◆2-18:ケネス 展望ダイナー(4)
一方、イザベルとの会話が唐突に打ち切られ置き去りにされたケネスは、ヨイヒム族のマヤアとの間で微妙な空気を作っていた。
彼女はこの巨大な避難艇に乗り合わせた子供たちの中では一二を争うほど刺激的な見た目の持ち主である。
顔面の半分を占める巨大な眼球や、うねうねと触手のように動く襞──ケネスはイザベルと分け合って食べた平たいパスタの生地を思い出した──に対し、興味が湧かないはずはなかったが、先ほどイザベルに彼女の耳の件でたしなめられたばかりということもあり、不用意に訊ねたり、繁々と観察したりすることは躊躇われた。
何が非礼にあたるのか。また逆に、露骨に避けたりすると逆に差別的だと受け取られたりはしないかと。分からなさ過ぎておいそれと身動きが取れなくなる。
「えっ……と……」
「あ、あのっ!」
ケネスが何か言おうとしたのに被さるようにしてマヤアが勢いよく遮る。
元々何を言うべきか考えを用意していなかったケネスは押し黙り、彼女の言葉の続きを待った。
「さ、触りたいのなら……、あのっ……」
瞼の開閉が恐ろしく速くなり、まるでその瞳が声を発しているように錯覚させられる。顔の周りの襞も一回り大きく膨らみ、ザワザワと複雑な波を作っていた。
彼女が属する種族の生態やノンバーバルな決まり事を全く知らないケネスの目にも、彼女の激しい興奮や張り詰めた緊張ははっきりと感じ取れる。
「いい……のだろうか? 大丈夫か?」
自分の視線がそんな物欲しそうなシグナルを発していたのだろうかと戸惑いつつも、勘違いだと言って誘いを断れば、それはそれで彼女を傷付けることになるかもしれないとケネスは意を決する。
「は、はい……。寂しがりやで甘えんぼなんです。だから、きっと撫でられると喜ぶと思います」
「……思います?」
もう少しで持ち上がろうとしていたケネスの肩と腕がすんでで止まる。
取り分け目立つ彼女の視線の行く先が、ケネスの肩越しに見た、ダイナーの奥の一角であることに気付いたからだった。
「あ、ごめんなさい。私ったら勝手に他人のことを。でも、絶対。嫌がることはないですよ。一応、撫でる前に声は掛けたほうがいいと思いますが……。その……、急だとビックリしちゃうかもしれないので」
「ああ。あ、そうか。なるほど」
ケネスは肩の力を抜き、獣人種の少年がいる方を振り返る。
彼の周りのテーブルでは、再び大きな歓声が上がり、毛むくじゃらの彼も一緒になってキャッキャと手を叩き喜んでいるところだった。
「……そうしよう」
彼女なりの勇気をふり絞り言い終えたマヤアは、襞のうねりを穏やかにさせ、ニッコリと微笑んだ(その実は定かでないがケネスにはそのように見えた)。




