げる彼女と目が合った。

 長く距離が離れていると自我が失われる可能性が高いのだと教えられたが、今のところはまだ、彼女は(メラン)のままであるらしい。


 一分近く待ったあと、暗闇の淵からケネスが顔を覗かせる。

 それに気付いたユフィは待ちわびていたようにコンテナから立ち上がり、ケネスに正面から抱き付いた。

 それを見て今度はアキラの方が複雑な表情になる。

 あんな姿でも彼女の中身はれっきとした大人の男──らしい。

 それに、あれは敵を油断させるための演技である。と、分かっているつもりなのに、どうにも負けた気分にさせられてしまうのだった。


「君がユフィのことで俺に頼るとは意外だな」


 自分の胸に顔をうずめる少女の肩を抱きながらケネスが言う。


「仕方ねーだろ。凄く震えて……、泣いてたんだ」


 アキラが横目で見やるユフィの身体が一瞬震えて固まる。

 泣いていたアリバイを作るため、今から必死に涙を溜めようとしているのかもしれない。

 しまったなと、アキラは僅かに唇の形を歪める。

 もっともらしい嘘をつこうとすると、余計に墓穴を掘ってしまう気がした。


「俺、やっぱり上に戻るわ。イザベルたちの方も心配だし、なんで照明が落ちたのかも確かめないと」

「そうか」


 ケネスの反応は淡泊だった。

 アキラとはほとんど目も合わせることなく、ユフィの身体を自分から引き剥がし、彼女の手首に掛けた錠を外しに掛かる。

 分かっていたことだが、アキラのことはほとんど彼の興味の外にあるようである。


「ユフィのことはお前に任せたからな。さっきの、必ず守るって言葉、信じたぞ?」

「ああ。任された」


 アキラがこれ見よがし、聞こえよがしに舌打ちをする。

 そうして床面に点在する非常灯を頼りに元来た道を戻ろうとしたときだ。

 振り返りざま振った肘にコンテナがぶつかった。

 決して強い力ではなかったのだが、その衝撃により、それまで微妙なバランスで積み上がっていたコンテナの柱が大きく揺れ動き、盛大な音を立てて滑り落ちた。


「あぁあぁ……」


 幸い崩れた方向がユフィたちがいるのとは逆方向だったので大事には至らなかったが、進路を塞がれたアキラは立往生してしまう。

 これはよじ登って乗り越えるか、回り込むかしないと通路側には抜けられそうにない。


「大丈夫か?」


 ユフィを伴いながらケネスが近寄ってくる。

 それを憮然とした表情で見つめるアキラ。

 こいつは敵の癖に、などと考えてしまう。


 決してアキラ一人の思い込みでなく、メランから聞いた話を総合して考えても、こいつが〈見えざる者〉の一員であることはどうやら間違いなさそうなのに、やること為すこと全て、いい奴がすることだから混乱してしまう。

 我を忘れて暴れていたムンドーや他の皆を救おうとしたことしかり。イザベルの頼みを聞いて、ユフィをかくまうことを手伝おうとしていること然りだ。


「ん? どうした?」


 アキラの無事を確かめに近寄って来たはずのケネスは、今はアキラには目もくれず、足元に横たわる物体を注視して固まっていた。

 彼が見ていたのは崩れて落ちた拍子に開いたコンテナから、スライドするように飛び出て来た細長い物体だ。

 丸みを帯びた紡錘形の筐体で、銀連社会では特に珍しくもない。

 主に学校で行われる定期健診でお世話になるお馴染みのものだった。


「お前が探してるのって気密服じゃなかったか?」

「ああ……そうなんだが……」


 うわの空で答えながら、ケネスが何かに吸い寄せられるようにして手の平ほどの大きさのボタンを押し込む。

 すると、プシューという音とともに細長い卵型をした容器が上下二つに割れ、その上蓋が持ち上がった。


 中に灯った青白い光が、それを覗き込む三人の顔を照らし出す。

 大人一人が横になってちょっと余るくらいの大きさ。子供の身体なら二人か、重なるようにぎゅうぎゅうに詰めてどうにか三人分といった容積である。


「……いや、あのな。なんとなく考えてることは分かっちまったけど、これはそういう用途のもんじゃないぞ? 多分これ、遺伝因子解析用のマシンだよ」


 口元に手をやり、何かを熱心に考え始めたケネスに対し、アキラは頭をきつつも、その機能のあらましを説明してやることにした。

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