19.2 過去問
三日後、俺は現在のやり方を諦めた。
グラノーラに、今日は遅れていくから先に進めておいてくれと頼んで校舎を出た。
校内を歩いて記念館に行く。石造りの建物内に入り、ダンロス家の部屋の扉をノックした。
扉を開けてくれた生徒が怪訝な顔をする。メザリアの派閥ではない俺がやって来たからだ。
広い部屋の奥の執務机にはメザリアがいる。彼女は顔を上げて不審そうな目で俺を見てきた。
「少し伺いたいことがあって来ました」
「何?」
「学年末試験の過去問はありますか?」
メザリアは目を細める。
「私の派閥に入る気になったの?」
「そうではないのですが、貸していただければと思いましたので」
「学年末試験の過去問があったとして、どうして私があなたにそれを貸さないといけないの?」
「心が広いし、先を見据えた一手を打てる方だからです。私の理解は間違っていますか?」
俺は慇懃な態度を取って反応を待った。
「派閥外の人間に施しを与えるような心の広さは持っていないわ。それに、果実はいずれ熟して落ちるものよ。青いまま慌てて収穫しようとはしないわ」
メザリアは呆れた様子で、机の上の書類に目を戻す。
俺は見逃さなかった。最初に過去問の話をしたときに、一瞬だけ視線が動いた。部屋の右にある執務机の一つをメザリアは見た。
俺は無言でその机に近づいていく。微細な霊体を放ち、机の中を透過して確認する。机の引き出しの一つに、分厚い紙の束があった。
何枚かずつ紐で綴じてまとめてある。配下の生徒たちに配る予定のものだろう。
執務机には一年生の女生徒がいた。俺は笑みを向けたあと、引き出しを開けて、綴じた紙の束を一つ引き抜き、パラパラと確認した。
「過去五年分の試験問題ですね」
「勝手に、取らないでください!」
女生徒が苦情を言う。
「一部いただいて行きます」
「おい、てめえ!」
男子生徒の一人が俺の肩に手をかけてきた。
手首を取り、軽くねじってひざまずかせる。俺も荒っぽくなってきたなと思いつつ、メザリアに一礼する。
「ご厚意、ありがとうございます」
「与えたつもりはないのだがな」
「お邪魔でしょうから失礼します」
何人かの男が遠巻きに俺を囲んでいる。ひざまずいている男の手を離した。男は痛そうに手を押さえている。
この部屋には雑魚しかいない。メザリアが直接攻撃してきたら勝てない可能性があるが、それ以外なら問題ない。
俺は部屋の外に出て、記念館をあとにした。
宿舎に行き、グラノーラの部屋の扉をノックした。
「アステルだ」
「どうぞ」
部屋に入ると、すでに勉強会は始まっていた。
「過去問を入手してきた」
「えっ、どうやって?」
「伝手がある」
本当はない。
「ふーん。アステルも、交友関係をきちんと広げているの?」
「まあ、そういうことだ」
本当は広げていないが。
「さあ、過去問をもとに勉強をしよう。問題の傾向が分かるから対策がしやすい。時間内に必要な学習を終えられるだろう」
俺は紙の束を机に置いて、全員で確認し始めた。




