◆2-14:ケネス 通用路
スーツを処分してから丸一日。ケネスはようやく自分のしでかした失策を自覚しつつあった。
アキラという少年がムンドーという奇妙な友人相手に語り聞かせていた話から、すぐにでも連盟の救援部隊が乗り込んでくる可能性を考えてスーツの処分を急いだのだが、どれだけ経っても救援は現れない。さらに言えば、子供たちが救援の遅れについて気に掛けている素振りもないようだった。
この広い宇宙空間に子供たちだけで漂流しているという絶望的状況なのに、随分腹が座っているというか、気の抜けた空気が漂っている。
彼らの動きを観察するに、この集団でリーダーシップを握っているのはイザベルという少女で、アキラは現場の統制役といったところだろう。
おそらく外部と連絡を取り、情報を握っているのは彼女ら一部の人間のみ。そして、艦内の食料を集め、厳密に定めて配給を行っていることから、救援までのタイムスケジュールは相当先らしいと推測できた。
そうなってくると、あのデバイスを探さなければならないケネスとしては、スーツに内臓された端末の助けを得られないことが悔やまれ始める。
どのみち、この艇全域が赤いホットスポットで塗り潰され、デバイスの正確な位置の特定には役立たないとしてもだ。
端末があれば、閉鎖された区画へと抜ける構造体の隙間を正確にスキャンすることも可能であっただろうし(足で行ける場所は夜のうちに探し尽くしていた)、信頼の置けない精度とはいえ、コガネイの生体反応センサーがあれば、そんな場所に出入りするとき、うっかり誰かに見られてしまうリスクも減らせたはずである。
今もまさにそれが求められる状況だった。
ケネスがハッチを開けて壁の内側から顔を出す。
いくつもの配線や管がのたくっている前時代的な横穴から上半身をにょっきと生やし、残り半分を抜くため腕に力を込めたときだ。すぐ近くの角を曲がって現れたエルフセイレーン種の少女とばったり出くわしたのである。
「…………」
ケネスも艦内の間延びした空気に当てられていたのかもしれない。
失敗が許されない任務中だというのに、ケネスはとっさに何も反応できず、下半身を壁の穴に埋めさせたまま呆然としてしまう。
先に反応したのは、眠たげに、今にも閉じそうなほど瞼を重くしたネムリの方だった。
「何してるの?」
言葉の意味は分かる。ケネスの優秀な頭脳は既に連盟の言語を習得し、ほとんど不自由ない程度にコミュニケーションできるようになっている。
だが、しどろもどろに繰り出された応答は、そんな彼の優秀さに似つかわしくない間抜けなものであった。
「ちょっと、仮眠を……」
一体誰がそんな馬鹿な言い分で誤魔化されるだろうかと我ながら呆れてしまう。
顔中の毛細血管が広がり赤くなっていくのを感じ、居た堪れなくなったケネスは、身体を横に捻りながら腕の力だけで自分の身体を横穴から引き抜いた。
肩を並べて立っても二人の間の気まずい空気は拭えない。
いや、気まずく感じているのはケネスの方だけで、ずっと眠たげな表情のままでいる彼女が何を思っているのかは、ケネスには推し量りようもなかったのだったが。
これは取り繕おうとするほど墓穴を掘りそうだと観念したケネスは、この場から退散するためそそくさとハッチを閉じようとする。
そこへネムリが身体を割り込ませた。頭から壁の裏の側溝に突っ込み、猫を思わせるしなやかさで穴の中にすっぽりとその身を収めてしまう。ケネスが制止する暇もない、一瞬の出来事だった。
「本当。暗くて、静かで、いい感じ」
エコーが掛かったネムリの声を追い、ケネスが穴の中に頭を突っ込む。
薄ぼんやりと浮かぶ陰影の中では、すでにネムリが身体を横たえ寛いでいた。
いや、彼女の小さな肩幅をもってしても、寝返りを打つことすら難しい、細長く窮屈な寝床だから、寛ぐという表現は不適当かもしれないが。
「次は私が使わせてもらうわ。そこ、閉めといてくれない?」
「あ、ああ……」
おかしな女だと面食らいながらも、ケネスは言われたとおりハッチの蓋を閉めてやった。
だが、まあ、そうだな。様々な星系種族が集う銀河連盟の尺度で論じるなら、これくらいは驚くに値しないことなのかもしれない。
なにより、お陰で自分の奇行を訝しがられることなくやり過ごせたことにケネスは安堵していた。




