19.5 試験本番
――六月上旬。
いよいよ学年末試験が始まった。ここからは、それぞれの実力で試験に挑んでいくしかない。放課後の勉強会を続けながら三日間におよぶ試験をこなしていく。
初日は言論に関わる三科のうち、文法と文書だ。俺はそつなくこなして初日を終了。仲間のうちウルミだけが、文書の成績が怖いと言って、ガタガタと震えていた。
二日目は、言論三科の残りの対話と、事物四科の算術と地理だ。俺は特に問題なし。地理はニーナのおかげでかなり底上げされた。仲間のうちウルミだけが、対話がイミフだと言って、ガタガタと震えていた。
三日目は、俺にとっては本番だ。事物四科の残りの体術と魔法だ。体術の試験では、グラノーラが格闘術で先生を破り、俺は剣術で先生を破った。ニーナとウルミは、ランニングを完走した。格闘術と剣術は、何とか合格してくれと思った。
そして魔法の試験だ。学年末にあるこの試験を突破するために、俺は無茶なことをした。転生神殿で『転生』の魔法を真似て、転生ガチャをやった。そしてマルを引き当て、魔法の修行をおこなった。
筆記試験はそつなくこなした。そのあと、魔法の試験のために運動場に行った。それぞれの生徒に違う先生がつき、試験をおこなう。
「きみの魔法の試験は、私がおこなうことになった」
俺の担当になったのは、学年主任のパロスだった。
「パロス先生。学年主任も、試験官をおこなうんですか?」
「ああ、私も一年生担当だからな」
第一学年の学年末試験は、魔力量の確認と、魔法の発動。魔力量は試験官が道具で確認し、魔法の発動は三回おこない一度でも成功すればクリアだ。
パロスは、カード大の一枚の板を俺に渡す。注ぎ込んだ魔力の量によって色が変わるらしい。
フィーが持っていた発光棒や、図書館の地下に行くときに渡されたランタンのようなものだろう。魔力に反応する生物素材を塗っているのだろうと想像がついた。
俺は魔力を注ぎ込む。板が青色から紫色に変わり、最終的に赤色になった。
「合格だ。これだけ魔力を注ぎ込めれば、魔力量があると見なされる」
とりあえず一つ目をクリアした。入学当初の俺だったらと思うと冷や汗が出る。
おそらく紫色のときに魔力を使い切っていた。何とか合格になっても、その後に魔法を使えるだけの魔力は残っていなかった。
「次は魔法の発動だ。おまえの魔法は『張りぼての物真似』と登録されているな。内容は、他人の魔法を真似る。誰かの魔法を真似なければならない。この場合は、私の魔法を真似ることになる」
「えっ?」
俺は考える。俺が魔法を真似るには、相手の魔法を見なければならない。見たこともない魔法は真似られない。物真似なのだから当然だ。
「あの、パロス先生が所有している魔法がどのようなものか、見せていただけますか?」
「きみは戦場で、敵の魔法使いに相対したときに、相手がどのような魔法を持っているのか見せてもらうのかね?」
「ぐっ」
言葉に詰まる。正論だ。この国の貴族である魔法使いは、国家に貢献することを求められている。それは戦場に出ることも含まれる。
まさか、こんなことになるとは思っていなかった。俺の魔法と、この試験の相性は最悪だ。何とかしなければならない。
「他の人の魔法を真似るのでは駄目ですか?」
「私の魔法でおこないなさい」
「見たことのない魔法は真似られないんです」
「私はもう魔法を発動している」
「えっ?」
試験はもう始まっている。俺の魔法の特徴を知っているパロスは、俺が真似られるように魔法を発動しているという。
どんな魔法が発動しているんだ? 俺だけ試験の難易度が高すぎないか?
見抜け。パロスが使っている魔法が、どのようなものなのかを。そうしなければ、この試験を突破することはできない。
霊体の糸を周囲に放ち精霊探知をおこなう。人工精霊の存在を感知しようとするが、俺とパロスの周りに魔法はない。地面の下に潜っていたりすることも疑ったが、それもなかった。
おそらくパロスの魔法は、パロスの霊魂に重なっている。外部ではなく自身の霊魂に作用する魔法。霊魂の内部に、人工精霊をどのように隠すことができるか考える。
魔力の流れを感じろ。パロスの霊魂と、魔法の霊体がまったく同じ形でない限り、放出される魔力に濃淡があるはずだ。
俺は微量な魔力量の違いを感じようとする。これまで特に練習していないことだが、自分ならできると信じて実行する。
わずかに頭部の魔力量が多い。
魔法は頭部にある。ということは、思考系や感知系の魔法だろう。
俺はパロスの頭部に向けて、ありったけの霊体の糸を放出する。ごくごく細い架け橋を見つける。俺とのあいだに、霊体の糸のようなものが張っている。まるで糸電話のように。
いや、この架け橋自体がパロスの魔法の一部だ。俺はパロスの魔法の全体像を描き出す。
――『張りぼての物真似』
パロスの魔法とそっくりの魔法が一時的に生み出される。俺は細い触手をパロスの霊魂に伸ばして接続する。微かに声が聞こえてきた。
――魔法とは何だと思う?
問いかけだ。俺に心を読まれることを前提に、質問を考えていたのか。
「魔法とは、操作を全自動化した人工精霊」
俺は答えたあと、驚いて自分の口を手で塞いだ。
試練を突破したことに興奮してつぶやいたのか。あるいは答えようとした瞬間に、俺が言うべき答えを聞かされたのか。向こうも心を読んでいるのだから、それも可能だ。
「合格」
パロスは手元の書類に印をつける。
「教室に戻ってよい」
パロスはそっけなく言った。
「ありがとうございます」
俺は礼を言い、次の生徒と交代する。少し歩いたあと振り返った。パロスは、あの魔法を俺に対して過去に使ったことはあるのだろうか。
『心を読む』の魔法。
少なくともこれからは、パロスと会うときは心を閉ざす必要があると思った。




