食糧を確保せよ!
「空間保管庫が設置されましたので食糧を集めませんか?」
「そうですね!」
……色々聞きたいことはあるけど、怖いのでやめておこう。
世の中知らない方が幸せなこともあるって前に水守さんも言ってたものね……。
でも、後輩くんたちを紹介してもらわなかったのは正解かもしれない。
水守さん以上に寡黙な感じの玖流さんはともかく、なんかもう一人の人ナチュラルにヤバかったな。
「あ、そういえば以前後輩を紹介してくれと仰っていませんでし……」
「いえ! もういいです!」
「…………ですよね」
タ、タイムリー!
あの玖流さんって人に関してはまだ微妙に興味はあるけれど!
なんかもう一人の人はヤバそうだったし!
声はカッコよかったけど! ヤバそうだったし!
それに、もう私は…………。
「にゃあー! それでは今日は姫さまも釣りに参りませんか〜?」
「釣り?」
「裏の川で魚が釣れるんですよ。……ミューは本当に魚が好きだな?」
「はい! 煮てよし焼いてよし、生で食べてもよし……骨も目玉も美味しい素晴らしい食材です!」
「…………」
「……。……まあ、煮付けにしてもいいかもしれませんし……気分転換にもなりますよ、多分」
「そ、そうですね」
釣りかぁ。
小さい頃に釣り堀に一度だけ行っただけだなぁ……つまり、経験はほとんどないと言えよう。
「…………。ち、ちなみに餌は……」
「にゃにゃー! ご安心召され〜ですにゃ〜姫さま! 日々の畑仕事で捕まえてありますにゃ!」
「あ、あー……」
ミューってテンション上がるとにゃーにゃーが増えるな。
…………。
はい、現実逃避はやめます。
“アレ”ですね……餌は……やはり、そうよね。
「餌くらい俺が付けますよ」
「ありがとうございます!」
さすが水守さん!
好き! 結婚して!
********
神殿の裏には川がある。
海に繋がるその川は、神殿から海へと水が流れていた。
私たちの使う、大切な水だ。
……水といえば……。
「そういえば今更ですけどトイレで使うトイレットペーパーってこの川に流れてるんですか?」
「いえ、ミューに確認したところ、トイレに貯めてある汚物や紙はミューの魔法で畑の肥料になっているそうです」
「……。…………。ミューってすごいですね」
「そうですね」
……ちょっと聞いたことを後悔した。
でも、ミューって万能すぎない?
その他のゴミは水守さんが『エンフレイムロスト』で燃やしてくれるのだが……成る程、水の問題も意外となんとかなっているものなのね〜……。
「ああ見えて、神竜に仕える妖精です。我々の生活をサポートするに至り、神竜から様々な力を授かっているのでしょう。……しかし、エルフやドワーフなどの人に近い生物がいるのに何故ケットシーという妖精のミューが神竜に仕える者として残っていたのか……今更ですが不思議ではありますね」
「そういえば……」
「それはですね!」
「わ!」
先陣切って釣りスポットへ進んでいたミューが飛び跳ねた。
聞いてたのかー……猫だもん耳はいいよねー……。
「エルフやドワーフたちは人間よりも長寿ですが寿命があるのですにゃ。でも、ミューたち妖精には寿命はないのです」
「そ、そうなの?」
「にゃぁ。ミューたち妖精は自然の力で生きているのですにゃ。ミューはこの島の大地の力で生きているのです。この島以外には行けないですが、この島が元気になれば元気になるのです! だから神竜さまに姫さまのお世話役を仰せ付かったんですにゃ!」
「……え! ミューってこの島から出られないの⁉︎」
「はい! 猫……じゃにゃかった、我々ケットシーは大地から生まれる妖精なので、その地に根付くのですにゃ」
「家に着く、というやつか」
「そうなのですにゃ!」
えええ!
……そんな、新しい大陸にはミューみたいなケットシーが居るっていうから……。
「じゃあ、ミューは隣の大陸の仲間たちに会えないの?」
「はい! ですが、この島の中の仲間にならきっとまた会えるようになりますにゃー!」
「え? この島? ……この島に、ミュー以外にもケットシーが住んでたの?」
「はい! ミューはケットシーの中の神竜に仕える巫女ですにゃが、他にも仲間がたくさんいますにゃー! 姫さまが島を浄化してくれたのできっとすぐに目を覚まして村を再建してくれるはずですにゃ! そうしたら姫さまにもっとたくさん美味しいものをお作りして、食べていただけますにゃ!」
「そ、そう……」
「ケットシーの村か……」
ミューの仲間はこの島にいたのか。
最近テンション高めだったのはそれで?
……そっか、ミューにもちゃんと家族がいるのね。
もうすぐ目を覚まして……会える、か。
「そっか! 良かったね、ミュー!」
「はい! だから今のうちにたくさんお魚を釣っておきたいのですにゃー!」
「そ、そういうことかー……」
「…………」
水守さんの言わない優しさ。
半分は自分が食べたいからだろうけど……ミューが嬉しそうなので私も何も言わないわー。
「おお?」
釣りスポットに着くと、割と岩場。
ゴツゴツとした大きめの岩がたくさんある。
水守さんが小道具の入った箱から色々取り出して、ミューの竿と私の竿の糸の先に餌をつけてくれた。
詳しくないから分からないけど、えーと、多分この針的なやつが釣り針?
それに餌をつけて川に垂らすのよね?
餌はもちろんアレだけど、水守さんが付けてくれたので私はコレを川に垂らすだけ。
……しかし、まだ生きていたのか……餌め、きもいわ〜……。
「えい!」
「姫さま姫さま! こうやって、小刻みに揺らすと餌が生き生きして見えるんですよ!」
「え、そうなの? こ、こう?」
「水を汲んできますね」
「あ、はーい」
魚を入れるバケツに水を汲んでくる水守さん。
竿は二本しかないので、水守さんは今から新しく作るそうだ。
……DIYまで極めはじめとる……どんだけハイスペックなのよあの人……。
「おっとと……」
ゴツゴツした岩場だから足場が悪いのよね。
踏ん張りが効かないというか……。
川からもう少し離れると砂利が敷き詰められたようなところなんだけど……そっちまで行くと川から離れすぎて釣り糸が届かないしなぁ。
でも、結構川の流れも早い。
糸の様子を見ながらだと足元がおろそかになるのよね。
……断じて足腰の問題ではないわよ!
「うわ!」
「大丈夫ですか?」
「っ!」
いつの間にか釣竿を作り終えていた水守さんが背後に!
肩を支えられ、転倒を免れる。
が! しかしこの距離よ!
「あ、あ、ありがとうございます! いやぁ! 岩場って結構あれですね!」
「岩の上に座って釣った方がいいかもしれませんね、幸坂さんは」
……なぜ「幸坂さん“は”」と付け加えた?
「スカートですし」
「そ! そうですね!」
ごめん、その通りでした。
勘ぐってすんません。
確かに私、ロングのワンピースなのよね。
歩きづらいというより裾が濡れないかも心配。
一度糸を上げて、水守さんに手を引かれながらちょっと大きめな岩に座らせられる。
……誰だ、今介護って言ったの! 違うわよ⁉︎
「あまり移動せずに、ここで釣っていてください。川の流れが見た目より早いので決して足や手を入れないように。流されて海まで行ったら…………これ以上は言わなくても分かりますよね?」
「ひえ! は、はい!」
海にはまだ腐墨亡者が同化して合流地点から川に侵食しようとしている。
水守さんの言わんとしていること、確かに理解しました!
はい! 水の中には絶対入りません!
「ミューもちょろちょろしない! 迷子になるぞ!」
「にゃあ! は、はいなのですにゃー!」
……魚影を探してちょろちょろしていたミューも叱られる始末。
水守さん超保護者……あれ? 最年長って私じゃないっけか? 今更だけど。
「それに、前にも言ったが足音で魚が逃げる。あまり動かずにじっとしていたほうがいいんだ」
「にゃ、にゃあ〜……」
あ、そうか。
この二人は前にも何度か釣りに来てるんだっけ。
……でも猫……いや、ミューってあんまり足音聞こえない気が……猫……いや、ケットシーだし?
「……。……あ、あの、コツとかありますか?」
「コツですか? そうですね、少し小刻みに揺らしながら、いきの良さを魚にアピールするといいと思います。こんな風に……」
「お、おお〜」
「……さっきミューに同じアドバイスをされていませんでしたか?」
「え! そ、そうですっけ?」
されたけれども!
でも、水守さんが私の体を覆うように近くで竿を揺らす姿を見上げる至福の時間。
これは別腹ってぇやつっしょ!
「いやー、あの、川辺と岩の上じゃあ何か違うのかと……」
「いえ、初心者はまずこれくらいからでいいと思いますよ」
「そ、そうなんですねー」
……うーん、これってお祈りパワーでなんとかならないかしら…?
いや、ズルはやめた方がいいか。
普通に釣ろう、その方が多分楽しいと思うし。
…………と、しばらく釣り糸を垂らし、時々餌を上げてみるけど……ぜ、全然釣れないなぁ!
ミューや水守さんは割とホイホイ釣ってるのに〜!
く、悔しい!
やっぱりお祈りパワー使っちゃおうかな!
……そ、それともなに?
魚たちに、私が「きゃ、釣れてる〜! 水守さん手伝って下さ〜い!」って媚びる作戦が伝わっているというのか⁉︎
お〜の〜れ〜!
「結構釣れましたね! 水守さま!」
「分かった分かった。塩は持ってきてあるから、焚き火で塩焼きにしよう。薪を集めてこい」
「にゃーい!」
「し、塩焼き⁉︎」
この大自然の中で⁉︎
と、思ったら割りと真っ直ぐな小枝に、内臓を綺麗に取った魚を突き刺していく水守さん!
テンションだだ上がりのミューはあっという間に薪を集めてきて、川縁から少し離れた場所で焚き火の準備を進めていく。
わ、わー! わー! なんてアウトドアァァ!
「焼き上がるまでもう少し釣ってこい」
「にゃーい!」
「わ、私も食べますからね⁉︎」
「分かってますよ?」
ちなみに最高に美味しかった。








