111.またも人助け(誤解)
桃園で美味しそうな物があったので、取った(※窃盗)。
するとわらわらと、クッキー人形たちがマリィたちの元へ集まってきた。
『魔女さまよぉ、こいつぁ一体どうなってんだ……?』
「呪いでもかかってるんじゃあないかしら」
『呪い……? あ! 嫉妬の魔女のか!』
黒猫のオセが思い出す。
ここへ来る途中、チョコに変質させられた人面樹を見た。
『魔女さまのおっしゃるとおりです……我らは嫉妬の魔女によって、このような姿に変えられてしまったのです』
クッキー人形たちが語ったところに寄ると……。
彼らは元々他国の冒険者だったそうだ。
依頼を受けて蓬莱山に調査に来たところ、嫉妬の魔女に敗北。
こうしてクッキーの人形にさせられたそうだ。
「ふーん……」
『一ミリも興味なさそうだなあんた……』
「そうね。桃が美味しいわ」
『会話ぇ……』
魔女にとっての関心事は、すべて食べることに集約してる。
クッキー兵士たちの身の上なんてどうでもよかった。
一方事情を聞いてしまい、同情してしまったオセは、人形たちに尋ねる。
『あんたらどこから来た冒険者なんだ?』
『ゲータ・ニィガだ』
『たしか魔女さまがいたところだな……しかし解せんな。蓬莱山って帝国の領土にあるんじゃあなかったか?』
確かにマデューカス帝国とゲータ・ニィガ王国は隣り合ってはいるが、それでも距離は離れている。
「蓬莱山って、移動するのよ」
『移動……?』
「ええ、次元の狭間を移動できるのよ。パイプの中を水が通るようにね」
『パイプは次元の狭間、水は蓬莱山ってことか』
マリィが桃を食べ終えると、うっとりとした表情で言う。
「このみずみずしさは一級品ね。カイトにデザート作ってもらわなきゃ……♡ ああ何がいいかしら。まあ考えずともあの子に全部任せれば、確実に美味しい物が食べられるからいっか♡」
とまあマリィは人形どもなんてほっといて、カイトにどんなデザートを作ってもらおうかと考えるばかりだ。
人形たちがマリィの前でひざまづいて、頭を下げる。
『厚かましいお願いだとは重々承知しておりますが、魔女さま。どうか! 我らをお助けください……!』
オセは人形たちを不憫に思った。
その境遇もそうだが……。
頼る相手が、魔女であるという点だ。
マリィは頼まれても人助けなんて面倒なことをするタイプではない。
案の定、彼女は不愉快そうに顔をゆがめる。
ひぃ……! と人形たちが震える。
そんな姿が見てられなくて、オセが言う。
『魔女さまよぉ、ちったぁ人助けしてやっても……』
「頭が高いわ」
『は?』
「ひれ伏せ」
『あんたなに……おお!?』
マリィの周囲には水の玉がいくつも浮かんでいた。
彼女は両手をぱっ、と広げていう。
「【水竜大瀑布】」
その瞬間、水の玉から大量の水流が吹き出した。
それはまるで巨大な水の竜だ。
水竜たちは桃園の中を駆け抜ける。
『どわぁあああああああああああ!』
オセやクッキー人形たちも水に流されていくなか、マリィはひとりホウキに乗って水流を避けていた。
ややあって。
『なにしやがんんだよてめえ……!』
びしょ濡れのオセがマリィに近づいて抗議の声を上げる。
「濡れるわ。近づかないでちょうだい」
『うっさいわ! 誰のせいだ誰の! つーかいきなり何しやがんだよ!』
す……とマリィが桃園を指さす。
そこには……。
『なっ!? と、人面樹!?』
無数の人面樹たちが息絶えていた。
『まさか……こいつら! 木に擬態して監視してやがったのか! クッキー人形どもがちゃんと働くように!』
オセの言うとおりだった。
桃園はまず脱走防止用の結界が張られていた。
そして、中で働くものたちがサボらないようにと、人面樹が常に目を光らせていたのである。
ぽんっ! ぽんっ! と音がすると……そこには、人間の姿になった冒険者たちがいた。
「も、戻った……!」「おれたち、人間に戻ったぞぉ!」
わあ……! と冒険者たちが歓声を上げる。
『どうやらこいつらにかけてる魔法の管理も、マーサから任せてたたんだな……』
冒険者たちはマリィに頭を下げる。
「「「ありがとうございます、魔女さま……!」」」
彼らを解放してくれた魔女に、心からの感謝と敬意をささげる彼ら。
だが……オセは知ってる。
この女が、頼まれて人を助けるような英雄ではないことを。
ふと、オセは気づいた。
桃園の端っこに、大量の桃が積み重なっていることを。
『あんたまさか……木になってる桃を回収するために……?』
「?」
『あ、うん。そのきょとん顔でわかった、もういいや……』
つまりまあ、いつも通りなのだ。
マリィはただ桃を回収したかっただけ。
人面樹を倒したのも、結界を破ったのも、全部自分のため。
そう、彼女は魔女。
己のためにしか動かない女なのだ。
しかし……。
「「「あの化け物を倒して、我らを助け出してくださった! 魔女さまはすごいです!」」」
と事情を知らない人たちからすれば、こうなってしまうのである。
『なんつー……馬鹿馬鹿しい話だよ』
その言葉、至極まっとうであった。




