16.5 図面と連番
精密なスケッチが見つかった。生物と機械が融合したような異様な姿をしている。それらをばらばらの部品にした絵もある。ウルミが描くスケッチによく似ていた。
俺が広げている紙をフィーがのぞき込む。
「何だこれは?」
「おそらく魔法だ。紙の端に連番が振ってある。外側から順番にばらしていく様子を記録していったのだと思う」
「魔法ってのは、こんな姿をしているのか?」
フィーは精霊を見る修行はしていない。人工精霊も知らない。それらと魔法再現器を合わせた状態も認識していない。奇妙な物体としか思えないだろう。
「これが、ムジカ・フロアの魔法なら、証拠はこれで十分なんだが」
フロア家の人間が、程度の低い魔法使いなら、このスケッチを見ても意味が分からない。高い能力を持つ魔法使いなら、魔法の姿が分かるはずだが、そこまで期待しない方がいいだろう。
俺は部屋の中を漁る。ムジカ・フロアを調べていたメモでも、走り書きでもあればよいのだが。
「ほら、これでいけるだろう」
フィーが手帳を投げてきた。
「どこにあったんだ?」
「机の引き出しだ」
受け取った手帳をパラパラとめくる。仕事の記録を取ったものだ。
数日前に記録が途切れている。その前は「分解」の文字が並んでいる。さらにさかのぼると「外出」と書いてある。最後の外出はムジカ・フロアが襲われた日だ。
第三者に確認が取れる証拠ではないが、いちおうこれで何とかなるだろう。
「しかし、これまで単眼鬼と会ったときには、こんな記録なんかなかったのに。今回は、やたらと書き残したものがあるな」
「憑依した相手の生前の行動に引きずられるんだろう。まあ、自分の意志のない不完全なやつなんだろうな」
フィーは馬鹿にしたように言う。
俺は魔法のスケッチの束を何度か見返す。しばらくそうしたあと、フィーに声をかけた。
「外観から始まって、徐々にばらして描いている。外観から最後の部品まで、スケッチは十枚ある。連番が書いてあり、番号は百二十一番から始まっている」
フィーは俺の手元をのぞき込んで、じっと数字をながめる。
「魔法をばらす前に、時計職人の死体を使って、何か別のことをやっていたということか?」
「おそらく」
「何をやっていたというんだ?」
「逆のことだと思う」
フィーはあごに手を添えて考える。
「設計図か? 何かの魔法の」
フィーには人工精霊の話はしていない。しかし、図面、時計職人、魔法という情報を繋げることで、直感的に魔法の本質を理解し始めている。
「ああ。いくつかの魔法の設計図を描いていた、あるいはムジカ・フロアの魔法より、はるかに複雑な魔法の設計図を描いていた」
単眼鬼は、設計図なしでも簡単な人工精霊を作れていた。それでは足らず、時計職人を利用した。複雑な設計図を作るために。
そして部品を作りながら魔法を組み立て始め、魔力湧出口が多く必要になった。どうするか考えているときに、うまい方法を思いついた。
魔法をばらして部品取りをすればいい。
時計職人の体を乗っ取ったから、そう発想したのかもしれない。
あとは簡単だ。この王都で、襲いやすい魔法使いが多くいるところを見張った。魔法学校だ。その生徒が一人で人目を避けて出入りしていれば格好の標的になる。
俺を尾行するために人目を避けて移動していたムジカ・フロアはよい標的だった。そして襲われて魔法を奪われてしまったのだ。
「新しい魔法の創造か」
俺はつぶやき、目を細める。敵は俺よりもだいぶ先を行っているようだと思った。




