108.階梯
マリィは嫉妬の魔女マーサの陰謀を止めることになった。
別に、魔女を倒して世界を救う気はさらさらないものの、マーサのお菓子に性質変化させる魔法には興味があったのだ。
「それでー……魔女さん」
「なぁに、ロウリィ」
マリィが湖のほとりに、椅子を置いて、寝そべって休んでいた。
白髪の美少女にて、禁書庫の番人、ロウリィが尋ねてくる。
「これからの方針を伺っておきたいんすけど……」
「マーサのところへ行く、ぶん殴る、以上」
「やり方がノーキンすぎる……」
「ご不満?(にっこり)」
「いえいえ……(がくがく)」
マリィの強大な魔法は、たとえ番人だろうと防ぐ術はない。
パワーバランスで言えば魔女のほうが上なのである。
「そういえば……マーサって今、蓬莱山のどこに居るの?」
「今頃……あ、なんでもねーっす。地図だしますね」
ロウリィがパチンッ、と指を鳴らす。
すると湖のほとりに、地面から無数の本棚が出現した。
「な、なんだ!? 急に本棚が出てきたぞ!? 一体今のは……?」
「禁書庫の本っすよ、皇女さん」
「禁書……そうえばここは書庫であったな。どこにも見当たらぬから不思議だったのだが」
「本の管理は自分がやってるっす。自分が、本を存在ごと隠してるんすよ」
「なんと! 存在を隠すなんてすごい……」
まあ、とロウリィが額に汗をかきながら言う。
「本来、この湖もまた存在を力で隠してたんすけどね」
「む? そうなのか。でもあっさり見付かったのだが……」
「それは魔女さんの看破の魔法がすげえからっすよ……」
この湖には不可侵の結界が張ってあったのだ。
それをマリィは易々と破ってきたのである。
「結界なんてあったの?」
しかしマリィは解除してるという意識はなかった。
「無意識に、結界やぶってんたんすか……相変わらず規格外っすね……そんなの誰にもできねーっすよ……」
「できるわよ」
「あんたはね……! 例外なんすよ!」
マリィはあまり、レベルについて興味なかった。
彼女にとって魔法とは障害を越えるための道具(手段)でしかないのである。
「ほんと魔法使いって、すごい階梯とか気にするんすよ……」
「番人様、階梯ってなんでしょ?」
カイトがロウリィに尋ねる。
「階梯とは、魔法使いの格付けっす。使える魔法の種類、強さなどで、レベル分けされてるんす。最低が、第一階梯。最高が、第一〇階梯」
どうやら冒険者のように、魔法使いも格付けされてるようである。
「魔女さまは?」
「驚くことに……第一〇階梯っす……始祖の魔法使い、ヴリミル様と同じっす……レベチっすよ」
魔法使いがまだ存在したいにしえの世界においても、マリィは規格外だったのだ。
衰退世界においてはいわずもがな。
「すごいです、魔女さま! やっぱり凄い凄い!」
「どうも」
彼女にとって他人からの評価なんて、どうでもいいのである。
しかしカイトはその態度に、
「高い実力を持ちながら、それをひけらかすことなく、弱者を守るためだけに力を使う! くぅうー! 魔女さまはすごい、かっこいいですー!」
とかんとか、勘違いしちゃうのである。
リアラの従者キールは「こいつぁやべえ……」とあきれていた。
オセも同意するように何度もうなずいてる。
リアラ皇女はふと、気になったことをロウリィに尋ねる。
「魔女殿が第一〇階梯なら、嫉妬の魔女マーサはどのくらいの階梯なのだ? 同じくらいか?」
確かに、同じくヴリミルの弟子ならば、同格くらいの力はあるように思えた。
「第四すね」
「全然弱いじゃないか!」
「いや……第一〇階梯の魔女さんがイカレテルだけで、第四もあれば英雄になれるレベルなんす……」
「で、では第一〇階梯の魔女殿は……」
英雄をも凌駕する、規格外の存在と言うことだ。
だというのに、マリィはのんきにトロピカルジュースをすすって、「うまぁい……♡」とかのんきにつぶやいている。
「なるほど……カイト殿の言うとおり、真の強者は力を誇示しないのだな。さすが魔女殿!」
「ですよねー! 魔女さまはすごいですよねー!」
すごいすごいと持ち上げる信者二名。
オセはため息交じりに尋ねる。
『んで、本題に戻るけど、マーサはどこにいるんだ?』
「蓬莱山中央にそびえ立つ、不死の山。ここにマーサはいるっす」
『不死の山ね……地図とかないのか?』
「あるっすよ」
くいっ、とロウリィが指を曲げる。
すると禁書庫の本棚から、一冊の本が飛んできて、マリィたちの前で滞空する。
カイトがそれを受け取る。
「そこに蓬莱山の地図が書いてあるっす。参考にして欲しいっす」
「わかったわ」
マリィがぐいっと伸びをし、パチンと指を鳴らす。
するとマリィは水着から洋服の姿へと戻る。
「ロウリィ。これを身に付けてなさい」
マリィは異空間から何かを取り出し、ロウリィに放り投げる。
「なんすかこれ?」
「通信用の魔道具よ」
一見するとイヤリングに見えるこれは、遠くのものと会話可能となる魔道具。
とてつもない高度な代物だった。
「やっぱ魔女さん、やべえ……」
「何かあったら連絡しなさい。それと、聞きたいことがあったらこっちから連絡するから。用事が無いときに呼び出したら死刑」
「ひぃい! わかったすよ!」
マリィはうなずいて、カイトたちを見やる。
「さ、出発するわよ」
「「おー!」」




