117.真相
さて、王国の避難民たちは、帝国の軍人たちに護送されながら、マデューカス帝国へと向かっていた。
「あの……皇女様……」
「む? どうしたのだ?」
避難民のひとりが、魔法バイクにのるリアラに尋ねてきた。
「どうして、皇女さまが王国にいたのですか?」
隣国の皇女が王国にいること事態おかしい。
また、モンスターが襲ってきたタイミングに、都合よく現れたことも、引っかかりを覚える。
「皇女様に無礼であるぞ! 命の恩人だというのに!」
「まあよい、キール。彼らの不安も尤もだ。事情を知らぬものたちからすれば、我らの存在が妖しく思えるのだろう」
他の避難民たちは気まずそうに目線を反らす。
たぶん質問者以外のひとたちも、疑問に思っていたのだろう。
「すべては魔女マリィ様のおぼしめしだ」
「あのぉ……その、マリィ様というのは?」
「君たちもよく知ってると思う。マリィ=フォン=ゴルドー嬢である」
「! ご、ゴルドー公爵の、ご令嬢様ですか……!?」
避難民たちがざわつく。
マリィは悪い意味で有名だった。
法術(治癒術のこと)を使えぬ欠陥品として、周りからも家族からも虐げられていたはず……。
「にわかには信じられません……マリィ……様が我らを助けてくれたなんて」
「ふむ……しかしワタシをここへ派遣したのはマリィ様だ。そして我らに力を授けたのも」
帝国軍人たちの手には、魔法銃が握られている。
魔法獣とは魔道具の一種で、魔力を流すと、特定の魔法を発動できるという代物。
しかし魔道具の作り手のレベルが低下した現代では、せいぜい下級魔法をインプットするのが関の山。
「上級魔法が付与された魔法銃を、マリィ様が授けて下ったのだ」
「! それは……どうして?」
「決まっておられる。この銃を使い、王国の民たちを助けよ。そういうメッセージだとワタシは受け取った!」
その話を聞いていた避難民たちが涙を流す。
「マリィ様……お優しい……」
「追放されても、元いた国の国民たちの行く末を憂いて……」
「我らはマリィ様のことを見下していたというのに……」
王国民たちは己の行いを恥じた。
リアラはそれを見て微笑む。
「魔女殿は心の広いおかただ。きっと、あなたたちを許してくださるだろう。いや、もう許しているに違いない。許していないなら、我らに力を貸して、ここへ派遣することもなかったろうからな」
「「「おお……!」」」
リアラは胸を張って語っている。
それを聞いて王国民たちは感銘を受けているようだ。
……しかし、だ。
キールは真実を知ってる。
『よぉキール』
「! オセ殿」
キールの右手には1つの指輪がはめられている。
にゅぅう……と表面が伸びると、手のひらサイズの子猫となった。
オセは影使いの悪魔だ。
これは彼が創った影の分身とでもいうべき存在。
強い力があるわけではないが、本体との通信が可能となる。
『下界のほうはどんな様子だ?』
「ロウリィ殿の言うとおりでした」
ロウリィとは禁書庫の番人のこと。
下界、つまり今リアラたちの居る世界に危機が迫っていると、ロウリィづてでマリィたちは聞いたのだ。
しかしマリィは下界に帰ろうとしなかった。
『あの食欲魔女さん、食べられる敵じゃあねえと戦う気ゼロだからよ。皇女様に面倒ごとを押しつけたんだよな』
そう……確かにマリィに命じられ、リアラたちは下界にきた。
しかしマリィは別に、世界を救うために行動したのではなかったのだ。
「まあ……しかし魔女殿に魔道具をかしてもらったのは事実ですからね」
『自分の命令で誰かが死なれたら寝覚めがわるいって理由と……あとは王国には美味しい料理店がそこそこあったから、潰して欲しくなかったんだろうよ』
……とまあ相変わらずのエゴイストであった。
リアラはマリィの行動を超好意的に解釈し、こうして周りに広めているのである。
『ま、こっちのことはおれらに任せな。そっちのことは頼むぜ』
「はい。ご武運を」
『悪魔に武運を祈られてもな……』
そう言って黒猫は消える。
キールはお人好しの悪魔に感謝した。
魔道具を預けるように提案したのは、他でもないオセなのである。
あくまであるはずなのに、とてもお人好しだなぁと思うキールであった。




