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新しい大陸



「…………まだ着かないの…?」

「まだです」


あれからどのくらい飛んでいるのか…。

最初の三十分は楽しかったんだけど…多分一時間くらい暗雲と黒くてデロデロの海に囲まれた光景ばかりで…もう飽きた。

お、思ってた以上に遠いな〜…。

水守さん……は、えーと………、……自分で名付けておいてなんだけど、あれのうちのどれだかわかんないペガサスに跨りながら不思議手帳さんをぽちぽちいじっている。

…なにか調べてるのかしら?


「…………」

「テルト?」


小さくいなないて、空中で立ち止まるテルト。

それに水守さんを乗せたペガサスも立ち止まる。

その様子はなんとなく、苦しげだ。


「瘴気が濃いのです…。姫様、なにとぞ姫様のご慈悲を我らに…」

「え? え?」

「恐らく浄化の祈りのことだと思います」

「……じゃあ…ええと…祈ればいいんですかね…?」


瘴気? なにそれ? 黒い雲のこと…?

私は何にも感じないけど…テルトたちには何か感じるのかな?

まあ、辛いっていうんなら…テルトたちが楽になりますようにー!



「……!」



目を閉じて、そう祈る。

困った時はお祈りよね。

…今だに私なんかのお祈りでアーナロゼの力が使えるのは不思議だけど…。

っていうか、本当に私でいいのかなー…って…今だに不安になるけど。

効果のほどはこれまでの実績で分かってるから、もう祈る事へ対する抵抗はない。


『ヒヒーン!』

「うわ」


突然嘶くテルト。

驚いてしがみつくと、翼がブワッと風を起こす。

下から上に…そして上から下へ。

翼がはためくと、テルトが加速し始めた。

なになになになに⁉︎


「……着きました」

「ええ⁉︎」


前方から左右に流れる風が強い!

と、たてがみに顔を埋めているとそう声がかかる。

うえ、早くない?


「……景色が一瞬で早送りされたようだったが…」

「これも姫さまの祈りの力のおかげです」

「我らを瘴気より守ってくださったばかりか、強化してくださったのです」

「え! 私そこまでは…」

「……幸坂さんの…いや、アーナロゼの力がより強くなっている、のか?」

「アーナロゼの…?」


とりあえず、召喚されたばかりの神殿の周りに似た大地に降り立つ。

テルトたちから降ろしてもらい、ジャリジャリとした赤黒い小石の地面を睨むように見下ろした。

神殿の島と違い、地平線の果てまでなーーっんにもない!

多少のデコボコ感と、あっても大きな岩。

全部焼け焦げたように黒い。

代わり映えのない、あまりにも殺風景な景色。

…これが東南の方向にあった、一つ目の中型大陸…。


「ひ、広……」

「まぁ大陸ですから、あの島ほど小さくはないと思います」

「で、ですよね…、…それにしても、なんにもないですね」


暗雲が立ち込めているから薄暗いし、草野一本も生えてない。

なんかやる気でないな〜。

神殿の島には木があったから、木が元気になると目に見えて「やってやった」感があったんだもの。

でも、この大陸はなーんにもない。


「この大陸には我らと同じ霊獣のグリフォンや、ユニコーン、妖精ケットシー、クーシー、グレムリン、エルフ、ドワーフなどが住んでいました。かつて…大陸の中央に人間どもが国と称して街を数多作ったため、奴らは大陸の隅にある森や川、谷などに隠れ住むことを余儀なくされていたはずです」

「グリフォンやユニコーン…エルフ!」


聞いたことないやつもいたけど、さすがの私も有名どころは知ってるわよ!

グリフォンは鳥っぽいやつで、ユニコーンはペガサスのパチモンっぽいやっで、エルフは耳が長いやつでしょ⁉︎


「この大陸の隣には同じく妖精のゴブリンやコボルト、オーク、オーガなども住んでいますよ。…皆人間に住処を追われて、細々と大陸の隅で暮らしていました」

「そ、そうなの……」

「この大陸が浄化されれば…眠りについたものたちも蘇るのですよね…?」


お馬さん達のつぶらで期待に満ちた目。

ううん、なんとなく、縋るような目、かな。

……、なんだろう…今までこんなに…「早くなんとかしなきゃ」なんて思った事ない、けど…。


「ケットシー? ミュー以外にもいるのですね?」

「え? あ…そういえばミューは…」


ケットシーっていう妖精なんだっけ。

ミューの仲間がこの大陸に、いるの?

そ、それなら尚更じゃない!

早くミューを仲間に会わせてあげなくちゃ!


「よし、とりあえずこの辺りを浄化してみよう!」

「おお…!」


みんなから少し離れ、ごつごつとした岩だらけの大地を進む。

まあ、この辺りでいい、かな?

岩のない場所に立ち、目を閉じて手を組む。

えーと……元気になーれ、緑よ戻ってこーい。

あと、ミューの仲間とかもろもろ~。


「お、おおおお……!」


え? なに?? なんかお馬さんたちの驚嘆の声が聞こえるんだけど!?

気になる!

ので、そっと片目を開く。


「わ、あ……」


これ、私がやったの? って誰かに確認したくなる感じ。

目の前にはただっ広い草原。

ものの数秒目を閉じていた間に別な場所に来たの?

ものすごくただの原っぱが現れた!

…おお、空も晴れ渡った! 見える範囲は蒼天! なんて清々しいの!


「これが聖女姫様の祈りのお力…!」

「ちょ、ちょっと! 呼び方が派手に恥ずかしい事になってるんですけど!?」

「聖女姫様、素晴らしいお力です!」

「我らの世界に緑が戻ってきた‼ なんという奇跡! 奇跡の力だ!」

「ちょ、ちょっと~!?」


聞いてない!

その上、前足を浮かせてはしゃぎまくってる。

危なくって近付けないわよ、こんなの!


「幸坂さん」

「あ、水守さん! どうしましょう…すっごいテンション上がって近付けなくなりましたよ~」

「少し放っておきましょう。それよりも、神殿の島からこの大陸まで大体一時間半でした。ただ、ペガサス達の速度が一定ではなかったのでおよそ二時間と考えていた方がいいかもしれません」

「え、ええと……そ、そうなんです、か」


まさかのスルー!?


「端末手帳で変身して飛行した場合は一時間二十分程度の距離と計算が出ました」

「…やっぱり水守さんの方が速いんですね……」

「とは言え『祈りの力』を受けたペガサス達は俺が単身で飛んだ場合のスピードが出ていました。俺や幸坂さんを乗せた状態であのスピードはすごいと思います」

「へ、へえ~。……でもどっちにしろ一時間以上かかるんですね…」

「徒歩で山に登るよりは楽なのでは?」

「そ、それはそうなんでしょうけど……」


…そうか、実際問題としてこっちに来る時のことを考えなきゃいけないのよね。

毎日ペガサス達に運んでもらうにしても往復三時間から四時間……き、きついわね。

やっぱりこっちの大陸に拠点が一つでもあるといいわね…。

いや、浄化しながら移動するなら、むしろ……。


「キャンピンカー的なやつがあると楽! …でしょうか?」

「キャンピングカーですか…。まあ、確かにそういうものがあれば移動しながらエリアの浄化が出来ますが…あまり現実的ではありません。日々の生活基盤が完全に整っているわけではありませんし」

「そ、そうですよね……」


毎日のご飯は水守さんとミューがやりくりしてくれるから、毎日美味しいものが食べられてるわけで…。

しかしそのご飯の材料がねぇ……。

主に野菜の収穫がこれからだし、ミューが用意してくれていた干し肉なんかもいつか底を尽くだろうし。

…食料問題は継続中なのよ。

畑の世話はミューが手伝ってくれてるけど…。


「先ほどのペガサス達の話の中で、複数の種族の名前がありましたね。無理せずに可能な範囲で浄化に来ましょう。いずれそれらの種族が目覚めれば、こちらの大陸でなにかしら変化があると思います」

「そっか、畑作りとか手伝って貰えばいいんですね!」

「……手伝う云々以前に彼らも生活があるはずですから、初めのうちは我々の食糧を提供する事になるかもしれません。彼らの生活基盤が出来るまで、援助の必要があるのだとしたら我々の生活状況をより安定させる事が優先だと思います」

「わ、わおう……」


そ、そりゃそうか。

思いもしなかったわ……さすが水守さん……。


「ということは、もっと神殿の島の畑を大きくしてより色んな野菜を育てたりお魚を干物にしたりしないといけないんですね…」

「畑は必要でしょうね…。冷蔵庫のようなものがあればもっと長期保存が出来るのですが…さすがにそんなものはありませんし…。…ともかく、一度島へ帰りましょう。改めて食糧に関しては考えなければなりません」

「そうですね!」



……先は長そうだなぁ。




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