19.7 挿話:ニーナ・シャントン その2
学年末の試験に備えるために、仲良し同盟で勉強会を開くことになった。
ニーナは勉強には自信があったが、唯一の気がかりは体術だった。
体術のテストは、十分間のランニング、格闘術の教師を相手にした徒手格闘、剣術の教師を相手にした木剣での模擬戦闘だとアステルさんが教えてくれた。
その時点でめまいがした。
別に体力がない方ではないと思う。王都で生まれて、王都で育ったとはいえ、シャントン家の方針で旅に出たりもする。野外での寝泊まりもするし、必要に応じて荷運びの手伝いをしたりもする。
しかし、走るという行為をすることは、ほとんどない。街中で走ることはない。そして移動は馬車を使うことが多い。走って移動しないといけない事態は、人生で数えるほどしか発生していない。
聞くと、アステルさんとグラノーラさんは、故郷では明け方から夕方まで野山を駆け回っていたという。にわかには信じがたかった。
アステルさんは、図書館でずっと本を読んでいそうな顔付きをしている。グラノーラさんにいたっては、まるでお人形さんのような美しい容姿をしている。
アステルさんは、グラノーラさんのことを、よく山猿呼ばわりする。グラノーラさんは、アステルさんのことを同じようにあつかう。
この二人が、まるで動物のように野山を駆け回っている様子は、ちょっと想像がつかなかった。
ランニングよりも困ったのは、格闘術と剣術だ。
そもそも魔法学校は貴族向けの学校だ。魔法を持っている全ての人間に門戸は開かれているが、それは貴族しか魔法を持っていなかった頃の名残だ。昔は魔法を持っているということと、貴族であることは不可分だった。
アステルさんが剣の達人なのは知っていたが、グラノーラさんも剣が玄人で、格闘術にいたってはアステルさんよりも強いと知って驚いた。
グラノーラさんの腕や脚の筋肉を触らせてもらったが、がっちりと太い。それにバランス感覚も優れていて、まるでサーカスのように、椅子を逆さにして脚の上に立ったりすることができる。
二人は故郷で同年代の遊び相手が少なく、毎日のように遊んでいたという。野山を走り回る以外には、木剣で殴り合ったり、取っ組み合いの喧嘩をしたりしていたそうだ。
都会出身の子と、田舎出身の子は、こんなにも違うのかと驚いた。
魔法学校の生徒のほとんどは、さまざまな派閥に属して、自分がその中の一員であることに安心しようとする。アステルさんとグラノーラさんに、まったくそういう欲望がないのは、育ちと関係しているのだろう。
人間ではなく、自然が遊び相手だった時間が長く、人に囲まれていなくても不安ではないのだと思う。
それにしても、アステルさんとグラノーラさんは仲がよい。いつも一緒にいて、友達のように話し続ける。アステルさんは、グラノーラさんの部屋に入り浸って世間話をしている。
尊い。
二人を見ていると、そうした気持ちになる。
私は時折、二人の会話の内容をこっそりとメモしている。そして秘密の日記に内容を書き写している。たまに見返しては心をときめかせている。
この二人を間近で見られる私は、とても幸せな立場だと思う。




