表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
4章 そのラスボス。作者と対峙する。
41/41

エピローグ

25歳になった僕は、あの頃を思い出してこの小説を書き上げている。


 この物語はただの……

 そう普通の高校生3人の日常から始まった物語。

 でもそれは……日常とは少し、いや全く違うものだった。

【黒歴史ノート】

 僕たちがかつてそう呼んだもの。

 そこからあろう事か……最強のラスボスが現実世界に召喚されたそんな話。


「逸平さん。小説書き上がったの?」


「ああ。こんな高校時代の突飛(とっぴ)な話を題材にして良かったのかなって思ったんだけど……やっぱり書きたくなったんだよ」


 部屋に入ってきたのは彩音。

 高校時代の面影はもちろんそのまま。背はさすがにあれから伸びなかったと言っていた。髪を短めに切りそろえ、薄い化粧がよく映える凛とした表情は、更に彼女を大人の女性に見せていた。

 彼女の左手の薬指には指輪がはまり、柔らかい光を放っている。


「圭人どうだって? 友人代表のスピーチ頼んだんだろ?」


 圭人は大学を卒業後に自分でWeb投稿サイトを立ち上げ、会社を起こした。なかなか大変だったようだが、今は軌道に乗り始めているとのこと。


「快く受けさせてもらいますって言っていたわよ。というか、なんであたしが頼むのよ。逸平さんから頼めば良かったじゃない」


 あはは、と僕はごまかすように笑う。

 彩音は頬を膨らませるようにして不満げな顔を向ける。そんな表情がまた高校時代の彩音を思い起こすようで、くすぐったくなる。

 

「ほら覚えてる? 大学時代にも色々あったよね」


 僕は訝しげに彩音を見る。

 大学時代?

 そんな事あったかな?


「もう忘れているの? それも書けばいいじゃない」


 笑いながら部屋から出ていく彩音。

 部屋には繊細なタッチで書かれたレイカの写実画が飾られている。

 シャボン玉を目で楽しそうに追いかけている表情。

 絵の隅には小さくRirinaという文字。

 高校時代の彩音の自宅での一幕を鮮明に思い出す。


 それは誰も覚えてはいない。僕達3人だけの……秘密。


「さて、レイカ。いよいよ、お前との約束を果たす時が来たぞ」


 僕はカチャカチャと速い速度でキーボードを打ち込む。

 タイトルはもう自然と決まっていた。


【黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない】

 

 厨二ワードたっぷりの自分勝手なものとは違うそのタイトル。

 僕はあの頃書いていた『黒歴史ノート』を思い出して恥ずかしそうに頭をかいた。

 ふと窓の外を眺めると、あの時の過ぎ去りし夏の思い出が蘇るようだ。


 その時、窓の外からの冷たい秋風が一瞬部屋の中に吹き込んでくる。

 壁に貼られた写実画がゆっくりと揺れる。


 自分の後ろに何者かが立った気配がした。


 よく……よく知っているその気配。

 間違えるはずもない。


『久しぶりだね。逸平』


 そんな声が聞こえた気がした。




 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ