114.フルーツタルト
マリィは農園を潰して回り、蓬莱山の果実を集めまくった。
集めたそれらをその都度、カイトのもとへと送る。
ややあって。
「魔女様! 完成しました!」
「でかしたわカイト!」
カイトが空間の穴を通り、マリィのもとへとやってきた。
そこは最初に襲撃をかけた桃園。
カイトの手には、巨大なフルーツタルトがあった。
「おっきぃけ~~~~~~~~~きっ!」
テンション爆上がりのマリィ。
その目は夜の星空よりも美しく、真昼の太陽よりもさんさんと輝いていた。
「良い仕事っぷりよカイトぉ!」
もうこの興奮具合である。
食べずともわかる、絶対に美味い……!
レジャーシートを広げ、そこに座るマリィ。
カイトはケーキを切り分けようとしたのだが……。
「いい! 私が自分で切るわ! ぜぇんぶ私のものよ!」
『強欲すぎんだろこいつ……』
隣にちょこんと座る黒猫のオセ。
マリィは風の魔法で作った刃を、スッ……とケーキに入刀。
綺麗に切り分けた巨大フルーツタルト。
マリィはフォークでぷすっ、とそれを刺して、口に運ぶ。
「ん~~~~~~~~~! まいっ!」
口の中に広がるのは、たくさんの果物たちが織りなす、種類の違った甘み、そして酸味。
「クリームの甘みと、たくさんの果実の酸味などが合わさって! 最高に美味しいわ!」
「ありがとうございます!」
もっもっもっ、とマリィは凄まじい勢いでタルトを食べていく。
「この……しっとりとしたタルト生地もまたいいわ。果実がなくてもこれだけでいけちゃうっ」
マリィは恍惚とした笑みを浮かべながら、爆速でケーキを食べていた。
その間に……カイトは別のものを用意する。
「むぐむぐ……それはなぁに?」
「フルーツサンドです!」
「! 馬鹿な……まださらなる別のおいしいを、よういしていただとっ!」
カイトが取り出したのは、たくさんのバスケット。
蓋を開けると、ぎっしりフルーツサンドが詰まっていた。
「え、ええっと……これは、魔女さま以外の人たちの分で……」
この優しい少年は、マリィのおやつを用意する一方、リアラ皇女たちもお腹すかせてるだろうと思い、フルーツサンドも用意していたのだ。
「なにぃい~? 私にだす以外のご飯を、作ってたですってぇ……!」
ごごご、とマリィの体から魔力が吹き出す。
どうやらマリィもフルーツサンドを食べたいようだ。
自分の分がないことに、憤りを感じてるのだろう。
『あんま食い意地はんなよ……そんなうまそうなタルト、自分だけ作ってもらっといて……』
「それはそれ、これはこれ、でしょう! カイト……!」
するとカイトは笑顔で言う。
「魔女さまの分も、あります!」
「ん、じゃあいいわ」
オセは小さくため息をつく。
子供かこいつは……と。
「クッキー人形さんたちの分もありますよ!」
『おお、ありがてええ!』
拉致され、農園で働かされていたクッキー人形の奴隷達が涙を流す。
『なんて優しいんだ……』『こんなちっこいのに人間ができててすげえ……』
てれっ、とカイトが頭をかく。
『あんがとな、坊主。でも……おれらはこの体じゃ、食べたくても食べれないんだ。気持ちだけもらっとくわ』
「そう……ですか。せっかく一杯作ったんですけどね……」
マリィがタルトを全て食べ終える。
ちょっと自分のお腹をさすったあと……。
ぱちんっ、とマリィが指を鳴らす。
頭上に魔法陣が展開し、そこから接骨木の神杖が出現した。
『なにすんだよ、魔女様? 接骨木の神杖なんて取り出して』
「別に。そこのクッキー人形のあなた、ちょっとこっちおいで」
リーダー格らしき人形が、とことこと近づいてくる。
「悪いようにしないから、少し、あなたのクッキーの一部ちょうだい」
『ちょ、おま……! 食い意地はりすぎだろ! 相手は元人間だぜ!』
「真面目な話よ」
クッキー人形はためらいもせず、右腕を自分でおって、差し出した。
『あんたに命を助けてもらったんだ、腕の一本くらい、わけないさ』
「そう……ありがと」
マリィはツンツンッ、と杖でクッキーをつつく。
幾重もの魔法陣が展開する。
「解析完了。もう良いわよ」
マリィが杖を振るうと、折れたクッキーを修復魔法で元通りにする。
そして空中に魔法陣を、新たに描く。
『解呪の魔法か?』
「少し手を加えた、オリジナルの解呪よ」
マリィは魔法陣を即興で完成させる。 そして、頭上に掲げた。
「大解呪」
するとクッキー人形たちの頭に、それぞれ、魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣が頭の上から足下へと降りる……。
すると、クッキー人形たちの体が光り出した。
みるみるうちに、彼らの体が大きくなっていく。
「「「うぉおおおお! 元に戻ったぁあああああああああ!?」」」
マリィの魔法によって、クッキー人形だった彼らが、元の、人間の姿に戻ったのである。
彼ら驚き、そして……人間になれたことを、泣いて喜ぶ。
「奇跡だ!」「すげええ!」「人間に戻れたぞぉ!」「うぉおおおん!」
感涙にむせるクッキー人形たち。
そして全員が、マリィに頭を下げた。
「「「ありがとうございます、魔女様!」」」
マリィは一瞥すると、すっ、と杖でフルーツサンドを指す。
「勘違いしないで。私はただ、カイトがせっかく作ったフルーツサンドが、傷んで駄目になって、捨てるのがもったいなかっただけ。さっさと食べなさいな」
マリィがそういうと、みんなポカンとした表情になる。
カイトがもう泣きながら、手を叩きながら言う。
「魔女様……ほんとうにおやさしいおかたです! 100%善意で治したとなったら、みんなが気にしてしまうからと、無理くり理由をつけて、治してくださるなんて!」
とカイトがまたしてもインフルエンサー(駄目な方の)っぷりを発揮。
みなが勘違いし、大泣きしながら、マリィに頭を下げる。
……まあ、マリィの言ったことは100%本心なのだが。
「ちょっと食べ過ぎて、お腹いっぱいになったからね」
みんなが涙を流しながら、カイトの作ったフルーツサンドをほおばる。
再び人間に戻れたことを、魔女に感謝しながら。
『残すのもったいないからみんな人間に戻したっていうがよぉ、異空間にでも保存しておけばよかったんじゃね?』
「……!」
マリィはくわっと目を見開いた。
その考えは……思いつかなかったようだった。
こういうところ、ちょっと抜けてる、魔女なのだった。




