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こんにちはニュー我が家



「やはり神竜の神殿のようですね」

「…………あ、あの…」

「はい」

「……少し……休みませんか…⁉︎」

「…………。はい」


…………散策に出ようと言ったのは私だが…一時間歩き回ることになるとは思うわけもなく…。

正直部屋数なんてとうの昔にカウントをやめて、スタコラと歩くこの男の後ろをヒールで必死こいてついて行く事しか出来ない。

こ、こんのー…ホンット絶対童貞だわ、こいつ!

男女の歩幅と歩くスピード…これっぽっちも考慮してねぇ!

……断じて私の歳のせいとかではなく…!


「先程キッチンとダイニングのようなところがあったので、そこで休憩しましょう」

「え、そんな所ありました…?」

「……まあ…」


この神殿内、ほとんどの部屋は扉がない。

扉が付いていたのは今の所、卵の部屋だけだ。

スタスタ歩く水守さんは、迷う事なく部屋だか通路だかわからないところを進む。

私もそれに続き、水守さんが見つけたというそのキッチンとダイニングらしき部屋へと向かった。

なるほど、その部屋は他の部屋よりは広くペルシャ絨毯みたいなラグが床に敷いてあり、たくさん柱がある代わりに外からの薄暗い光が入っている。

多分、外の天気が曇天模様でなければさぞや日当たりの良い、気持ちの良い部屋なんだろう。

背の高いランプが部屋の隅に置かれて、中央に何人掛けだよと聞きたくなる巨大ソファーと、それに挟まれた三メートルくらいありそうな長いテーブル。

いやいや、でかすぎだろ。

…で、そのリビング的な横にはカウンター。

石造りのカウンターの向こうにはキッチン…キ、え?


「か、かまど…?」


めちゃくちゃ古い日本家屋にありそうなかまどがあった。

ま、待って、かまどだよ…?

このギリシャ神殿みたいな建物に、北欧にありそうな家具のリビング的な部屋の横に古い日本家屋にあるようなかまどがあるよ?


バ、バランス悪っ!



「…………流石に使い方が分かりません」

「……そ、そうですね…」


ここに来て一番の困り顔を見せた水守さん。

無理もない。

流石にかまどは私も使い方がよくわからない。

かまど以外にも立派な食器棚がある。

水瓶にはきれいな水がたっぷり入っていた。

…これなら飲み水は問題なさそうね…。

け、けど…。


「干し肉、干し葡萄、小麦粉、塩、砂糖、ビネガー…なにかのオイル」

「ちょ、最後の“なにかのオイル”ってなんですか。普通に油じゃないんですか…!」

「それを言うとこの肉もなんの肉か…。…干物もありますね」

「……な、なんの魚…?」

「さあ?」


とりあえずひらきにされた干物が大量に棚の中に入っていた。

なんの肉かわからないけど、干し肉もかなりの量。

水守さんが見つけたかまど横の扉の奥には、小麦粉が五キロは入っていそうな袋がとりあえず三十袋くらい積み重なっている。

どうやらここは食糧庫的な場所のようね…。


「小麦粉があるってことは…うどんが食べれる…!」

「醤油がないので麺汁は難しいと思います」

「…じゃあパンとか? 私、パンなんか作れないわよ…⁉︎」

「酵母菌のビンがありましたから作れますよ。…しかし、この量は流石にすぐに使いきれません。乾燥パスタなどにして保存しましょう」

「……………。…え…水守さん、料理作れるの?」

「苦手ではありませんね。幸坂さんは?」

「…………」


スッ…と、私は目を逸らす。


「…まあ、人には得手不得手がありますし」

「そ、そうですよね…」


…み、水守さんが居て助かった…。

私一人だったらこの小麦粉を持て余していた自信がものすごくある!

乾燥パスタにして保存しよう、なんて台詞が出るなんて相当の料理スキル持ちじゃない?

す、すげーなこのお巡り…。


「…………。…ちなみに水守さんって身長はおいくつほどで?」

「? 184です」

「ご趣味は?」

「趣味……トレーニングでしょうか…?」

「ご結婚は?」

「しておりません」

「恋人は?」

「おりませんが…、…あの?」


水守鈴太郎。

身長184センチ。

年齢、27歳。

職業公務員…警視庁勤務の警察官、多分エリート。

顔、上の中。

体型、ガッシリ。

系統、EXILE系。

趣味、筋トレ。

独身、恋人なし。


「ふふふ、なんでもないでーす」

「……?」


年収はさすがにまだ聞けない。

でも、国家公務員でお巡りってことは年収四百万付近は固いと見た…!

前に公務員限定婚活パーティーに行った時にお巡りさんの年収聞いたらさすが体張る仕事なだけあって月給平均三十三万って聞いたもの…。

プラスボーナス…。

水守さんはエリートっぽいからプラスアルファの可能性が極めて高い…!

はぁ〜? 超優良物件じゃない〜?

性格はやや真面目すぎるし冷静すぎるし仏頂面だし昭和臭漂ってるけど年齢的に平成生まれだろうし…。

でも、お巡りなだけあって正義感と責任感はかなり強そう。

既成事実を作ってそのまま結婚に持ち込む方法も…………アリ…!


「幸坂さん、茶葉がありましたのでお茶を淹れてみましょう」

「え、本当ですか?」

「調理器具なども揃っているので可能かと。…ただ、かまどは初めてなので手間取ると思います。幸坂さんはその間に、神竜の名前を考えていてください」

「…………は、はーい…」


…一気に現実に戻されたー…。

そうだった、あの子の名前考えないといけなかったんだ。

一人では広すぎるし大きすぎるソファーに座り、薪を探しに行った水守さんを見送る。

食糧と水は問題ないみたいだけど…。


…………これからどうなるんだろう、私…。


あの子の名前を考えて、あの子と契約して神竜の契約者になる。

聖女云々はともかく…あの子のお世話をするっていう約束だけは…果たしたい。

あの子の力を代行して使い、この世界を安定させ、あの子をあるべき姿に孵す。

それは、分かるんだけど…。

私にできるのかな。


「…………。名前かぁ」


エルディエゴとワキュレディエ。

二体の神竜が作った世界、楽園エルクセドス。

この辺りの名前を混ぜて造語を名前としてつけるとか?


「……………………」


どうやって…?

紙とペンが欲しい…。

エル、ワキュ…エル。

エルワキュエル。

うん、ひでぇな。

じゃあエル、ワキュ…エル…でエルワキュエル。

ん? 同じじゃね?

あ! エルディエゴとエルクセドスでエルエルだ!

そりゃ上から読んでも下から読んでもエルワキュエルになるわけだ!

あははは〜!


「…………っ…」


違う、そうじゃない。

真面目に考えろ私!


「…………エル…、ワキュレディエ…セドス…ワキュレディエ…ディエゴ…レディエ、エルク…」

「レディエルク?」

「⁉︎」


ブツブツ言ってたらいつの間にか真後ろに水守さん。

び、びっくりした……けど…あれ、いい香り…。


「湖の乙女ですか?」

「は?」

「いいですね、アーサー王物語…俺も好きです」


なんの話であろう???

…かちゃ、と差し出される紅茶。

上品なティーカップは北欧風なこのリビングテーブルに似合っている。

でも、水守さんの話にはついていけない。


「な、なんの話ですか?」

「? レディオブザレイクから崩して名付けるのかと」

「え、いや…アーサー王物語って?」

「え、ご存知ありませんか?」

「…な、なんとなく?」


知らないというのはなんとなく歳上として癪だ。

誤魔化しつつ、お紅茶を頂きながら聞き返すと仏頂面のまま説明してくれた。

…………ただしめちゃくちゃ史実云々からの解説が入り、小難しいのでざっくり説明するとつまり……。


どっかの国のすごい王様がファンタジー化された物語ね!

成る程!


「…お詳しいですねー」


棒読み。


「? 一般常識内では?」


嫌味か…?


「…しかし、神竜がメスかわからないのにレディオブザレイクはいかがなものでしょう?」

「い、いえ、そんな長い名前にするつもりは…」

「? だから崩してレディエルクと…」

「ち、ちがいます! ええと…」


なんかややこしい!

面倒だが一から説明してみる。

エルディエゴと、ワキュレディエ、エルクセドスを解体して、合体して造語を作って名前にするつもりだと!

すると、ぽん、と手を叩いて「成る程」とやっと理解してもらえた。

…めんどくさい男だなぁ、もう!


「造語ならレディエルクでいいのでは?」

「え、だって湖の乙女がどうのって…」

「そうではなく、神竜の素となった神竜の名を重ねて考えたのでしょう? 造語なら造語でいいのでは?」

「そ、そうかな〜?」

「………若干メスっぽい名前に聞こえますけど」

「…………レディはやめよう…。うーん、ワキュレディエ…どこを使えば…」

「レを取ればいいだけなのでは?」

「え? レを取る? えーと…レを取ると〜…」

「ディエルク…」

「…微妙じゃない?」

「そうですか?」


いや、もうようわからんくなってきた。

お茶を飲み干し、ソファーに倒れこむ。


「お腹すいた…」

「何か作ります」

「よろしくお願いしまーす!」


ガバッと起き上がって手を挙げてお願いしましたとも!

そう言ってくれるのを待ってたの!

ここにきてからなにも食べてないもん、頭が働かないのはそのせいよ!

空腹ダメ絶対!


「は〜〜〜〜」


どさ、と再びソファーに沈む。

あとは水守さんが美味しいものを作ってくれるのを待つばかり…。

とはいえかまどは慣れてないって言ってたから時間かかるんだろうなぁ。

疲れたし、寝ちゃおうかしら〜…ってあれ?


「本棚だぁ…?」


クソ広いリビングの端っこには暖炉。

暖炉の脇にはガラス張りの棚がある。

てっきり食器棚か何かだと思ってたら、ガラスの奥には本がびっしり。

これは! もしかしてなにかのヒントになるのでは!

起き上がって棚の扉を開く。

本を一冊手に取るが…………うん。


「よ、読めない…」


表紙だけでも既に文字が何語だこれは?

ア、アラビア語的な?

英語の成績1の私が分かるわけぬぇぇぇ!

別な本も、別な本も…全部読めない!

くっ、つ、使えねー…。


「…………」


待てよ?

私は読めないけど水守さんなら読めるかも?

水守さんが読めなくても不思議手帳さんが解析できちゃったりなんかして。

お腹すいたしお料理の邪魔はしたくないけどなに作ってるのか気になるし…あわよくばつまみ食い…いやいや味見とかさせてもらえるかもしれないし?

おっけー、それでいってみよーう!


「水守さん、本を見つけたんですけど…」

「本ですか?」


振り返る水守さん。

の、後ろ!

はっ! パ、パンケーキ‼︎

す、凄い、めっちゃ美味しそうな匂い!


「…………」

「……。…味見しますか?」

「ありがとうございます!」


四つに切り分けてもらい、その一切れを頂く。

ん、う〜〜〜〜ん。

あ、あま〜〜いっ!

水守さん、マジで料理上手いんだ〜!

ポイント高いよ〜!


「もう一切れ食べていいですか?」

「ええと、ソースを作ってからお持ちします。それまで待っていてもらっていいですか?」

「ソ、ソース⁉︎」

「干し葡萄があったので、すり潰して砂糖と混ぜ、ベリーソース風にしようかと…」

「お待ちしてまぁす‼︎」

「それと本ですが、我々の世界にはない言語のようですね…。端末手帳で解析しますので、こちらもしばらくお待ちください」

「さすがぁ!」


…………っていうか…待ってる間、私はなにをしていたら…。

とりあえずソファーに戻って座ってみたものの…………や、役立たずすぎじゃねぇ?

そもそも水守さんが居なかったら本の中身はおろか、今頃どうしていいのか分からなくてへたり込んでいた自信がある。

それなりに酷いことも言ったけど、水守さんが居てくれてほんっっっと〜に良かった!

食糧はあったけど、あんながっつり素材で料理なんか出来ないし!

私やばくない?

足手まとい全開じゃない?

すんごい使えない子じゃない?

な、なにか…私も何か役に立ちたいな…。

うーん、うーん…。


「お待たせしました」

「いただきます!」


コトンと目の前に置かれたパンケーキ!

ほんとだ! 赤いソースがかかってる!

美味しそう!

お茶も入れ直してくれて、うふふー、至れり尽くせり〜!

…………んま!


「美味しいです!」

「それはなによりです」

「? 何してるんですか?」

「本の文字を読み込ませています。ページをめくるのは手動でないと出来ませんので…」

「ほー…」


モグモグモグ…モグモグモグ…。

ごく。

んまい。

ではなく。


「あ、後片付けは私がやりますね」

「ありがとうございます。お願いします」


このくらいはね!

このくらいはするわよ!

パンケーキ美味しいし!

水守さん、パンケーキ食べながらテーブルに置いた本のページをめくり、端末手帳さんに読み込ませてるんだもん!

ご飯くらいゆっくり食べたいだろうに!

なんか、色々すみません!


「…………本は他にもあるんですね?」

「はい! あそこに!」

「他の部屋にもあるかもしれない…。…それに、そろそろ休む部屋も決めた方がいいですよね」

「! あ、そ、そうか…それもそうですね…」

「食べ終わったら、寝室の部屋を決めましょう。何があるかわかりませんから、今日は隣室で休むようにした方がいいと思うのですが」

「お、お願いします」


…確かに外の不気味な風景を思い出すと…一人で寝るのは少し怖いな…。

個人的には同衾でもいいけど、流石に初対面でそれは無理よねぇ。

…いや、だがしかし、ここはか弱い乙女を演じて男の夢を叶えてやることもできるシチュエーションではない?

男はこれを言われてみたいはずでしょう⁉︎

おっしゃあ!


「あ、あの、水守さん…」

「はい」

「こ、怖いから…一緒の部屋で寝てくれませんか?」


ちらり。

出来るだけ弱々しく言ってみたし、効果のほどはどうだろう?

…わ、我ながら必死だなぁと冷静な部分はあるけれど……久しぶりの男!

正直このチャンスを逃す手はない!


「それは…気が回らず申し訳ありません。わかりました、今夜は側で警護をしますのでゆっくりお休みください」

「………え、あ………は、い…よ、ろしくお願い、します…?」



…………なにも起きないな、これは……。










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