107.きゅーけい
さて、故郷がばたついているとはつゆ知らず、マリィはというと……。
「ふぅ……涼しいわ……」
マリィは禁書庫のある湖にて、水着姿となっていた。
浮き輪にお尻を入れて、ぷかぷかと浮いている。
「魔女さま~」
ばしゃばしゃ、とカイトがバタ足しながらマリィのもとへやってくる。
その手にはビート板が握られていた。
「魔女さま! トロピカルドリンクが完成しましたよ! とりにきてください!」
「でかしたわ!」
マリィがぱちんっと指を鳴らす。
すると、湖の畔においてあった飲み物が、ぷかぷかと浮遊すると、マリィのもとへやってきたのだ。
彼女はトロピカルドリンクを片手に、ずぞぞぞ……とすする。
「! おいしいわ。しゅわ……っとしたのどごし……! まるでビールみたいだけど、アルコールじゃあない! これはいったい!?」
「炭酸水です!」
「炭酸……?」
「はい! 気体をジュースに溶かすことで、しゅわしゅわとしたのどごしを実現しました!」
ふぅ……とマリィが悩ましげに息をつく。
カイトは次から次へと、美味しいものをつくる……。
やはりこの獣人を手元に置いて正解だった……。
『おいおいおいおい魔女さんよぉ』
同じく水着姿のリアラ皇女が、黒猫のオセを抱きかかえて、マリィのもとへやってきていた。
オセはあきれ、そしてリアラは困惑していた。
『なにのんきに湖水浴なんてしてるんだよ? 嫉妬の魔女マーサを倒しにいくんじゃあなかったのか?』
現在、この蓬莱山を支配しているのは、マリィと同じく魔女のひとり、嫉妬の魔女マーサ。
どうやら嫉妬の魔女の作ったモンスターが、蓬莱山を出て、それが帝国や周辺国家に迷惑をかけてるそうだ。
「捕らわれてる帝国兵の安否も気になるぞ……。魔女殿」
リアラ皇女はそもそも、この蓬莱山にいって、帰ってこない部下たちの身を案じて、こうしてここへはせ参じたのだ。
のんきに遊んでいる暇などない……。
「馬鹿ね、あなたたち」
マリィはジュースを片手につぶやく。
「急いだって意味ないでしょ」
「っ!」
リアラは、ハッとさせられる。
「……そう、だな」
リアラは魔女の言葉を、こう考えた。
先ほど恐ろしい化け物(※ロウリィ)と戦い力を消耗している。
こんな状態で急いで戦いに赴いても負けるだけだ。
ならば今はきちんと休息を取り、準備をしてから、向かうべきだと。
「ワタシが間違っていた。すまない、魔女殿」
「? そう」
マリィは興味なさそうにズゴゴゴ……とトロピカルドリンクをすする。
「ワタシも少し、泳いで頭を冷やしてくる。ありがとう、魔女殿。おかげで冷静になれた」
「? ……そう」
オセをカイトの頭の上にのっけて、リアラは泳ぐ。
マリィはふう……とため息をつきながらドリンクをすする。
「さすがですね、魔女さま!」
「? なに藪から棒に……?」
「急いては事をし損じる……そういうことですね!?」
「? ? ??? まあそうね」
「やはり! 魔女さまは、すごーい!」
カイトはオセをマリィの浮き輪の上にのっける。
「ぼく、美味しいご飯を作ってきますね!」
「! おねがい!」
ばしゃばしゃとカイトが泳いで陸地へ向かう。
マリィは上機嫌にドリンクを飲む。
……さて、そんな姿を見ていたオセが、マリィに尋ねる。
『魔女さまよ、信者ふたりがだいぶ勘違いしてるようだぜ』
「信者? 勘違い? なんのこと」
『いやほら、あんたが急いでも仕方ないって言ったろ? それをなんかアクロバティックに解釈してる気がしてならねえんだ』
マリィはため息交じりに言う。
「ちょっと疲れたし、ちょっと休憩したい。ただそれだけの発言よ」
『だろうな……』
マリィの発言に高尚さなんてまるでなかった。
単に疲れたから、休む。それだけ。
だがカイトたちからすれば、深い言葉に聞こえたのだろう。
『あんた、帝国の民が捕まってるし、外ではここを出て行ったモンスターたちが被害を出してるんだが?』
「? だからなに、私に何か関係がおありで?」
『いいや……まったく……』
「でしょう?」
マリィはあくまでエゴイスト。
周りのことなんてどうでもいいのだ。
でもその周りは、マリィが人のことを思って行動する、聖人君子だと思ってしまっている。
悲劇、いや、喜劇だ。
「ちょっと休んだら出発するわよ。マーサが絡んでるからね」
『あんたとマーサって、どんな関係なんだよ』
「単なる同門よ」
『単なる、同門ねえ……』
どうにも魔女の発言は信用できない、オセだった。




