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黒歴史ノートが生んだラスボスは、加減というものを知らない  作者: 小宮めだか
そのラスボス。現実を変えさせて頂きます。
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お礼参り

「竹内! もういいぞ。お前は役目を充分に果たした」


 旧校舎の男子トイレの前に集まってきた5人の影。

 その男子生徒には見覚えが、もちろんあった。


「お前たち! この間体育館裏でレイカにやられた奴らじゃないか!」


 やられたという言葉が癇に障ったのだろう。

 5人の中でもひときわ体の大きな男が前に出てくる。よく見れば確か彩音の手をねじりあげていたやつじゃないか、コイツ。


「やられた訳じゃない。ちょっと変な夢を見させられただけだ! 気付いたら手も足も何もなってなかったしよ。レイカとか言う奴が変な催眠術を使ったって蜷局の奴が言っていたぜ!」


 語るに落ちるとはこのことだな。俺は頭を抱える。

 彩音は先日のことが思い出されたんだろう。足が少し震えている。俺は彼女の前に庇うように立ちふさがる。

 レイカがその俺の様子を見て満足げに頷いた。


「ごめん、大門君。吉祥寺さん! ここで文化祭でやるマジックの練習をしていたら脅されたんだ。僕だってこんなことしたい訳じゃない」


 必死に弁明している竹内君。俺よりも気弱そうな彼のことだ。脅されて従わざるを得なかったんだろう。逆に同情する。

 そのまま竹内君は風のような速さでその場より逃げ去ってしまった。

 後に残されたのは五人組の人相の悪い男たち。俺、レイカと彩音。


「よぉ、転入生! この間は世話になったな。今日はそのお礼と言ってはなんだが、やられたままって訳にはいかなくてよ」


 まさにどこかで五万回は見た様な典型的な絡み方に、盛大なため息を付きながら頭を抱える。彩音は俺の後ろに隠れているが、どこか余裕のある表情だ。


「まだ懲りないのね。今日こそ息の根を止めちゃってください。魔王ルシフェル様」


 そんな事を言いながら彩音はレイカにウィンクを飛ばした。

 をい。お前な。

 それってお願いになっている様な気がしないか。

 レイカはただ、小さく首を傾げただけ。


「キミたち、もう誰だか忘れてしまったけど。人間の言葉って……ボクにとっては退屈極まりないよね」


 そう冷気を発するような声と同時に、辺りの空気感が一変する。

 レイカの真紅の瞳に力が宿る。

 五人が一瞬腰を引く。

 しかし……特に何も起こった気配は無い。


「何も変わってないぞ」


 逆に俺は安堵する。

 その時だった。一瞬の身体の虚脱感を感じて、彩音の肩に手を置く。

 ……やはり何かが起きている。


 5人の男たちの口がパクパクと奇妙に動く。


「……わん」

「わんわん!」

「わおおーん!」


 大きな声で叫んでいる。自分たちでも何が起きているのか理解できずに。

 ……言葉を喋れなくされたのか。

 しかも犬の鳴き声とはな。


 思わず旧校舎の天井を仰ぎ見る。こんなことの為に俺の筋力が! あほか!

 レイカは目を細めてこちらを見ながら、微笑みを称える。

 彩音は目を輝かせて叫んだ。


「か、かわいい! 喧嘩腰の男たちが子犬ちゃんに!!」


 男たち5人は必死に抗議しているらしいが、全部「わん」と聞こえてくるだけ。その様子はどう見ても、わんわん言いながら威嚇している犬そのもの。

 しかもレイカが指を鳴らすたびに、語尾が「わん♪」になっていく。


「わん♪ わぉん♪」


 顔を真っ赤にして奴らは逃げ出すしかなかった。旧校舎の3階には「わん♪」だけが残る。

 レイカは退屈そうに肩をすくめた。


「喧嘩? あれが? 子犬の喧嘩にも劣るね」


「今の動画に撮れば良かったよ! 絶対バズったのに!」


「やめろ彩音!!!」


 そう俺が叫んだ直後に異変は起こった。


 ピシリ! という何かが軋んだような音。

 ピリピリとした張りつめた空気が突然旧校舎を支配する。


『キャアアアアアアアア!!!』


 女性が発するような甲高い大きな悲鳴が上がった! もちろん彩音のものではない。明らかにこの世のものとは思えないような、ここではない別の場所から聞こえてくるような感覚。

 その声に呼応するようにして、次々と旧校舎の窓ガラスが割れていく!


「なによ……これ、どうなっているの」


 オカルトへの使命を忘れてしまったのか、呆けたように立ち尽くす彩音。

 俺も驚くというより理解が出来ないことが先立ち、茫然と辺りを見回すのみ。

 レイカだけが広げた扇子の向こうで真剣な表情となっていた。


「ここでも乱れが……おかしい」


 呟くレイカの瞳が怪しく輝く。



 ✛ ✛ ✛ 


 結局その声と窓が割れてしまった原因は分からず。

 駆けつけてきた先生たちに事情を聞かれたが知らぬ存ぜぬで通した。


 その後オカルト部の部室に戻ってきた俺達。

 気分を変えるようにして彩音が俺に提案した。


「あ、そうだ。逸平君。明日さ土曜日だから、うちに遊びに来ない? 李里奈も会いたいってさ」


 どこか早口な彩音。

 そうだよな、見てあげるって言ったからな。

 李里奈の描いていたマンガのコンテが頭の中に浮かぶ。

 自分の小説は書き進められていないから、人の世話を焼いている場合ではないのは分かっているんだが。


「レイカさんもどう? 逸平君だけ呼ぶのも変だし」


 彩音のその言葉に俺がびっくりする。

 確かに、奴が現実世界に現れてから初めての土日。一緒に部屋にずっと居られるのも息が詰まりそうだし、かといって隣でゲームを際限なくやられたり、母親がレイカのことを気にして、ずっと干渉したりしてくるのもかなり気が滅入る話だ。


「彩音と李里奈が良いって言うなら俺はいいと思うけど」


「本当は圭人君も来てくれると嬉しいんだけど。土日はさすがにバスケ部かな。逸平君だけだとどうしても甘くなっちゃうから」


 そんな二人の様子を、鼻の頭に人差し指を置いて観察するように見ているレイカ。

 口元が一文字に結ばれ、ある意味アイツには似合わない考え込むような表情に、一抹の不安を覚えたんだ。

あまりお礼参りって昨今言わないですよね……と思いながら書いています。


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