☆銀連TIPS:『マダグ族』
初期の銀河連盟社会を最も驚嘆させた星系種族の一つ。
それから連盟にさらに多くの知的生命体が参集し、824種を数えるようになった今日においても、その際立った特異性は些かも損なわれていない。
マダグ族は一見したところ大きな外見的特徴を持たないものの、そのように映るのは極めて常識外れの冗長性や柔軟性を下敷きとした、彼ら自身の努力に依るところが大きい。
彼らが日常生活でよく見せる、よく伸びる手足という芸当から、我々はしばしば彼らの本質を柔軟な軟体体質であると捉えがちだ。だが、細胞レベルにまで目を凝らすと、それが単なる体組織の伸縮には留まらないことが分かる。
彼らに地球人種に近しい頭や手足があるのは、彼らが遭遇したヒューマノイドの形状を観察し、模倣した結果に過ぎない。本来のマダグ族は、もっと不定形で、もっと自由な存在である。
彼らには骨という枠組みがない。筋肉や外骨格という枠組みもない。ならば何があるのか。
答えは全てだ。全て、あるとも言えるし、ないとも言える。
〈ない〉のは固定・専業化された役割であり、〈ある〉のは必要に応じ達成されるべき機能だ。
彼らを構成する最小の体組織は、極めて柔軟な可塑性を備えた未分化の細胞である(ここでは便宜上細胞という言い方をする。説明の都合上、他星系の生命体の組成を原生地球人の例に準えて表記していることは留意していただきたい)。
原生地球人種においても、それぞれの生命個体を微生物叢と見立てて考える場合があるが、マダグ族の場合はそれがもっと顕著で、大胆で、明け透けである。
一つ一つの、言ってみればアメーバのような原生生物が寄り集まり、連携し、時には硬い骨格を、時には柔軟にしなる筋組織の役割を荷っている。驚くなかれ、脳のような複雑な中枢神経や生殖器に至るまでがそうなのだ。
その時々で必要とされる機能を細胞の各々が流動的に荷い、非常識な速度で形質を変化させ、かつ高度に連携し、集団で一つの生命体のような振る舞いをみせるもの。それがマダグ族の真実の姿である。
これだけ特異な性質を持ちながらも、銀河連盟憲章への批准に際し、彼らが遺伝工学的に自らに加えた変更は極めて少ない。
そんな無粋をしなくとも、彼らは始めから器用に他種族のやり方を模倣し、協調的な思考を働かせ、融和することが可能だったからである。
寧ろ、彼らが率先してそれを為して見せたことが、その後の統一銀河連盟のあり方を方向付けたと言ってもよいだろう。
彼らについて語った古い学術書にこんな有名な一説がある。
『自らの手足の伸縮と同じように、彼らはいともあっさりと、我々銀河連盟人全体の常識の枠を拡張してみせたというわけである』




