16.3 カラクリ屋敷
ウルミの実家がある近くまで来た。俺たちいつものメンバーと、暗殺組織ジンのフィーとゾーイで、ぞろぞろと街を歩いていく。
飲食店や酒場を何軒か回った。
「ゾーイさん、においは見つかりましたか?」
小柄な老人に顔を向ける。
「まだです。まあ、もともと根気のいる作業ですし」
食料品店を巡り、この地域で探す予定の場所は全て調べ終えた。単眼鬼が飲食をしない可能性もあるが、まずはセオリーどおりに捜すのがよいだろう。
「ハズレか、次の地区に移動するか」
「待ってください。この地区の本当の面白さを、アステルさんたちは堪能していません!」
ウルミは拳を握って主張する。
「いや、そういう目的で来たわけではないから」
「アステルさん、よく見てください。この地区の建物は壁の分厚い堅牢なものが多いんですよ。なぜだと思いますか?」
「金があるからだろう。貴族や富商相手の商売をしているんだから」
「それだけではありません。この地域の職人たちは、カラクリが好きな職人たちです。隠し部屋とかが、バーンとあって、売り家なんかでは、そういうのを探すのも楽しみの一つなんですよ!」
俺は、フィーと視線を交わす。
「そういう場所にこもられたらお手上げだよな?」
「すでに人が住んでいる場所に潜り込むのは困難だろう。最近売れた家、長らく売れずに放置されている家、そうした場所は見ておいた方がいいな」
不動産屋を探して情報を集める。ウルミの知り合いの不動産屋に行き、聞き込みをする。
何軒か話を聞いたあと、面白い情報を聞けた。持ち主の夫婦が消えて、放置されている家があるという。親戚などはおらず、どうするんだろうと周囲の人たちは噂しているそうだ。
「怪しいな、行ってみよう」
俺たちは教えてもらった家の近くまで行き、遠巻きに観察した。
家を見ると、手入れされていないことが一目で分かった。壁は汚れており雑草が生えている。窓は板が閉じたままで開いていない。
道に面した場所にはゴミが多く捨てられていた。きちんと掃除をしていないと、ゴミを捨てていい場所と思われて、次第に増えていってしまう。
「建物自体は思ったよりも大きいな。二階建てで地下室もありそうだ」
「私が前を通ってにおいを確かめてきます」
暗殺組織のゾーイが通りに出て、家へと近づいていった。
家の周りをぐるりと回って、別の道を通って帰ってくる。
「どうでしたか?」
「当たりです。『飢えた猟犬』が反応しました。家の中ににおいが続いています。玄関以外から出入りした形跡はありません。地下道などがあれば別ですが」
「今も中にいますか?」
「それは分かりません。ただ、可能性はあると思います」
俺たちは打ち合わせをおこなう。建物に潜入するメンバーと周囲を囲むメンバー、後衛として控えるメンバーに人数を分ける。
潜入するのは、俺とココルとウルミ、フィーとゾーイの五人。ウルミは戦闘には参加せず、扉の鍵を開けたり、隠し部屋を探したりすることをおこなう。
周囲を囲むのはフィーの配下四人だ。後衛として控えるメンバーは、グラノーラとニーナの二人にした。
ニーナには俺に触れてもらい『音声伝達』の魔法を使ってもらう。これで屋内のメンバーと、屋外のメンバーで意思疎通ができる。
屋内組の五人で建物に近づく。道は往来が多い。一人一人確認するのは現実的ではない。俺たちのことを見ている可能性は低いだろう。
建物の扉の前に来た。扉の向こうに仕掛けがないか、霊魂の目で確認する。
「特に仕掛けはない。鍵はかかっている」
フィーが近づき一瞬で開ける。その手際に俺は驚いた。
フィーを先頭にして屋内に入る。扉はわずかに開けておく。屋内の様子を探る。人の気配はない。
廊下を抜けて、いくつかの部屋を確認する。
「この壁の前で消えている」
『飢えた猟犬』の魔法を持つゾーイが指差す。何の変哲もない壁に見える。隠し扉があるのだろうか。
「ちょっと、待ってね」
ウルミはうんうんと唸る。『取り外し』の魔法を発動させようと奮闘している。
壁紙がずるりと滑って落ちた。壁面が露わになり、継ぎ目が確認できるようになる。隠し扉らしき四角形がうっすらと見えた。
「壁紙が貼ってあったのに、どうやって中に入ったんだ?」
俺は疑問に思って声を漏らす。
「逆ですよ、逆! 壁紙を注文しておいて、自分が入ったあとに壁紙を貼らせたんですよ!」
密閉させたのか。
ウルミは壁の何ヶ所かを触った。ウルミは目を細めたり、輝かせたりしている。
「スイッチは、たぶんここですね~」
壁の一部を押すと、隙間のあった場所が動いて奥へと後退した。その先に、下へと向かう階段がある。
「扉が開いたのは、下にばれているだろうな」
俺はフィーに声をかける。
「だろうな。さすがに何か仕掛けをしているだろうし」
「えっ、開けちゃ、駄目でしたか?」
ウルミがおろおろし始めたので落ち着かせる。
フィーがポケットから短い棒を出す。棒全体が淡く光を発する。
「何だそれは?」
「魔力蛍光塗料を塗った棒だよ。蛍という虫を千匹すりつぶして作ったものだ。別に魔法だけが魔力の使い道じゃねえからな」
精霊魔法に似た発想の道具か。おそらく希少な生物を利用した道具は、他にもあるのだろう。まだまだ知らない魔法の世界があるのだなと思った。




