15.「筆耕」という仕事
今回は、もう一つの仕事の話をしたいと思います。
私は自分の経営している事務所で、習字教室だけではなく、筆耕業務などもしています。
筆耕とは、報酬をいただいて、文章や文字を書き写すことです。
私は、習字教室を始める時にこの業務もすることにしました。
筆耕は、習字や芸術とは違った技術が必要になります。
その場その場に相応しい文字を書くこと。
書体のTPOとも呼べるものが、大事になります。
個性など必要ありません。
賞状ならば賞状、宛名ならばその用途にあった宛名を書かなければいけないのです。
これがすごく大変です。
肩も凝りますし、手も痛くなります。
筆も良い物を使わなければ、時間が倍以上かかります。
ただ、大変な分、書き上げた時の達成感は何とも言えません。
これを味わうために続けているのかもしれないです。
尚且つ、お客様に喜んでいただけたら、天にも昇る心地がします。
とっても素晴らしい仕事です。
まだまだ依頼は少ないですけど……。
兎に角、芸術書道と筆耕は、筆を使って字を書くということは同じでも、重視するものが全く違うのです。
自己表現、個性、余白の美などを重視する芸術としての書道。
書体のTPO 、形式美を重視する筆耕。
どちらも極めるのはとても難しいと言えるでしょう。
特に筆耕は、臨書の力が試されると言っても過言ではありません。
筆耕では、主に楷書を書くことが多いです。
行書や隷書を用いることもありますが、畏まった場で使用するのは、楷書が多いです。
一画一画、しっかりと丁寧に書かなければいけない楷書は、もしかしたら全ての書体の中で一番難しいかもしれません。
筆者の実力が誰にでも分かりますから、自然と肩に力が入ってしまいます。
肩の力を抜けるようになるには、経験を積むしかありません。
「私」を排し、「公」の文字を書くのが筆耕の仕事と言えるかもしれませんね。
お読み下さり、有り難うございます。




