20.2 故郷への帰還
――七月上旬。
俺はグラノーラとともに、フルール伯爵家の馬車に乗り、王都を離れた。
昨年の八月にたどった道を逆にたどり、故郷へと引き返していく。
「いろいろあったわね~」
グラノーラがのんきな声で言う。
ああ、いろいろとあった。そして、魔法の授業で優を取った。
故郷を出たときに最大の懸念だった、魔法学校の卒業については何とかなりそうだ。そして、今は別の問題が立ちはだかっている。
魔法を学んできたからこそ見過ごせないことだ。途絶えた魔法の知識を使って王都で暗躍する犯罪者がいる。単眼鬼がやっていることは看過できない。
「アステル、エリーとマリーのお土産、何を買ったの?」
グラノーラが声をかけてきた。
「ニーナに教えてもらった露店で、若手職人のアクセサリーを買った。俺の懐でも何とか買える値段だったしな」
「きっと喜ぶよ!」
グラノーラは明るく笑みを見せる。
「アステル、死なずに卒業して家族を安心させるのよ。いい、これは命令よ」
急に真面目な声になってグラノーラは言った。
「死なねえよ。それに卒業するさ。どうしたんだ急に?」
「アステルは、自分では賢いと思っているけど、本当は馬鹿だから心配なのよ」
「何だよ、それは」
俺は頭をかいて窓の外を見た。まあ、心配してくれているということで素直に感謝しておこう。
「それで、グラノーラは弟たちに何を買ったんだ?」
「フィーさんが発光棒というのを持っていたでしょう。それを聞いて、これだと思ったのよ。塗料を入手して職人に作ってもらったの。光る剣を!」
「ああ、それは子供が喜びそうだな」
「でしょう。絶対大ウケするから」
たぶん金額を聞くと、目の玉が飛び出ると思うから聞かないでおく。
俺は窓の外の景色を見ながら考える。
世界には、まだ俺が知らない生物や土地がたくさんある。いつか旅して、それらを見てみたいと思った。
◆◆◆
馬車がフルール伯爵家の屋敷に着いた。
俺とグラノーラはともに降りる。俺はフルール伯爵に挨拶をして、馬車に同乗させてもらったお礼を言った。
「それで、アステル。グラノーラは大丈夫だったかね?」
フルール伯爵は、こっそりと俺に尋ねてきた。
「えー」
おそらく別経路で報告が入っているはずなので、包み隠さず話すことにする。俺は、グラノーラがダンロス公爵家の娘に喧嘩を売ったことを話した。
また、期末試験をよい成績で終えたこと、友人も何人かできたことも伝えた。
「まあ、誰かを殴り殺したとかでなければ、上出来だろう」
親馬鹿なのか想定がひどすぎるのか分からない。フルール伯爵は、メザリアとの衝突を気にしていない様子だった。
伯爵家の屋敷を離れた俺は、乗合馬車でフルール領の端まで行く。
フルール領は非常に整備されていて、定期的に馬車が走っている。もともと領内に素早く兵士を送り届けるために作った道が、住民の利便のために転用されている形だ。
馬車を降りた俺は、徒歩でランドール領に入る。ランドール領はフルール領ほどは整備されていない。道はきちんとあるが、走っているのは農家が荷を運ぶ馬車ぐらいだ。
俺は実家を目指して歩き続ける。
懐かしい屋敷が見えてきた。屋敷といっても、少し広くて二階建てであることを除けば、そこらの民家と作りは一緒だ。
近づいていくと、表で洗濯物を取り込んでいた召使いが俺の姿に気づいた。彼女は慌てて、屋敷内に駆け込んだ。
入れ替わるように屋敷内から、七歳になった双子の妹たち、エリーとマリーが駆け出してきた。
「お兄様!」
俺のもとまで来た二人は、俺にじゃれつき、よじ登ってくる。
「お兄様! お兄様! お兄様!」
「おいおい、二人がかりなんて卑怯だぞ」
右手と左手で、二人を抱え上げる。
「お兄様、ずっと留守にしていて、王都なんかに行ってずるい!」
二人は俺が、王都に遊びに行ったと思っているようだ。
「あはは。おっ、そうだ。お土産を買ってきたぞ」
「お土産!」
「おそろいの髪飾りだ。屋敷に着いたらあげよう」
「やった!」
二人は俺の腕から飛び降り、俺の周りをぐるぐると駆け回る。実家に帰ってきたなあという気持ちになる。
「そうだ。二人に面白いものを見せてあげよう。『そよ風』の魔法だ」
俺はエリーとマリーに向けてシフを放つ。二人の髪の毛が交互に、ふわりふわりと舞い上がる。
「すごい! すごい!」
二人は喜び駆け回る。俺はエリーとマリーを楽しませながら屋敷へと歩いていく。
屋敷が近づいてきた。両親が扉から出てきて、俺を出迎えてくれた。
「アステル、お帰り」
「ただいま戻りました。お父様、お母様」
「見違えるほどたくましくなったわね」
母が俺に言った。
「自信に満ちあふれているな。何かをつかんだのか?」
父が尋ねてきた。
「第一学年の学年末試験ですが、魔法の試験で優を取りました」
両親が口を大きく開けて喜んだ。
「それは、お祝いをしないといけないな。アステルの帰省に合わせて、いろいろと料理を用意していたんだが、さらに何か追加しよう」
俺は成績表を父に渡した。父はじっと見つめたあと、額縁を用意して飾るように召使いに指示を出した。




