119.馬鹿王子
グリージョからマリィ捜索をうけた、元婚約者ルグニスだったが……。
部下からの報告を聞いて憤慨していた。
王城、ルグニスの執務室にて。
「なんだと!? 貴様もう一度言ってみろ!」
報告に来た部下を、ルグニスが怒鳴り散らす。
思い通りにいかないからと、かんしゃくを起こす子供のようだ。
「で、ですから……マリィ様を探す余裕がないと言ったのです」
「ふざけるな! 余裕がないだと!?」
「ふざけてません……殿下もご存じでしょう? 今王国は未曾有の危機を迎えております」
大量の魔物が、国中にあふれかえり、いま国はピンチを迎えている。
ルグニスもそのことについては知っていた。
「魔物の対処だけで手一杯です。騎士たちはみな見張りに、魔物との戦いにと、疲弊しきっております。そのうえで捜索なんてとても……」
「だったら寝ずに働け! 馬鹿どもの尻を蹴飛ばしてな!」
部下はルグニスのあまりの理不尽なふるまいに、内心で腹を立てる。
騎士たちはみな国民を守るため、必死になって働いてる。
そんな彼らを馬鹿とよばれて、腹が立たない方がおかしい。
……だが自分は所詮、一介の騎士に過ぎない。
王太子に逆らうことなんてできないのだ。
「……なぜマリィ様にこだわるのですか?」
「グリージョが探してこいといったからだ。マリィが妹の美貌と力に嫉妬して、呪いをかけたのだ」
……馬鹿か、こいつ?
部下である騎士団長は、内心でそう思った。
王国一の呪術師が、言っていたではないか。
マリィは呪いなんてかけていないと。
なぜその言葉を信じず、グリージョの根拠薄弱な言葉を信じるのだろうか?
「グリージョが体調を崩したら大変だ。その前に呪いをとかねばならぬ。今はグリージョが踏ん張って結界を維持してるが、このままでは結界が破壊されて……」
そのときだった。
「で、伝令……! お、王都に……大量のモンスターが流れ込んできました!」
騎士団長も、そして王太子も、唖然とした表情で伝令係を見やる。
……王都にモンスターが?
「ば、馬鹿を言うな! 王都にはグリージョの結界が張ってある! 魔物が入ってこれるはずがないのだ!」
マリィから弱体化の呪いを受けたとして、グリージョは今日の今日まで結界を維持してきたのだ。
グリージョの凄い結界が、壊れる訳がないのだ。
「し、しかし……現に魔物が……」
「くそ! 殿下、失礼します! 現場に向かわねば!」
しかし……。
「待て! なおのこと、マリィ捜索に向かうのだ!」
「………………は?」
騎士団長は立ち止まると、信じられないものを見る目で、王太子を見やった。
「な、何をおっしゃってるのですか……?」
「結界が壊れたのだ。これはマリィの仕業だ! すぐにマリィを見つけ出せ! でないと大変なことになる!」
「っ! もうなってるんですよ! 大変なことに! 結界は壊れたんです!」
「だからそれは、マリィの仕業だ! あやつを見つけだして、呪いを解けば、結界は元通りになる!」
「その間国民は! どうすればいいのですか!?」
「ほうっておけ! 多少の犠牲は必要経費だ!」
……ルグニスの発言に……。
騎士団長は、冷ややかな目線を向ける。
「……馬鹿王子が」
「なんだと!? 貴様、不敬だぞ!」
「うるさい黙れ! おれたちは国民を守る! あんたの命令は、聞かない!」
騎士団長は伝令係とともに部屋から出て行こうとする。
「ま、待て! 貴様、王命を無視するというのか! 不敬罪で捕まえるぞ!」
「大いに結構! おれは、馬鹿な王子の戯れ言なんかより、己の心の声に従って行動する!」
騎士団長は今度こそ、ルグニスを置いて走り出す。
……ルグニスは散々馬鹿にされて腹を立てていた。
「くそ! 何が馬鹿だ! 馬鹿はどっちだ! マリィを連れ戻せば、グリージョが全部解決してくれる! どうしてそれがわからないのだ!」




