日本合身後 41日目 初期報告書纏め
パニック小説ですのでかなり悲惨な記述もあります。
ポリコレなんて通用する事態ではないと思うんです。
41日目
臨時の首相官邸と国会議事堂は札幌に置かれている。他に場所が無いからだ。生き残った大臣や国会議員は札幌に集められた。
そして臨時に総理大臣にされてしまった男。梶尾雅弘。
嬉しいわけがない。日本が健全な状態なら嬉しいが。こんな国難どころではなく人類絶望的状態に首相なんかやりたくない。しかし、残存国会議員の中で87歳の高齢だった財務大臣を除けば序列最上位。致し方なし。
現在、日本政府は崩壊している。東京に集中していた主要機能と人材をほぼ失い、各地に配置されていた省庁の高級職員も大都市部に集中していたためそちらでも札幌以外では生き残りが少ない。
各地の数少ない生き残った国家公務員には現状確認を指示していた。
今日は初期の報告書が纏められたところだ。
共通しているのは、考えなくてもわかる物資不足だ。簡潔すぎる纏め方だが事務方が共通項としてくれた。都道府県別報告はまだ先になるという。
内閣府の職員は全滅しているだろう。生き残りの中にいるという報告は無い。東京の中心部だ。生き残りはいないだろう。
これによると酷い。比較的まともだったのは、北海道、茨城、愛媛、山口の4道県でしかない。他はいずれも酷い。良く踏みとどまったと言える県もある。
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以下は各都道府県共通に近く、一括して記載する。
上下水道の維持は電力と薬剤の不足から平時の状態を維持出来ず水質が悪化した。完全に停止した施設がほとんどである。
水道が使えなくなった水洗トイレは上から水を入れ水圧で押し流すが、溢れてしまうことも多い。
トイレットペーパは生産拠点が無い県が多く、有っても燃料や電力の不足で生産が出来なくなった。他の紙をなんとか柔らかくして流さないようにしっかり説明して使ってもらうことになった。ただ流してしまう事が多々あり、トイレの詰まりにより便器から汚水が溢れるとか、下水管が詰まり汚水の洪水が発生するなどかなりの件数発生した。
それを清掃処理する能力も多くの地域では失われており、かなりの雨が降るまでそのままという事態もままあった。
土を掘って埋めるという手段も執られたが、市街地の新興住宅地では土が出ている面積が少なく悪臭で問題になり揉める事も多かった。おまるを作り川に捨ててくるという手段が多く執られる。これによる水質汚染が激しい。川辺に共同でトイレを設置しボットンする連中もいた。
トイレ用の紙が無くなった後は、葉っぱはダメでかぶれが多数出た。布を使うが洗剤も無く洗える場所も少なく苦労する。
手洗い用の石鹸はおろか水さえも不足する地域では屋内屋外とも衛生状態はなかり悪化した。
満足に水が供給されている地域でも石鹸の不足により衛生状態は悪化している。
衛生状態の悪化と食料事情の悪化で食中毒も多く発生している。伝染して拡がり死亡した者も多い。
電力と水が切れた高層マンションやアパートは人の住む場所ではなくなった。
電力の確保出来なかった地域では洗濯機が動かず、洗濯は手で洗うことになったが洗剤の確保や清水の確保も出来ない場所もありかなり苦労したようである。これも衛生状態の悪化を加速させた。
冬期の手荒れもハンドクリームの類いは2年ほどで尽き、後は手が荒れるままという事も多かった。
女性用生理用品も生産拠点が無く、自作の布製になっていく。
避妊用具も在庫だけで医薬品不足から行為そのものを控えるよう要請が出ているが、多くの命が生誕した。ただ衛生状態の悪化と医薬品不足で、乳児死亡率や体調悪化による妊産婦死亡率が悪化している。
医療機関の多くは電力と医薬品不足により、満足な治療が出来なくなっている。機材で持っている患者や薬で抑えている患者はほぼもれなく症状が悪化。死に至った患者も多い。透析患者も同様であり、機材の消毒やフィルターが確保出来ない状態でも、やむを得ず透析をせねばない状態で感染症の発生もあった。透析が必要な患者の多くは7年を耐えることが出来なかった。
麻酔薬も在庫が過小になり、重傷事案以外は麻酔無しでの治療になっていた。医療機器の消毒自体出来なくなっており、精々熱湯消毒くらいしか出来ない。もちろん感染防止用手袋などはすぐ無くなり、麻酔薬同様いざという時のために確保するのが精一杯だった。末期のガン患者は痛み止めの麻薬さえも無く自死を選ぶことが多かった。
老人医療は壊滅的であった。
かなりの地域で酒から高濃度アルコールの製造に成功していた。衛生状態の悪化に抵抗出来たのはこのくらいであった。
アル中や薬中が禁断症状でかなり危険な事をするので、押し込めたり食糧不足地域の一部では押し込めたそのまま食事を与えないということも起こった。痴呆症やアルツハイマー病の老人もいつの間にか消えていたりする事例も有ったという。
食糧不足地域での自殺率や犯罪率が非常に高い。
都市ガスは全く無い状態で、産出地の新潟県は結構な量を供給出来ているが千葉県が僅かに供給出来ている状態。産出地ではないが製油所から発生するわずかな量は愛媛県と山口県と茨城県と北海道で一部施設に供給しているだけだった。
煮炊きに薪を使い禿げ山になったり火災やガス中毒で死亡した事例も多い。火災になっても消防車が出動できず、周囲の人たちによる破壊消火が主流だが、近年の耐震性が高い住宅は多少のことでは壊せず自然鎮火を待つことがほとんど。難燃性の住宅資材でもいったん火が付くと有毒ガスを発生したり延焼が拡がる場合もあり、住宅密集地ではかなりの面積が焼失し焼死や有毒ガス中毒死など犠牲者も多い。焼け出されたことで住居を失い凍死した例も多い。
太陽光発電住宅を奪って手に入れる者達も出現。治安上の問題となり自警団もどきとの抗争が起きる。奪っても最後は数の力に負ける事がほとんどだった。彼らの末路だが非常事態故、生存のための緊急避難行為として許されるものと思われる。
野生動物も動物性タンパク源として狩られ食肉にされる。不味い美味いの前に食料だった。ペットはさすがに食べなかった模様。いつの間にか消えたペットはいるようだ。可哀想とかいう人間はいない。思っていても仲間はずれにされ食料が回ってこなくなるだけなので言わないのだろう。またそういう発言をネット上でしていた人間の多くはインターネットの維持不能で書き込めないし、多そうな都市部の人間は物理的にいなくなっている。
各地で暴動やあらゆる犯罪が発生。それに対する自治体為政者の反応は様々だった。主な反応は以下の三つ。
治安を最優先とする者。
狼狽えるだけで指示を出せない者。
暴動側に媚を売る者。
そして、治安を優先した者以外の地域は悲惨な事態になっていた。
市町村単位で、県単位で。
市町村単位で治安を優先しても都道府県知事側で治安をおろそかにした地域もあり様々であった。
国会議員や大臣、または有力者が邪魔をした場合もあった。その地域はだいたい悲惨*になっていた。
*一部の報告書からはかなり酷い状況がうかがえますが、纏めでは敢えて柔らかい表現にしております。
邪魔をしたとされる人物の名前は別紙にて。
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悲惨で柔らかい表現って。何やったんだ、生き残ることを邪魔するとは。
別紙か。誰だ。そういえば無線会議でだらだら言っていた奴の名前もあるな。そうか、そうだな、どうせ今後も役に立たないだろうから後で再起不能にしてやる。為政者の反応は仕方ないだろうな。むしろ治安維持を最優先させた人間がいるのが驚きだ。私だったら、どうしたかな。わからない。




