18.2 図書館の鍵
その日の夕食が終わった頃に、宿舎の俺の部屋にメザリア配下の生徒がやって来た。
小太りで背が高い生徒だ。確か名前はサンチェス・テレスだ。最初に記念館に行ったときに、ムジカ・フロアとともに俺を迎えに来た男だ。
「鍵だ」
「どうも」
「ムジカの件は、悪かったな」
「気にしないさ」
サンチェスは無愛想に去っていった。おそらく二人は友達だったのだろう。その一人が魔法を失った。いろいろと考えることがあるのだろうと思った。
部屋に戻り、扉を閉める。
「マル、図書館で読める本が増えるぞ」
マルは出てきて小躍りして喜ぶ。
「それは嬉しいな」
「表にない本がいろいろとあるんじゃねえのか? パロス先生の部屋にあるような本があると踏んでいる」
「その可能性は高いだろうな。そして個人が持っている本よりも内容が充実している可能性がある」
マルが喜んでいる様子を見て、いい報酬だったなと思った。
翌日の放課後、さっそく図書館に行った。司書に話をして鍵を見せる。奥に通されて自分で鍵を開けた。
中に入っているときは鍵をかけておくようにと厳しく言われた。また、中の本は持ち出し禁止とも説明された。
また司書からは、火を使わずに発光するランタンを渡された。フィーが持っていた発光棒と同じ原理の道具のようだった。
扉を抜けた先は、下に向かう階段になっていた。外部から光は一切入ってこない。扉の鍵をかけたあと、発光ランタンを掲げて階段を下りていく。
俺は階段の先の闇を見ながら口を開く。
「地下に書庫があったとはな」
「何を驚いているんだアステル。本の入れ替えとかもあるだろうし、そりゃあ、あるだろう」
マルは楽しそうな声を返してくる。
「いや、表の書庫のバックヤードは他にある。ここは純粋に表に出さない本を収めた場所だ。まあ、学生には読ませたくない本を集めた場所ということだな」
階段を下りながら、俺はマルと雑談を続けた。
だいぶ下りたところで再び扉が現れた。扉は閉まっていて同じ鍵で開いた。
中は少し埃のにおいがした。俺の背の三倍はありそうな本棚が無数に並んでいる。本棚には、はしごがかけてある。高所の本はこれを使って取り出すのか。扉の近くに本を読むための机がいくつかあった。
さて、どの本から読めばよいものか。俺はマルに意見を求める。
「私が死んで百年ぐらいで起きたことを知りたい。特に正史に書かれていない魔法使いたちのその後が知りたい」
大魔法使いの塔が消滅して、魔法王国ザラエルが勢力を増していった時代の話だ。
塔の中に全ての魔法使いがいたわけではない。生き残った者もかなりの数がいたはずだ。
しかし現在は、自分で魔法を作る魔法使いは表舞台から消えている。いったい何があったのか。マルだけではなく、俺も気になっていた。
俺はランタンを掲げながら本棚のあいだを巡っていく。マルと一緒に、気になる本を取っては閲覧席の机に積み上げていった。
「そろそろ読もうぜ。あまりたくさん選んでも、今日中に読み切ることができないしな」
「そうだな。ページめくりは任せたぞ」
俺はいつものように素早くページをめくる。マルは一瞬見るだけで内容を読み取ってしまう。内容は、あとでマルに要約して教えてもらうことにする。
俺もじっくり読みたいところだったが、これはマルに魔法を教えてもらう報酬だから我慢する。
積み上げた本を読み終えた。内容はあまり楽しいものではなかったのだろう。マルの表情を見れば分かった。
「マル、教えてくれ。何があったんだ?」
「ああ」
マルは口を結ぶ。しばらく、そうし続けたあと、気持ちが整理できたのか話し始めた。
「魔法使いの数は徐々に減っていった。ある者は貴族として取り込まれた。ある者は金と引き換えに魔法を売り、研究をやめた。ある者は失脚して命を奪われた。
まとめて討伐されることはなかったが、ゆっくりと魔法使いは少なくなった。
世代が交代する頃には、古い魔法使いは王国から消えた。魔法関係の書物は集められ、魔法学校の図書館に収められた。名目上は魔法を学ぶ生徒たちのためだった。
貴族の魔法に魔力を供給するために、平民は定住することが求められ、身分は固定化された。平民の生活様式は極端に狭められ、純粋魔法や精霊魔法が継承されなくなっていった。
ザラエル王家は拙速なやり方は取らなかった。二百年、三百年と時間が経つにつれ、魔法とは全自動魔法を指すようになっていった」
説明を終えたマルは寂しそうな顔をする。自分が作った時代は闇へと葬り去られた。大魔法使いの塔が消滅したことを考えると、ザラエル王家を非難することもできなかった。
「単眼鬼は何者なんだろうな?」
歴史を踏まえた上で、なぜあんなイレギュラーが存在しているのか気になった。
「細々と生き残ったか、書物から復活させたか、新たにゼロから積み上げたか、いずれかだろうな」
「やつの目的は何だと思う?」
「何だろうな」
「マルが、単眼鬼の立場だったら何を目指す?」
俺の質問を聞き、マルは考え込む。しばらくそのまま黙り続けたあと答えを返してきた。
「魔法の進化」
「マルなら、そうだろうな」
「いや、単眼鬼は、アステルたちと同じように、魔法の歴史をたどっている」
マルは確信を持った口調で言った。
「どういう理由かは分からないが、新しい魔法の一ページを開こうとしている」
俺はマルの言葉を聞き、単眼鬼は、本当のところは何を目指しているのだろうかと思った。




