私のファーストキスは女の子です
雨の日。公園のベンチ。濡れて透けたブラウスに張りつく肌。滴のしたたる髪。長い睫毛。近付く柔らかなさくらんぼ色の唇。ミルクのような甘い匂い。
「ちゅ」
その日、私のファーストキスは女の子に奪われました。
「んっ」
声を出したのは、私です。声を出したら、負けだと思っていたのに、我慢できませんでした。だって、彼女のキスがこんなに上手だなんて思ってもみなかったんです。歯列をなぞる舌の動き。絡み合う唾液が唇の端からねっとりと零れて、白い首筋を汚していきます。ぽたり、とスカートの上に落ちて、いけないシミが広がります。
「……んんっ」
この声は私じゃありません。彼女のものです。彼女もまた、夢中で私の唇に貪りついています。元はと言えば、彼女が先に仕掛けたのですから、彼女の方が先に声を出すというのが筋だとは思うのですが、こればかりはいた仕方ありません。快楽に負けたものが先に喘ぎ声を出してしまうのです。
私達はそこに私と彼女しかいないような盲目さと大胆さで舌を絡ませ、お互いの唇を貪り合います。放課後の公園のベンチに座り、濡れて湿った肌を密着させて、雨だか唾液だか涙だか分からない色んな汁を垂らしながら、私達は喘ぎます。
これが初めて。初めてのキス。
だから一生、忘れられないように。
だから一生、覚えていられるように。
もっと、激しく。いいえ、もっと清らかなまま、愛し合うの。
私は異性との恋愛を嫌悪していました。異性と恋愛することが当たり前のように語る同級生もまた嫌悪の対象でした。けれど、心の隅で分かっていたのです。私が人と違うことを。異性と恋愛することが当たり前の常識と化しているこの世界で、そのルールに従えない私こそがまさしく、嫌悪の対象となりうるべきことを。けれど、けれど、私は必死で反抗しました。心の中で。ひっそりと。誰にもわからないように。知られないようにしながら、私は決して常識に従うまいと反抗していたのです。そんなとき、私の孤独に忍び寄るように入りこんだのが彼女でした。彼女もまた私と同じく異端であり、ルールに従わざる稀有な者でした。そんな私達だからこそ、この愛を育めると思えたのです。清らかな身のまま、愛し合えるこの喜びを私はもう手放すことはできないでしょう。
私達はそれからしばらくして、唇を離しました。
銀色に煌めく糸が私と彼女の距離をいやらしく測ります。
「ねえ……私のこと、好きでしょう?」
「分からないわ」
「どうして」
「……あなたが先に言ってくれなくちゃ嫌」
「もう、恥ずかしがりな上に頑固なんだから。……好きよ。一生この気持ちは変わらないわ。永遠にあなたのことを好き。生まれ変わってもあなたを見つけるわ。あなたとじゃなきゃ、生きていられない。愛しているの。これでいい?今度はあなたの番よ」
「……私も」
「その先は?」
「言わせるの?」
「―――やっぱり、いいわ。言いたくなるようにさせてあげる。あなたが言わないと、やめてあげないんだから」
私の言葉に満足してくれるあなたの微笑みがとても眩しく感じられるのはいつからでしょう。
私の前で、微笑んだ彼女の瞳が吸い込まれそうなほど美しく見えるのはいつからでしょう。
彼女は大きく息をすると、戸惑う私に覆い被さりました。
しっとりと濡れた肌の体温がブラウスを通じてこすれ合います。
「んんっ―――も、……っい、言う……からぁ……っん!」
「―――聞こえない」
荒い息遣いの中、私と彼女はそうしていつまでも、降りしきる雨の中、淫靡なる行為に耽っていました。
これは私と彼女の初めてのファーストキスの思い出です。
深夜のテンション




