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◆1-15:メラン 基幹部通用路

 ともすれば、完全に意識が途切れそうになる瀬戸際にあって、メランは反撃に転じるための一縷いちるの望みを繋いでいた。無重力で揺蕩たゆたう自分の視界に偶然映り込んだ物がメランに気を失う甘えを許さず、彼の内側で密かに抗う意思を沸き立たせていた。

 通路を封鎖する隔壁の作動ボタン。それが、メランが少し手を伸ばせば届くほどの間近な距離に見えているのだった。

 メランは通路に対し水平の姿勢を保ったまま、眼球だけを動かし自分の足元の先に目を凝らす。そこには黒スーツの男が身体をやや斜めに浮かせて背中を見せていた。目線までは分からないが、あの謎のデバイスの操作に気を取られているのは確かだろう。こちらのことは既にただの漂う死体のように見なしているに違いない。

 奴らのねらいも、あのデバイスの役割も、正直何一つ分かってはいないが、最後に一泡吹かせてやるための条件は整っていた──。


 突然周囲にこだますブザー音。

 黒スーツの男が顔を上げて振り向くと、通路の上下から厚い隔壁がゆっくりと迫って閉じようとしていた。だが、彼を慌てさせた事象はそれとは別にあった。

 先ほどまで確かにそこに浮いていたはずの、赤髪の男の死体が消えているのだ。

 その次の瞬間、視界の外、下方から上向きに、何かがブンと振るわれて男の手を叩いた。そこに握られていたカード型デバイスがくるくると宙に舞う。同時に、そこから投射されていたホロ画面は不快なノイズを波打たせて消える。

 男は身体を内側に絞って次なる攻撃に備えたが、二度三度首を振り、彼の視界がようやく捉えた赤髪の男は、意外なことに、こちらに足の裏を見せて飛び去るところであった。しかも、既に半分ほど閉じかかった隔壁の隙間に滑り込もうとしている。


 意表を突かれたことに違いはないが、黒スーツの男がすぐに後を追わなかったのは、瞬時にその必要がないと見定めたからだった。

 先ほど蹴り上げられたデバイスは赤髪の男とは全く違う場所に跳ね返って飛んでいるし、それが奪われたのでなければ、あの死にかけの男に構ってやる必要はない。極めて妥当に、冷静に、そう勘定した。


 閉まり続ける隔壁を潜り抜けてすぐ、赤髪の男がそのへりに手を掛け、くるりと向きを返す。

 そこで彼は、顔と身体を血だらけにしながらも、何故か勝ち誇ったようにニッと笑ってみせたのだった。

 赤髪の男が僅か30センチほどに狭まった隙間から右腕を差し出す。手首のノズルで照準を合わせると、その口に向かって周囲から強烈な風が吹き込んだ。霧雨きりさめのように四散した血液の粒とともに、そこに漂っていたデバイスが白銀のスーツの右腕に吸い込まれたのは一瞬の出来事だった。

 その後、ズシンという重い音を響かせ隔壁が完全に下りるまでの間、黒スーツの男は動くことを忘れたように、ただただ呆然と見送ることしかできなかった。

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