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神殿の島、浄化完了!



「ふーん、成る程ね〜。神竜の世界の創世…いや、再生にアレを突っ込むなんて相変わらず気が多い男なんだから…」

「首だな」

「そうだね、首だね〜。…ふふふふふ」

「?」


「………………………………」



とりあえず神殿に帰ってから、紅葉さん…水守さんの契約獣に現在の状況を説明した。

島の周りは夕暮れ色で、ミューは私の後ろから震えて出てこない。

紅葉さんは以前水守さんが言っていた通りなんとかっていう種類の幻獣のケルベルスなんだって。

戦闘種族で、普段は強大な力を使う為の精神力や判断力を鍛えたり、新たな戦闘方法を覚える修行で色んな世界を旅するらしい。

一つの異世界に百年程滞在し、その世界の文化文明、戦闘技術などを学び…また移動する。

実家(?)は『リーネ・エルドラド』という世界。

あまり帰らないそうだけど…。


「えーと…状況は理解してもらえた感じですか?」

「馬鹿ではないので理解したとは思いますが」

「うんうん、理解はしたよ。神竜の聖女、初めまして。おれは紅葉。幻獣ケルベロス族下級下位弟第62子。黒炎能力は『灼熱』。宜しくね」

「は、はぁ…。あ、わ、私は幸坂菫です。こっちはケットシーのミュー」

「みゅ、みゃうう…」


ミュービビりすぎ。

ただのゴッツ美人なお兄さん、にしか見えないけど…。


「で、そちらの聖女はおれたちの一族の事どのくらい鈴太郎から聞いてるの?」


パリン。

と、チョコクッキーを食べながら私を見る。

紅葉さんの一族の事って、えーと……なんかすごい怖い物騒な種族的な話だったけど。


「……何食べてるんだ」

「え? 鈴太郎の職場の人に作って貰ったチョコクッキー」

「…………。俺の職場にいたのか?」

「会いに行ったら異世界召喚に巻き込まれて居ないよーって言われたから気長に待ってようかと思って」

「……迷惑を掛けていないだろうか?」

「………、……掛けるわけないじゃないか。怒られたらちゃんと謝ったし改善したよ。由はおれのにぃにぃずに知り合いが居るんだもの。……にぃにぃずにバレたら殺される…」

「その割には間があったな?」

「帝の方が怒られていたよ」

「そういう問題じゃないだろう」

「呼び出しておいてお説教とかホントに面白くないんだからー。そんなこと言うなら帰るよー?」

「? え? あの…帰れるんですか?」


確か空間が不安定で帰れないはず。

帰るためには空間を安定させる……つまりこの世界を回復させ、アーナロゼを卵から孵さなければならない。

…あ、でも、それを言うならこの人もどうやってこの世界に来たの?

アーナロゼの力も不安定だし不足しまくりだから、アーナロゼが呼んだわけないし…。


「帰れるよ〜。空間は不安定だけど、おれ下級下位弟の中では二番目に空間系得意だから」

「え! じゃあもしかして私たちも元の世界に連れて帰ってくれたり……」

「え? なんで?」

「な、なんで⁉︎」


なんでって!

い、いや、まあ、この世界を放っておく事は確かに出来ないけど!

でも行き来出来るなら休みの日だけ来るとか…やりようがある訳でですね?


「鈴太郎はともかく、契約者でもなんでもない今日初めて会った人間の小娘の為におれが不安定な空間を飛び越える危険を犯すメリットは?」

「…………、…な、ないです、ね?」

「はい。この話終わり」


……ミューの言う通りだ。

きょ、凶悪だ〜! 幻獣ケルベロス〜!

笑顔であっさり切り捨ててきたーぁ!


「その上腐墨亡者は浄化するんでしょ? わざわざ面倒な事だね。消しちゃえば早いのに。…大体、浄化したら魂も輪廻の輪に還って人間がまた生まれて来るようになるじゃない? この世界の神竜は人間の誕生をまた許すの? アホくさー」

「…………」


せ、性格悪…。

な、なによなによ、アンタだって人間の水守さんと契約してるじゃん!

それなのになんなのその言い草!

しかもずっと笑顔で! クッキー食べながら!

は、腹立つぁぁぁ!


「罪を償ったら許してやればいい。腐墨亡者たちはかつての過ちによる罰をもう受けた。また生まれて来るなら今度は間違えなければいいんだ」

「人間は学習能力が虫より低いじゃない?」

「そうか。なら俺が新しく覚えたパウンドケーキは食べなくていいな? 虫より低い学習能力ではまともに食べられるか心配だろう」

「食べます。ごめんなさい。おれが間違ってました。人間の学習能力しゅごーい」


え…えーー…。


「まあ、真面目な話。海の腐墨亡者は俺では手に負えないと思っていた。他の大陸の腐墨亡者を幸坂さんに浄化してもらい、海のやつを弱らせ、それから叩く。…その時にお前を呼び出して協力してもらえればと思っていたんだが…」

「海のアレは確かに厄介だね。おれもアレは正面からは避けるかな…。上級上位兄のにぃにぃずでやっと相手可能なレベル」

「……だよな。…まあ、と言うわけでこの世界の神竜が生まれて空間が安定するまでは戻れないと思っている。幸坂さんを一人残す訳にはいかない」

「水守さん…」

「みゃあ…ミモリさま〜」


さっきの紅葉さんの口ぶりだと、水守さんは…水守さんだけなら紅葉さんが連れて帰れる。

でも、水守さんは残ってくれるって、そう言ってくれた。

…やばい。嬉しい…。

この人がいないと、ここでの生活が成り立たない自覚があるとか、そういうことも引っくるめて…。

見捨てないでいてくれたことも…。

そういう優しいところとかも…。

腹の立つところもあるけど、やっぱり優しいな。


「…ほんとお節介だよね。まあ、そういうところも好きだけど」

「⁉︎」


すっ…!

す⁉︎


「…………」


…い、いや、ふ、普通に。

ひ、人としてって意味だよね? うん!

…というか、私なにを動揺してんのよ?

水守さんが良い人なんだから、好意的に思われるのは当たり前のことじゃない?

ミューだって懐いてるし…獣系に好かれやすいのよ。


「お前はどうする? それまでは別に居てくれなくても構わないぞ」

「はあ? なにそれ辛辣ぅ〜。こっちはまだ聞きたいことがあるんですっ〜」

「なんだよ?」

「さっきのあの格好〜。アレはなに? 確実に浮気でしょ。おれというものがありながらなに纏ってんの? 魔科学系のなんかでしょ? 出して。壊す」

「なんだそれは…。あれは砂上が造ったうちの部署専用の端末型警察手帳だ。壊させる訳にはいかない。そんなことしてみろ、それこそ司藤部長に怒られる」

「いや知らないから。おれを差し置いて鈴太郎に纏われる時点で罪だから。破壊対象確定だから。出して」

「断る。なんのプライドなんだ、それは。ただの道具だぞ」

「ただの道具に立場を奪われたおれの気持ち分かる? 絶対分からないでしょ。いいからさっさと出して。でないと先に鈴太郎を半殺しにするよ!」

「重ねて断る。あちらとの通信手段でもあるんだ。壊されては報告などに支障をきたす。諦めろ」

「むう…」


な、なに?

さっきまでの妖艶な雰囲気とかが綺麗さっぱりどこかへいった?

まるで子供みたいに駄々を捏ねて、水守さんに窘められると頰を膨らませる。

…さっきのあの格好って…なんとか戦隊系のレッドの格好?

あ、あれに怒ってるの?

なんで?


「じゃあもうあの格好にならないでね。おれがいるんだから。今度からおれを纏って! 何のための共闘契約だと思ってんの」

「…まあ、俺としてもあの格好にならなくていいのは助かる…。…変身という掛け声も正直恥ずかしかったからな」

「!」

「それに、砂上曰くお前が居ない時に戦闘行為が必要になった場合のものとして用意されたものだったんだ。お前がいるなら使わない」

「ほんと!」


今度は満面の笑顔!

ま、ま、まぶしーーーー!

イケメンの満面の笑顔がこんなに眩しいなんて…⁉︎

無理、直視出来ない!

ちょおお、ど、どれが素なの紅葉さん⁉︎

分かんない! キャラが分かんないよ⁉︎


「まあ、当たり前だよね! この幻獣ケルベロス族のこのおれが! 鈴太郎みたいな人間としてどっかズレてる人間に力を貸してあげてるんだから! ありがたくおれの力を享受してくれないと…。他の力に浮気するなんて生意気が過ぎるんだよ!」

「…分かった分かった。お前がいる間はお前に助力を頼む」

「当たり前でしょう!」

「という訳で夕飯を作る。手伝え」

「…………。…………え」


ズドーンとテンション下がった!

いや、うん、気持ちは分かる!

え、そこで? ってなるよ! 今のは!


「嫌。断る! おれはお菓子食べながらこの大きなソファでゴロゴロする!」


はい?


「幸坂さんはアーナロゼに報告して来てはどうでしょうか? 腐墨亡者を倒した事、山を二つとも回復し終えた事でなにか変化があったかもしれませんし」

「え⁉︎」


も、紅葉さんの反論はスルー⁉︎

そりゃ水守さんの仰る事はごもっともな提案だけど…。


「え、あ、は、はぁ…。あの、でも紅葉さんは…」

「あんな奴呼び捨てでいいです。どうせケルベロス族の中では未成年のようですから」

「未成年⁉︎」


そんな雰囲気じゃなかったよ⁉︎

ホストクラブとかAV俳優で働いてても違和感ないお色気だったよ⁉︎


「人間で言えば女子高生のような奴なんです。わざと大人びた話し方や仕草をしますが、中身はガキです。一族の中ではガキなので、人間の世界では大人として振る舞いたい…そういうお年頃なんでしょう」

「わ、わおう…?」

「ちょ…! ちょっと!」

「なので適当に付き合ってやってください。面倒なら無視して構わないので」

「ちょっと!」

「ミュー、今夜は今朝産んであった卵と昨日釣った魚の残りで雑炊を作る。鍋に水と米を入れて煮込んでおいてくれ」

「にゃ! は、はいですにゃ!」


…な、成る程?

確かに今は最初に会った時のあの色気というか妖艶な雰囲気は微塵も感じなくなってる。

早く大人になりたい女子高生ってか。

ああ、まあ私はもう二十年以上前だから忘れ去った過去だけど…確かにそんな事を考えていた時期かもしれないな〜…。


「第三の目ぐらいすぐ開眼するもん! 下級下位弟で人形ひとがたの維持が一番…いや、一番じゃないかもだけど…と、とりあえず上手いし、鎧毛がいもうにだって生え変わってるし、黒炎能力だって開花してるのおれと皇と楽羅と朱欒と芒と朧と……あれ、結構居るな……? じゃ、じゃなくておれは優秀な方なんだよ! 同腹兄弟の中では絶対一番強いもん!」

「分かった分かった」

「むううぅ〜〜っ!」


…………。

成る程…、理解…。

女子高生かぁ…。

半分くらいなに言ってるのか分かんないけど…水守さんに甘えたいのはなんとなく伝わるわ…。

水守さんの前だとどんどん化けの皮が剥がれるところとか、可愛く思えてきた…。


「じゃ、じゃあ私、ちょっとアーナロゼに報告してきますね」

「はい、行ってらっしゃい」










********





「アーナロゼ」

『姫、お疲れ様』

「うん、あのね、もう知ってると思うけど…」


今日あった事を話す。

卵に話しかけるのも慣れてしまったわねー、うふふふふふ。

二つの山を回復し終えた。

これでこの島の回復は完了、だと思うんだけど…。


『うん、見ていたよ。…本当に凄いよ、姫…一ヶ月足らずでこの島を救ってしまった。やっぱり君は…』

「いやいや…私一人じゃ無理だったよ。…水守さんが居なかったらそもそも生活出来てすらいないと思う。ミューも毎日一生懸命お手伝いしてくれるし…。それに、私に祈りの力を貸してくれてるのはアーナロゼじゃない」

「…………姫…』


本当、水守さんが居なかったら…。

ご飯は食べられなかったと思うし、腐墨亡者にうっかり殺されてたと思うし、下着はオムツだった。

特に今日の腐墨亡者はヤバかったよ〜…。

水守さんが居なかったら、紅葉さんも来てくれなかっただろうし。

あんなの私一人だったらどうなってた?

噴火した瞬間終了してたわ。


「えーと、というわけで明日からは近くの大陸? の回復と腐墨亡者退治かな?」

『でも、どうやって隣の大陸に渡るつもり?』

「空飛べる人が二人もいるしなんとかなるんじゃないかな」


…というか…。


「ちなみに、水守さんが居なかったらアーナロゼは私にこの後どうやって隣の大陸を回復させるつもりだったのよ?」

『霊獣が蘇っているはずなんだ。我の片割れ、エルディエゴのかつて住んでいた場所の湖に霊獣ペガサスが』

「ペガサス!」


それってあれよね?

翼がある、馬!

空を飛ぶ馬!

マジか⁉︎


『彼の力を借りて大陸へ渡るといいよ。…あ、いや、ミモリ? 彼の力でもいい…。それから…ケルベロス』

「うん」

『幻獣ケルベロス族…『理と秩序の番犬』が現れたのは思いもよらなかったけれど…』


アーナロゼの声が僅かに震えているような気がした。

大丈夫、と聞くと…答えはない。

大丈夫じゃないっぽい。


「アーナロゼもケルベロスが怖いの?」

『彼らは我ら竜が主食なんだ。…我は今卵の中。抵抗も出来ない…』

「…い、いや、さ、すがに…」


食べられないんじゃない?

なんて無責任に言える感じではないぞ。


「……水守さんに話しておくよ、アーナロゼを食べないでねって!」

『う、うん…』


ガチ怯えじゃん!





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