20.1 夏休みの計画
――六月下旬。
期末試験が終わり、夏休みを待つだけになった。
土曜日の午前中、俺たちはガゼー地区の貧民街の事務所に集まって、休み中どうするかについて打ち合わせをすることにした。
全員が机を囲んだところでマルが姿を現して話し始めた。
「夏休みというやつを私は知っている。七月と八月の二ヶ月間の休暇だ。この夏休みには、うら若き学生たちが、羽目を外したり、青春をしたり、恋に落ちたりする」
「そういうやつは、ごくごく一部だぞ。ふつうは実家に帰省して親の監督下に置かれる」
いちおう突っ込んでおく。
「まあ冗談として、この時期、地方の領地では、作物の収穫などで忙しくなるからな。そうした時期に故郷に帰るのが主な目的だろう」
実際、田舎ではその時期は忙しい。うちも貴族とはいえ、農民とそれほど代わらない暮らしをしている。だから、そこそこ忙しくなる。
「世の中は休みになる。しかし、魔法の修行は続くぞ。おまえたちと衝突している単眼鬼も、魔法についての暗躍を続けるだろう」
俺たちは表情を引き締める。当然、夏休みを漫然と過ごすつもりはない。帰省など必要なことはおこないながら、さらなる研鑽を積むつもりだ。
「何か案があるのかマル?」
マルはにやりとする。
「ある。ただ、若者たちに必要なことも心得ている。最初の一ヶ月間は、帰省して家族に尽くせ。そのあと、次の段階に進む。全員で、簡単な魔法再現器を作成する」
いよいよ全自動魔法の全ての技術を習得するわけだ。
「ちょっと待てマル。人工精霊を作る段階まで進んでいるのは俺だけだぞ。その俺も、複雑な部品の人工精霊はまだ作れない。いったいどうするつもりだ?」
他の面々もうなずく。新しいことを教えてもらえるのは嬉しいが、さすがに一気に進みすぎだろうと思った。
「そこはきちんと考えている。地下洞窟を踏破して、精霊瓶を作る」
新しい言葉が出てきた。
「精霊瓶って何だ?」
よい質問だとマルは言う。
「地下洞窟の奥のような閉鎖空間には、少ない要素の環境で成立している精霊が生息している。その精霊の環境を丸ごとガラス瓶などに入れて持ち帰ると、自由に持ち運べる精霊となる。それを俗に精霊瓶と呼ぶ。
おまえたちにはまず、ちょうどよさそうな地下洞窟に行って精霊瓶を作ってもらう。そして、簡単な魔法再現器を作成して全自動魔法を開発してもらう。
本来の全自動魔法は、人工精霊を使うものだが、今回は閉鎖空間の天然精霊を使うわけだ」
なるほど。持ち歩ける精霊がいるならば、魔法再現器と組み合わせれば簡易全自動魔法になるということか。
「それは分かったが、いきなり学ぶことが飛ぶのには違いない。俺はいいが、他はちょっと急ぎすぎだろう。どういった意図があるんだ?」
「戦力増強だ。このペースで学習を進めれば、単眼鬼の成長速度に、おまえたちは圧倒的に負けて殺されかねない。夏休みのあいだに、一気に時間を短縮するんだ」
「そうだな。確かに俺たちは敵に後れを取っている。ここでショートカットして追いつこう」
「まあ、まずは一ヶ月、ゆっくりと休暇を取れ。そのあいだニーナは、よさそうな洞窟を探しておいてくれ」
「はい、分かりました。マル先生」
「ウルミは、少しでも追い付くように修行を進めておけ」
「はい~、分かりました!」
「ココルは、帰省はないな?」
「はい。もともと家はありませんし、両親もいません」
「それなら、稽古をつけてもらいに行け」
「どこにですか?」
「暗殺組織ジンにだ。フィーとは兄弟弟子だろう。協力させるところからが修行だ」
「分かりました」
俺たちは、一ヶ月間の予定を立て、その日は雑談しながら過ごした。




