105.一方その頃、追放者たちは
さて、マリィが蓬莱山で次の目標を見つけた、一方その頃……。
マリィを婚約破棄し、追放処分まで下したものたちはどうなってるのか……。
まず、マリィの婚約者ルグニス。彼はこのゲータ・ニィガ王国の王太子であり、元マリィの婚約者だ。
彼はマリィではなく、彼女の妹グリージョを新しい婚約者にしたのだった。
さて、グリージョは姉を追放したあと、高笑いしていた。
彼女は姉のことが嫌いだった。
なぜなら彼女は落ちこぼれだったからである。
この魔法の衰退した世界において、唯一の神の奇跡、それが【法術】。
法術とは聖なる力のことであり、これを使って結界を構築することができる。
魔法がない以上、街を守るためには、この法術による結界が唯一の防衛手段なのだ。
それゆえ法術を高いレベルでつかえるものは重宝される。
マリィの妹グリージョは、同年代の女の子たちよりも遥かに、法術の才能があった。
それゆえに、増長した。
だからこそ、姉が疎ましかった。
自分のほうが法術使いとして上なのに、姉というだけで、王太子の婚約者に選ばれたことが、むかついた。
はっきりとした実力差があるというのに、歳だけで、姉より評価がしたと思われるのが。
……だから、ルグニスに嘘を吹き込んだのである。
結果姉はいなくなり、万々歳。
これからきっと、素晴らしい人生が待っている……。
と、心の底から思い込んでグリージョは、本当に愚か者だった……。
☆
「ぜえ……はあ……ね、眠い……死にそう……」
グリージョがいるのは、王都にある大聖堂。
そこで彼女は必死になって、法術を使って結界を維持していた。
「もう……三日も寝てない……つらい……死にたい……なんなのぉ……」
目の下に大きなくまができていた。
明らかに寝不足だった。
寝ずに力を行使し続けているのには、理由があった。
最近魔物の活動が、活発化してきているからである。
なぜか知らないが、人里に魔物がたくさんあらわれるようになったのだ。
しかしそれ自体は昔からよくあったことだ。
……問題は、結界の持続に、力が必要になってきたことである。
「おかしい……あたしは天才なのに。結界なんて寝ててもかるーく維持できてたのに……マリィがいなくなってから、それができなくなった……すごい……ぜえぜえ……力入れないと……直ぐに消えちゃう……」
グリージョは気づいていない。
彼女の力は、マリィによって底上げされていたということを。
マリィは無意識に強化・付与魔法を使っていたのだ。
というか、自らに使っていた魔法の余剰分が、グリージョを強化させていたのである。
つまり、マリィのおかげで結界を楽々維持できていたのだ。
姉を追放したら、強化の魔法がきれ、結果弱体化を招いたという次第である。
「これは……絶対、そうね。あの馬鹿姉が、あたしに呪いをかけたに違いないわ!」
ということで、グリージョは先日、ルグニスにおねだりして呪術師を呼んできてもらったのだ。
弱体化は、きっと姉が魔道具などで呪いをかけた影響であると、信じて疑わなかったのである。
徹夜明けで、辛いなか、グリージョはルグニスに謁見する。
「だ、大丈夫か……グリージョ」
「え、ええ……問題ありませんわ王太子殿下。それより……呪術師は……?」
「ああ、もう来賓室に呼んである。行こうか」
「はいっ」
グリージョは笑っていた。
それは作り笑いでは決してない。
グリージョはルグニス王太子のことが好きだったのだ。
姉を追い出したのだって、ルグニスが欲しかったからという理由が割と大きい。
あんな出来損ないの姉には、もったいない人材だ。
「最近疲れているようだが、大丈夫か、グリージョ?」
ルグニスは気遣うように言う。
優しくて素敵なカレシができた。
姉になんて渡す物か……。
「ええ、問題ございませんわ」
「だが、部下によると寝てないと」
「それは……姉のせいですわ!」
弱体化の原因を、すべて、姉に押しつけることにした。
自分の技量が下がって、寝ていたら結界を維持できない……なんて死んでも言えなかった。
「まったく、あの女め、僕の大事な人に呪いをかけるなど! 捕まえて死刑にしなければな!」
「ああん……♡ 殿下ぁ……♡」
……とグリージョが有頂天でいられたのは、このときまでだった。
ルグニスが呼んだ呪術師が、グリージョの体を調べて一言。
「呪いなんて、どこにもかかっちゃいませんよ」
「「は……?」」
「弱体化したのは、単なる実力不足じゃあないですかね」
「「はぁ……!?」」
「強化の術のあとがみられます。おそらくはそのお姉さんが、あんたを強化してくれてんたんじゃあないかと」
「「はぁあああああああああああああ!?」」




