19.1 言論三科と事物四科
――五月上旬。
王都に来て魔法学校に通い始めて怒濤のように時間が過ぎていった。学校外の活動が多すぎるように感じるが、学校での活動もきちんとやっている。
魔法学校では各学年の最後、夏休みの前の六月に、第一学年の学年末試験がおこなわれる。その日が近づいてきた。
俺たち仲良し同盟は、グラノーラの部屋に集まって学年末試験の勉強をすることにした。
参加するメンバーは、俺、グラノーラ、ニーナ、ウルミの四人だ。それぞれ苦手な科目を、得意な人から習って点数を底上げするのが目的だ。
魔法学校の科目には、言論に関わる三科と、事物に関わる四科がある。
言論に関わる三科は、文法、文書、対話だ。
文法では読み書きを習う。自由文の筆記や解読を中心とした科目だ。領地統治に必要な報告書のあつかい方についても学ぶ。
文書では法令文や契約書の読み方や書き方を学ぶ。
対話では、領地統治のための伝達法、裁判で必要な主張や論の展開について学ぶ。
これら三科は、貴族として領地を統治する上で基礎となる技術だ。
事物に関わる四科には、算術、地理、体術、魔法がある。
算術では、さまざまな計算について学ぶ。財務で必要な計算もあつかう。
地理では、国内各地の特徴や歴史、国外の諸勢力の動向などを学ぶ。
体術では、基礎体力の増進をおこない、格闘術や剣術について学ぶ。
魔法では、この国の魔法の歴史を学び、魔力の増進や、所有している魔法の練度を高めることなどがおこなわれる。
「よし、それぞれ七科目の得意、不得意を、丸、三角、バツで書き出してくれ。それを互いに確認して対策を考えよう」
俺たちはそれぞれ、紙に七科目の表を書いた。
――アステル。
文法○、文書△、対話○、算術△、地理×、体術○、魔法×。
ずっと田舎で暮らしていたので地理は弱い。魔法は今回の試験で挽回予定。
――グラノーラ。
文法△、文書△、対話○、算術△、地理×、体術○、魔法○。
田舎貴族なので地理は弱い。他に苦手はない。
――ニーナ。
文法○、文書○、対話△、算術○、地理○、体術×、魔法△。
文書、算術、地理が強い。体術は苦手。
――ウルミ。
文法△、文書×、対話×、算術○、地理×、体術×、魔法×。
だいたい苦手。
それぞれが書いた紙を集めて確認する。各科目の教師役を誰にすればよいのかが見えてきた。
文法は、俺とニーナが得意なので、グラノーラやウルミに教える。
文書が得意な者はニーナしかいないので、他の全員に教える。
対話は、貴族である俺やグラノーラが慣れているので残りの二人に教える。
算術はニーナやウルミが得意なので、ニーナが教える。ウルミは、教えるのがうまいとは思えないので教師役から除外する。
地理はニーナの独壇場なので、他の者に教える。
体術は田舎組の俺とグラノーラが得意なので、他の二人を指導する。
「魔法についてはどうするか。マルが教えるか?」
「いや魔法学校で求められる資質については疎い。学生同士で解決してくれ」
「じゃあ、お嬢に任せるか」
「任せて!」
グラノーラは拳を握ってポーズを取る。
一科目三十分ずつで、交代で教師役をして勉強を始めた。
休憩を含めて、あっという間に四時間が経った。三十分では短すぎる。勉強できている気がしない。だからといって、一科目につき二、三時間ずつ勉強すると、時間がいくらあっても足りない。
俺たちは、お菓子とお茶を囲んで反省会をする。
「なあ、お嬢。このやり方で、本当にどうにかなるのか?」
「試験まで、あと一ヶ月ぐらいあるから余裕じゃない?」
「あの、自主学習した上での集中講義にしないと無理だと思います」
「勉強きらーい! ううう、死ねる!」
これは本格的にヤバそうだ。得意科目が多い三人はどうにかなるかもしれないが、ウルミは難しそうだった。
「自主学習をするにしても、分からないところが多すぎる場合は、まったく進まないからなあ。その都度質問されると、聞かれた人の勉強が止まるし」
「アステル、ふだんの授業の重要性が分かったわ」
「お嬢、今分かっても遅い」
「人生って、そうよね。必要なときになるまで物事の大切さは分からないのよね」
グラノーラは危機感がなさそうに、お菓子を口に運ぶ。
「とりあえず、夕食後に寝るまでもう一周勉強を回そう。体術と魔法は抜いて五教科で」
可能な限り時間をかけるということで進めてみることにした。




