106.
マリィの妹グリージョは、王子ルグニスが呼んだ呪術師による診察を受けた。
現在グリージョの法術使いとしてのレベルがかなり低下してる。
マリィが弱体化の呪いをかけたにちがいない、そう思ったのだが……。
「呪いがかかってないだと? どういうことだ!」
来賓室にて、ソファに座るルグニスが、正面の呪術師に尋ねる。
呪術師ケイオス。
彼女はこの魔法の衰退した世界において、【呪術】という独自の法術を使う。(厳密には法術ではないが、神の奇跡はひとまとめになっている)
浅黒い肌に、仮面、そして体の周りには呪術に使う道具(呪具)がたくさんつけられている。
ケイオスはため息交じりに言う。
「あんたのフィアンセを調べさせてもらったが、どっこも異常が見当たらないね。呪いの類いは受けていないよ。これはおいらが保証する」
「あ、あり得ないわ……! じゃあ……なんであたしはこんな、不調を抱えてるのよ……!」
姉の呪いによって弱体化した、そう考えるのが一番合理的だ。
合理的というか、グリージョにとって都合が良いというか。
ケイオスは肩をすくめて言う。
「そりゃ単純にあんたの実力不足だろ」
「な、な、なぁ……!? 実力不足ぅ!」
「だろうよ、あんたの体の中にある、呪力……ああ、法力っていうんだけっか、それがあんまりにも少ない」
法術を使う力、法力。
体内に保有されてるそれが少ないという。
そんな、あり得ないことだ。
「あたしはすごいの!」
「いーや、すごくない。すごかったのは、あんたの姉さんだね」
「あね……? あの出来損ないが、どうすごいっていうのよ!」
グリージョもルグニスも、完全にマリィを見下していた。
だから彼女が凄いなんてことは、あり得ないと思ってる。
「あんたを強化してくれてたんだよ」
「強化だって……?」
「ああ。おいらは特別な目をもっててね、呪いの痕跡を見ることができるんだよ」
じっ、とケイオスはグリージョの体を見やる。
「あんたの体には、能力を強化する呪いの痕跡が残っている。この思念の強さから、たぶん一番身近なやつの呪いだろう。ゆえに、あんたの姉が強化してたってわかったってわけ」
「…………」
今こいつは、なんといった?
姉が自分を強化していた?
ばかな。
あり得ない。
だって姉は出来損ないなのだ……。
「いやそれにしても強力なまじないだ。人間離れしてるよ。今でこそ呪いが薄れてるけど、彼女がそばにいたころは、それはもうとんでもない力を発揮してたろうね」
ケイオスが大絶賛していた。
魔法の衰退した世界における、呪術師の地位は高い。
神の奇跡にならび、呪いもまた常人ではかけられないものだ。
呪いを解除する呪術師は、聖女についで重宝されている。
そんな呪術師の中でも、特に力のあるケイオスが推してるのだ。
姉の才能を。
「そんな……マリィが……」
ルグニスが、ケイオスの言葉を信じかけていた。
すなわち、姉が凄くて、妹が凄くないと……。
……それは、まずい!
グリージョは我に返って声を張り上げる。
「嘘です殿下! こいつは嘘を言ってるのです!」
ずびしっ、とグリージョはケイオスを指さす。
彼女はあきれたようにため息をつく。
「いや、嘘じゃあないんだが……」
「嘘よ! だってあんな能なしのクズを絶賛するなんて……さてはあんた、マリィとグルなのね!」
「はぁ~? ぐるだぁ? 何馬鹿なこと言ってんだあんた」
ケイオスがマリィと繋がっていないと、ここまで絶賛する意味がわからない。
きっとそうだ、姉の仕込みに違いない……!
グリージョはどこまでも、姉の実力を信じないようだ。
それはそうだ、実際にマリィの凄いところを、グリージョが目撃したわけではないのだから。
「ルグニス様! こんなやつの言葉に惑わされてはいけません! ただちにこいつも追い出すべきです!」
グリージョに詰め寄られて、ルグニスは一瞬、戸惑う。
ケイオスの言葉を信じかけていた彼は……。
「ルグニス様! マリィとあたし、どっちを愛してるのですか!?」
グリージョが涙ながらに訴えることで、ルグニスは決める。
「そうだな……愛してるのは君だ、グリージョ。おい衛兵! その呪術師を追い出せ!」
衛兵たちがうなずく。
ケイオスはあきれたようにため息をつくと、自ら立ち上がって言う。
「忠告しておくよ。まもなくこの国に大いなる災いが訪れる。それを祓うためには、あんたの姉が必要となる」
「はんっ! この期に及んで世迷い言を!」
ケイオスは、あきれたような顔で言う。
「じゃあな、愚かなる王子と、愚劣な聖女」
そういって出て行くのだった。




