20.3 主家からの召集
帰省初日はパーティーだった。二日目は双子の妹たちと野山を駆け回って遊んだ。三日目はのんびりとして英気を養った。そして帰省から一週間経った日に、フルール伯爵家の馬車が、ランドール家の屋敷にやって来た。
馬車からグラノーラが降りてきて、俺の両親に笑顔で挨拶する。
「すみません、ランドール男爵、息子さんをお借りします」
「ええ、自由に連れていってください。アステル、お嬢様をお守りするのだぞ」
いつものことなので、父も慣れたものだ。
「どうした、お嬢。何かあったのか?」
遊びに来たというわけではなさそうだ。いちおう伯爵家の使いという体を取っている。
「魔獣退治よ」
「領内で出たのか?」
「山狩りをするから、アステルとマル先生にも来てもらった方がいいと思ったの」
「魔獣ならそうだな。魔法が使える人間が一人でも多い方が安全だしな」
俺はいったん屋敷に戻る。そして、防具を身に着けて、剣や弓矢といった武器を装備する。
山狩りに行くなら、山に入るための道具もきちんと用意した方がよい。食料や縄、雨よけのカッパなどを背嚢に詰め込んでから家を出た。
グラノーラの待つ馬車に乗った俺は尋ねる。
「場所は近いのか?」
「ここから馬車で一時間か二時間ぐらいの山よ」
さらに詳しい場所を聞く。
「こちらの領内に被害が出る可能性もあるな」
「早く倒してしまいましょう!」
グラノーラはやる気に満ちあふれている。俺は真面目な顔でうなずいた。
「それで、どんなやつなんだ?」
魔獣といっても、いろんなやつがいる。
「カラスの魔獣よ。山の近くの村で、害獣としてカラスを毎年大量に殺していたそうなの。そうしたら、やたらと強い個体が現れて、村人を殺し始めたの」
「これまで死んだカラスの霊魂が集まって精霊になり、その個体と繋がったのかもしれないな。それで、そのカラスの魔獣は、どんな攻撃をしてくるんだ?」
「その魔獣が近づくと、見えない巨大な爪でつかんで刺されるんだって」
「見えない巨大な爪か。恐ろしいな」
「とりあえず、その個体を倒せば一時的に収まるとは思うんだけど。そこにカラスの精霊が残れば、次のカラスがまた結びつく可能性が残るのよね」
俺とグラノーラは、魔法について基礎からきちんと学んでいる。魔獣の発生についても、その裏で何が起きているのかを把握している。
「なあ、マル。何かいい方法はないか?」
俺はマルを呼んだ。
馬車の席にマルが現れ、俺の横に座った。
「精霊瓶の逆パターンだな」
「というと?」
「夏休み前に説明したな。環境を丸ごと切り取れば精霊を持ち歩くことができると。カラスの件は逆だ。切り取れない複雑な環境がその場にあるから、精霊を取り除くことができないわけだ」
「環境を壊せば?」
「カラスがいる山の木を全部焼いたら取り除ける。ただ、近くの住民が困るだろう」
「まあ、そうだな。それじゃあ、カラスを一匹残らず殺せば、いいんじゃないのか?」
「おそらくそこは、カラスにとって住みやすい場所なんだろう。他の場所から別のカラスが来るだけだ」
どうしても自然発生してしまう場所というわけか。
「そういえば、以前殺したクマの魔獣は、似たようなことにならないのか?」
「おまえが魔力を思いっきり吸ったから、霊魂はかなり弱体化した。数年は復活しないだろう。
カラスも魔力を思いっきり吸っておけば、数年持つだろう。まあ、そのうち次の魔獣が誕生するのは避けられないがな」
「豚の霊魂のように、魔力湧出口にはできないか?」
「巨大で濃厚な霊魂を圧縮するのは、かなりの技量が要求される。大きすぎるから、複数に分割しながら圧縮しないといけないのだが、そんな複雑な操作を、今のおまえにできるか?」
「難しいな。マルがしてくれれば……」
「私はやらんぞ。魔法の学習は手伝うが、便利屋ではないからな」
仕方がない。マルの言うことも、もっともだ。
「そうかあ。魔力を吸って、次の誕生を遅らせるぐらいしかできないのか。今の時点では、魔獣にはその都度対処するしかないか」
「そういうものだ。自然環境を大きく変えない限りは、魔獣は自然発生するものだと思っておけ」
うまいことやるのは難しいんだなと俺は思った。




