16.7 挿話:暗殺組織ジンのゾーイ
そもそもこれはジンの仕事ではない。
フィーが話したアステルへの協力について、古参の暗殺者たちの大半が反対した。
金にならない。本来の依頼主であるフロア子爵の意に沿わない。展開によっては、ジンの構成員に被害がおよぶ。それらが反対の理由だ。
そもそもジンは正義の組織ではない。暴力を利用した営利団体だ。事実関係にこだわらず、淡々と依頼をこなして報酬を得ればよい。それなのに、なぜ真実を追究しようとするのか。
拠点の丸テーブルの周りに、フィーと古参の暗殺者が座った。フィーはふてぶてしい態度で、これは決定事項だと告げた。
ジンの方針の決定権は当主にある。当主を交代させるには、当主よりも若い一族の者が、作法に則って当主と決闘をして倒す必要がある。
フィーは十代前半で前当主の祖父を下して当主に就いた。それ以降、当主一族の中からフィーを倒せる実力者は出ていない。
「襲撃に失敗して敗北したせいですか?」
古参の一人が尋ねた。一族の者との戦いならば、当主が交代してもおかしくなった。そうフィーが考えているのかと詰問する。
「ちげーよ」
フィーはぞんざいに言う。
「未来への投資だ。十年後、二十年後を考えて、恩を売っておいた方が得だというのが理由だ」
古参の暗殺者たちの多くは、理解ができないという顔をする。古参の一人であるゾーイは、どちらが正しいのだろうかと決断を下せずにいた。
「それほどの傑物ですか、アステル・ランドールという少年は?」
ゾーイはフィーに尋ねた。
「傑物ってほどではないな。将来どうかは知らねえが、現時点ではちょっと腕が立つ、ふつうのガキだな」
「それではどうして、肩入れするのですか?」
「じゃあ聞くがゾーイ。フロア子爵をどう思うか?」
「金払いはいいですね」
「十年後、二十年後のフロア子爵はどうだ?」
「相変わらず金払いはいいでしょうね」
「ところで私たちは、どうして魔法を持っている?」
ゾーイは考える。暗殺組織ジンは、初めから魔法を持っていたわけではない。報酬を払えない貴族から、金の代わりに魔法をもらっているうちに増えていった。
貴族が所有している魔法は、少しずつだが減っている。王国は少しずつ破綻している。
「社会は変わると?」
「ああ。だから、新しい潮流には関わりを持つ。生き残るためには、両方選択できる位置にいる。おまえらはいいよ。あとは死ぬだけだからな」
フィーに雑にあつかわれて、古参たちは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そういうことでしたら、私は積極的に関わりましょう」
ゾーイは手を挙げて協力を約束した。
「おう。必要なら呼ぶからな」
フィーは笑顔で応じる。
この堅牢な王国が傾くことなどあるのだろうか。もし自分が生きているあいだに、そうしたことが起きるのならば、暗殺組織ジンにとっては、大きな飛躍のチャンスだとゾーイは思った。




