16.1 嘘と協力
日曜日の夜、修行が終わったタイミングでフィーが話を持ち出した。顔に大きな傷のあるフィーは、にやにやと笑っている。
「アステル。私は、おまえが犯人だというフロア家の誤解を解いたと言ったな。あれは嘘だ」
しれっと口にした言葉に、俺は思考が停止した。
「はっ? どういうことだ?」
「まあ、こうでも言わないと修行をつけてもらえないからな」
「フロア家の執事がお詫びを持ってきたぞ」
「そんなの社交辞令だろう。私はフロア家にこう言った。アステル・ランドールは、自分が犯人ではないと主張している。私たちもそう確信している。だから一ヶ月以内に真犯人を捜し出す。真犯人がいなければ、やはりアステル・ランドールが犯人だろう。そう伝えた」
俺は愕然とする。フロア家の話は終わったと思っていた。だから、フィーに純粋魔法を教えた。これでは話が違うではないか。
フィーが真面目な顔をしてこちらを見る。
「アステル。おまえは素直すぎる。自分では頭が切れると思っているのかもしれないが、けっこう抜けている。まあ、そこがかわいいところだがな」
フィーは、面白そうに大笑いする。
「で、おまえたちジンは、真犯人を捜しているんだろうな?」
「いやー、なかなか難しくてね。アステルの協力が必要だなあ」
「俺に、必死こいて捜せというのか?」
「いや、協力して捜そうと言っているんだ。犯人の推測はついているんだろう。そして場所が分からない。ところでアステル。暗殺者にとって大切な能力は何だと思うか?」
「ここで謎かけかよ」
いいようにあしらわれている。くそっ、相手は一回り以上年上で、海千山千の暗殺組織の当主だ。駆け引きで勝てる気がしない。
「気づかれずに殺す能力か? あるいは現場から安全に逃げる能力か?」
「それらも確かに大切だが、それよりも前に必要なものがある」
俺は腕を組んで考える。「協力」とやらに必要なことだろう。
「あっ」
俺は気づいた。なるほど、そういうことか。
「分かったのか?」
「標的の居場所を特定する能力」
「正解だ。暗殺対象になるような人間は、身を隠すことが多い。捜し出せなければ、そもそも殺すことはできない」
「捜し出せるのか?」
「手掛かりがあればな」
「手掛かりとは具体的には何だ?」
「長く持ち歩いていたものや身に着けていたもの、あるいは体の一部」
「それは霊魂の一部でもいいのか?」
「ああ、問題ない。体の一部には、霊魂の一部も含まれる」
「それなら持っている。具体的に、どうやってたどるんだ?」
「ジンが所有している魔法の一つ『飢えた猟犬』を使う」
ジンは複数の魔法を所有していると聞いた。その中の一つだろう。
「明日の放課後、事務所で合流しよう。俺は犯人と目される相手の霊魂の一部を持ってくる。フィーは『飢えた猟犬』の使い手を用意してくれ」
フィーは大きな傷のある顔に笑みを浮かべる。
「これで協力関係は成立だな。私たちで犯人を追い詰めよう」
「ああ。まさかこんな形で、単眼鬼を捜せるとは思っていなかった」
俺はフィーと握手を交わして別れた。
◆◆◆
魔法学校に戻ったあと、グラノーラに会って事情を説明した。明日の月曜日の放課後に、フィーとココルと単眼鬼を追うことを話した。
「アステル、無茶しないでよ」
さらさの金髪に美しい青い目のグラノーラが、俺に顔を近づけて言う。
「ああ、心がけるよ」
「前の、ココルちゃんの手首を切られたときみたいなのは困るわよ。うまく後遺症なく接続できたけど、首を切られたら即死だからね」
「あー、それは避けたいなあ」
こちらが成長しているように敵も成長している。警戒して当たらないと駄目だなと思った。




