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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
4章 そのラスボス。作者と対峙する。
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「なんだこれは! あれはレイカ……逸平が鎖に縛られて!」


 屋上に飛び込んできた圭人と彩音。

 二人は目の前に広がる、さながら世紀末の様相に足がすくんで動けない。


「逸平君! レイカさん! これはいったいどういうこと!」


 彩音の困惑した叫び声が聞こえる。

 俺は懸命に全身の筋肉を振るわせて、自分自身に絡まった鎖を少しでも解こうとする。

 しかし動こうとすればするほど、それはまるで生きているかのように震え、揺らぎ、体を更に締め付ける。


「二人とも下がっていてくれ! これは俺とレイカの、いや、()()()()()()()()()()()()()()()()。ここで自分が全て刈り取らないといけないんだ」


 自分でも何を口走っているのかわからない。

 でも心の中で分かっていた。だからそう口に出た。

 レイカは最初からずっと試していた。

 創造主がどう思い、どう考え、これからどうしていきたいのか。

 答えを出せなかったのは自分自身への甘えだ。

 だから奴はしびれを切らした。

 ノートから伸びる鎖は、俺の心の迷いの象徴だ。

 魔王レイカはそんな俺の心の内面の動きなどお見通しなのだろう。そうアイツの真っ赤に燃え盛る瞳が雄弁に語っている。


「ボクは召喚されたんじゃない。自分から選択してこの現実世界に姿を現したのさ。その衝撃で一時的な記憶喪失になってしまったけどね。それはそれ、楽しかったのは間違いない。ありがとうと言えばいいのかな、こういう場合って」


 既に記憶を取り戻しているのか!

 俺や圭人、彩音がそのレイカの独白に目を大きく広げ絶句する。

 25回目の召喚だから成功したなんて、どこか都合が良すぎるとは思っていたんだ。でも奴が自らの意思で現れたというのなら、これまでの全ての言動に合点がいく。


「さぁ、逸平……もう一度問おうじゃないか。お前が望むのは救いたいと考える一人の命か、それとも崩れゆく世界の理を守ろうとすることなのか!」


 その場に無情に響き渡るレイカの宣告。

 圭人と彩音の足元で、俺とレイカへの道を塞ぐように身動ぎする鎖。

 二人は俺達に近づけず、ただ行く末を見守るしか方法が無い。

 それでも彩音は叫ぶ。


「逸平君、確かにあたしは李里奈の命を救いたいと願ったけど、それはあたしと引き換えよ。あなたがなんで死ぬのよ。やだよ! 逸平君のいない世界なんて、あたし嫌だよ」


 彼女の声は悲壮感に満ちていた。

 病院内で自分自身の口から出てしまった言葉に、どうしたらいいのか分からず困惑したまま、ただ心にある本音を大きな声で訴える。

 圭人もそうであったのかもしれない。

 ただ彩音のそれと違うのは、自分自身を偽り続けてきた後悔の念からかもしれない。

 俺とバスケをしながら語った本音。

 圭人自身がずっと心に抱き続けた、自分に無いものに対する飽くなき憧れ。

 それがそんな言葉を発したのかもしれない。


「レイカ、2人の命を持っていくなんて、俺は許さない。持っていくしかないなら、俺の命を持っていけ! 俺はなんでもできてしまう自分が嫌なんだ。消えちまったっていいってずっと思っていた」


 二人の偽らざる本音。心の奥底に眠っていた言葉。

 それが魔王になってしまったレイカに届くのか……いや、届くとは到底思えない。

 俺はギリギリと歯を食いしばり、自分の無力さを呪った。


(すべては俺の責任だ。だけどこの事態の根本が黒歴史ノートだというなら、その答えもまたノートの中に……)


 自分が続きを掛けなくなった場面。

 レイカの攻撃によりひとりひとりと仲間が倒れていく。

 その時最後に残った勇者は何を想い、どう行動するのか。

 俺は必死に頭を巡らせる。


「もう遅い! 賽は投げられた。どのみちこの世界は逸平の書いた小説と融合する。もう少しだ!」


 レイカが力を込めると更にノートから鎖が伸び、圭人と彩音を襲う。

 俺は耐えきれなかった。

 2人が鎖に阻まれて悲鳴を上げる。

 その時、小説の中の情景が俺の瞳の裏に鮮やかに映像となって映り込んだ!


 突然予期せぬ形で魔王と相対する事となる勇者パーティー。もちろんそれは早すぎる決戦。どうにもならぬレベルの差。『絶対模倣』の力に成す術はなく、一人ひとり勇者を庇い倒れていく。

 最後にレイカは告げるのだ。

 お前は何のためにここまで来たのかと。


「ボクの力は見ての通り。今のキミには敵うべくもない存在だ。どうする? キミが願うなら、キミの命だけを救いこの場から逃がし、最後まで命だけは保証する事を誓おう」


 勇者はレイカを見上げる。

 全くの曇りなき、嘘偽りない眼で。


「俺ひとりの命? そんなものは惜しくはない。俺の願いはただ一つ。命に代えてもこれまでの戦いを支えてくれた誇りを貫くことだ、レイカ。お前の言葉には応じられない」


 無我夢中で叫んでいた。


「ふたりの命を持って行くなんて俺が許さない! 死ぬなら俺だけだ。だがそれでいいのかレイカ! お前は……俺の書いた物語そのものなんだろう!!」


 なにを喋っているんだろう。

 心の中に浮かんだ気持ちが、全て言葉となって高く飛散していく。

 死を覚悟した瞬間だというのに。

 目の前にいるアイツを想い、自分の創作への想いがどこまでも高まっていく。


 レイカの手の中で鎖が光り輝く。

 俺の意識が遠くなっていく

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